第1話 アルディオン帝国軍の来訪
場所は旧聖王国アルディオン遺跡から歩いてすぐのところ。
俺とラディアスは記憶を失っているであろうセフィアを村に連れてきていた。
宿屋の一室で寝具に座るセフィアを見ると胸元のブローチが気になった。
「なぁ。ラディアス。セフィアのそれ。王家の紋章じゃないか」
俺の思う王家の紋章とセフィアのブローチの形が瓜二つだった。
ブローチの真ん中には宝玉が填め込まれており不思議な存在感を放っていた。
なにを思ったのか俺はセフィアのブローチを触ろうとした。
「っ!?」
凄まじい反応だった。まるで形見を庇うようだった。
「あ。ごめん。つい」
ってそんな軽い物じゃないか。でも気になるな。もしかしてこの子は。
「シオン。その子はきっとどこかの姫君だ」
ああ。そうだろうな。もしくは――
「俺達がいたところは旧聖王国アルディオン遺跡だ。ということは――」
もうセフィアの正体が解ってきたような気がする。きっとセフィアは。
「アルディオン帝国軍のお姫様?」
うん。我ながら解らない。どうして帝国軍のお姫様があんなところにいたんだろうか。
「いや。早合点はよくない。シオン。もしかしたらセフィアは追われているかも知れない」
うん? 追われている? 帝国軍に? どうして?
「詳しい事は解らないが――。なんだ?」
急にラディアスの言葉が詰まった。さっきまで静かだったのに住民が騒ぎ始めた。
「大変だー! 皆ー! 隠れろ! 帝国軍だぁ!」
な!? 両耳を研ぎ澄ませて聴くと帝国軍が襲撃にきたらしい。セフィアが狙いなのか。
「とにかくシオン。ここは危ない。逃げるぞ」
セフィアを連れてどこまで逃げれるかなんて判らない。それにセフィアは記憶がない筈だ。
「なぁ。ラディアス。これ。逃げて解決する問題なのかな」
この時の俺は怖い事を言っていたなんて自覚はなかった。ただひたすらにセフィアが気掛かりだった。
「な。お前。人を殺す気か。いくらなんでもそれは駄目だ。よりによって――」
相手が帝国軍なんて関係ない。今ここに助けを求めているセフィアがいるんだ。しかも――
「俺! こんなあどけないセフィアがそんな眼で見られるのは嫌だ!」
だってそうだろう。確かに人殺しはいけない事だ。だけど――
「俺だって嫌だ! でも! 人を殺したら俺達の約束は!」
あ。そうだ。俺とラディアスは幼少期の頃に人を殺した事がある。俺達はみなしご奴隷だったんだ。
「自由が欲しいのは俺達だけじゃない筈だ。それは解る。でも! もう……人は殺めない」
思い出したよ、鮮明に。俺とラディアスは自由を得るために代償を払った。罪を償う事なく忘れ去られるのを待ちながら逃げていた。だけどたまにこうして思い出す。
「ごめん、ラディアス。今は逃げよう、あの時みたいに」
お互いに間違っているのかも知れない。逆もあるかも知れない。だけど――
「ああ。今は逃げてセフィアの記憶を取り戻させる事が重要だ」
こうして俺とラディアスの意見が合致した。そんな途端に急に扉を叩く音がした。果たして三人の運命は。