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第7話

第4話~第7話まで世界観の説明がメインの話になります。

 この家の使用人はライナーとリリーの2人だけである。


 なぜ7大貴族の1つであるヒンデンブルク家に2人しかいないのか。


 答えは簡単。お金がないからである。



 闇属性の家系であるヒンデンブルク家以外の他6家はかなり裕福である。


 魔法を使った事業はもちろん無料ではない。金銭が発生する。そのため、役に立つ属性を持つこの6家はこの国において名実ともに貴族と言っても過言ではない。もちろん()()()()()()()()()()貴族である。それぞれの地域の長として実権を握っている。


 貧乏なヒンデンブルク家の屋敷は、100年ほど前に隣国との戦争で活躍した私のお爺さんのお爺さん、つまりひいひい爺さんが建てたものである。


 当時は豪華で立派な屋敷だったのかもしれないが、闇属性の需要がなくなると共に家の補修も滞り、今では見る影もない。


 他の6家とは異なり、首都ソレルに本宅を構えていることがかろうじて威厳を保っていると言える部分だろうか。と言っても、それさえ代々の王からの命令で他の地域に移ることを禁じられているからという情けない理由からなのだけれども。


 ではなぜ母のイルザは豪華なドレスを着、すみずみまで磨き上げられた美しい肌や髪をしているのか。


「奥様は亡くなられた旦那様――ヴァルター様の側室で、エスト地方ジュニパーベリーのお生まれでございます。魔法が使えない庶民ではございますが、今勢いがあるシュタイナー商会の商会長ゲラルト様のご息女です。私も、元はシュタイナー家で執事をしておりました。」


 今日最後の授業はヒンデンブルク家についてである。


 先生となって教えてくれるのはライナーだ。


 ライナーの話から、イルザは実家のお金を使って1人だけ贅沢な暮らしをしていたのか、と納得する。


「ゲラルト様は資金を援助する代わりにイルザ様との結婚を提案なされたのです」

「政略結婚ですか」

「その通りです」


 役立たずの闇属性の一族であれ、庶民のゲラルトは7大貴族とつながりを持ちたかったということか。


「では、お父さまの正室は?」

「エルフリーゼ様でございますね。マルクス様の母君で、貴族のシェーンベルク家のご息女でございます。旦那様とは恋愛結婚でございました」

「今はどちらに?」

「旦那様が亡くなられてすぐ、ご実家があるフェネグリークに戻られました。フェネグリークはここより西のヴェステン地方の中で一番大きな街ですよ」

「お兄さまをここに置いて?」


 まさかエルフリーゼも子どもへの愛情が少ないタイプなのだろうか。


「マルクス様は旦那様が亡くなられてすぐ中等部にご入学され、寮に入られました。初等部は各地域にございますが、中等部は首都ソレルにしかありません。この屋敷からならば通うことは可能ですが、マルクス様はイルザ様と折り合いが悪く……」

「一緒に住みたくなかったのですね」

「……はい。」


 気持ちはわかる。彼女と一緒では心が休まらないだろう。


「エルフリーゼ様はマルクス様と離れることを随分寂しがっておられました。ですがマルクス様の意思を尊重し、寮に入られることを納得されたのです」


(お父さまとお兄さまがいない屋敷に残っても居心地が悪いだけだから実家に帰ったのね。常識人っぽくて良かった)


 イルザとの出会いが衝撃すぎて、この世界の母親は皆こんな感じなのかと変な勘違いをおこすところだった。


 イルザも優雅な生活をおくれる実家に帰りたかったのかもしれないが、さすがに当時5歳の私1人を残して全員屋敷からいなくなっては外聞が悪いからしぶしぶここに残ったということか。


 私は1人で納得する。


 つまり昨年高等部を卒業し、今年から魔法省で働くお兄さまがこの屋敷に戻ってこられたからさっさと実家に戻るというわけですか。


「ヒンデンブルク家について最低限知っておいていただきたいことはこれで全てです。あとはアベニール学園でのご学友や先生方についてご説明しなければなりませんね」

「学校や友人には記憶喪失になったことを伝えて本人からまた忘れてしまった内容について聞けば良いのでは?」


 友人なら事情を説明すれば心配されることはあっても、邪険にされることはないだろう。


 しかし、ライナーはかぶりを振る。


「それはいけません。奥様から記憶喪失になったことを外にもらさないようにときつく言われておりますので」

「なぜですか?」


 別に隠すようなことではないと思うのだが、何か理由があるのだろうか?


「奥様は『不注意で階段から落ちて頭を打って記憶喪失だなんてヒンデンブルク家の恥です。私の名誉のためにも外にもらさないように』とおっしゃっておりました」

「そんな理由ですか? もっと他にあるのでは?」


(やっぱりお母さまの行動には裏がある気がする)


 そう思って少しきつめにライナーを問いただしたのだが。


「それ以上のことはお答えできかねます」


 ライナーは眉を寄せ、困った顔をしながら首を左右に振るばかりで埒が明かない。


(仕方ない、彼に聞くのは諦めよう)


 自分に良くしてくれるライナーがイルザに叱られないよう、私は【記憶喪失を隠して学校に通う】ことを承諾した。

【あとがき】

 ようやく世界観説明だけの退屈パートが終わりました。ここまでがプロローグと言っても良いぐらいなのですがこれを第1章とさせていただき、次回からの第2章で学校パートに入ります。

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