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新しい住民

作者: 京本葉一



 近所の空き家が取り壊された。

 一軒だけではない。解体業者の準備が整い次第、次々と取り壊されている。老朽化した家だけではなく、使われていない建物は、すべて取り壊されるようだ。

 方針を決めたのは地元の自治体ではなかった。いつの間にやら法案が審議されて国会に通されていたらしい。同じような解体作業は全国で行われていた。

 空き家問題の解消は喜ばしい。しかし、解体費用はすべて税金でまかなわれている。どうやら土地の買収もおこなわれているようだ。

 土地をどんなふうに活用する気なのか、政府、役人の説明はない。





 空き地となった場所に、家を建てるらしい。

 一軒だけではない。建築業者の準備が整い次第、次から次へと住居がつくられている。空き家が増えつづけた要因は、そのままであるにもかかわらずだ。

 国会を通過した法案のとおり、自治体が業者に指示を出している。建築費用は相当なものだが、政府は国債を発行して予算を組んでいる。

 どうして少子化対策を打ち出すこともなく新築物件を量産しているのか、政府と役人の口から、まっとうな説明は聞けないでいる。





 近所の新築物件には、誰も住んでいない。

 一軒だけではない。完成した新しい家は、ひとつも売りに出されない。月に二回ほど清掃業者がやってくるだけだ。人が住むような家ではない、という噂も聞こえてくる。

 法案の通りに粛々と。それ以外の発言すらないまま、政府は収支バランスを気にすることなく家をつくりつづけている。どうやら一般会計だけではなく、審議すらされない特別会計からも金を流している。

 どんな意味があるか?

 ここまでくれば考えなくともわかる。

 これは政府と役人が業者に金を流しつづけている公共事業。ようするに利権だ。空き家問題の解消をきっかけとした一連の事業に意味などなかった。

 政治家や役人たちも、これで景気がよくなるとは考えていなかったのだろう。まともな説明をしなくとも国民は文句をいうだけであり、自由に既得権益をつくりだせると確信している。国民の犠牲を当たり前のものと認識している。

 政治家や役人たちは、甘い汁を吸うことしか考えていないのだろうか?

 自分たちは支配者で、国民は奴隷とでも思っているのだろうか?

 そして、これは私たちの責任なのだろうか?

 彼らは権力を得るための組織票をもっているが、しかし、投票率が高ければ問題ではない。搾取されつづける要因は、私たちにあるのも確かなのだろう。

 しかし、それでもわからない。

 なぜ彼らはそんなことができるのだろう。

 近隣の大国は狂ったように軍事力を強化しているというのに……いや、国が亡ぶときというのは、こういうものなのかもしれない。


 







 ピカッ☆





 いつの間にか世界が平和になり、腐敗した政治家や役人がごそっと姿を消したころ、近所に新しい住民がやってきた。

 一軒だけではない。大勢の移住者がやってきて、旧政権がつくりだした負の資産を有効活用してくれている。

 ニュルニュルとした触手がセクシーな方々だ。

 雨が降ると外に出て、みょんみょんと体を伸縮させている彼らだが、この国の水が肌に合うらしい。前々から移住したかったと聞けば、国民として嬉しくないはずもない。

 私たちは穏やかに暮らしていけるだろう。姿かたちはユニークでも、やさしくありたいと願う気持ちは変わらないのだから。

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