目に映るもの
私は見えない 正しくはなりつつある
言葉の如く 視ることが危い
目の前に視線を送るも 霞の中を彷徨う様であり
少し隔てた先は薄暗く 形その場に陽炎の如く揺らぎ場にあらず
更に先に至っては色が映る霞、亡霊の如くそれはあり。
翻って 目前は如何か
瞬きをすれば虻の様なモノが無数に飛び交い
次第に漆黒の穴がポツポツと現れる。
心さえ見えぬと言うのに
今そこに存在すると言うのに
コウベは重く子供のやうなものがのし掛かり
時に稲妻のような閃光がよぎり
両眼の蓋は垂れ 夢かうつつか見分けがつかぬ
気付くと妻の顔を撫でる
この愛おしい記憶を残さんがために
いつの間にか 心から視界から色褪せる不安が為に
「どうしたの?」
妻は問う
「何でもないよ。気が落ち着くからさ」
妻は笑う
いつまでも いついつまでも
共に老いても その先もなお
私には妻といるこの世が とても愛おしく切なく
そして とても眩しく 観えた。