週刊ストーリーランド
それは一見、ただの腕時計に見えた。
最近、会社に行くのが嫌になってきた。無能な上司はほとんどの仕事を私に押し付けてくる。自分でこなすということを考えていない。無能な部下はわからない部分を何もかも私に聞いてくる。自分で考えるということをしない。さらに今日は周りが起こしたミスを私のせいにされてしまった。
仕事を終えて街に繰り出し、しこたま飲酒をした。まだまだ飲み足りなかった私は、もう一軒新しい店を探そうと、普段は入らない路地裏を通っていた。
薄暗い路地裏にその老婆はいた。占い師のような風貌で、趣味の悪い紫色の布を羽織っていた。気味が悪いので無視して通り抜けようと考えた。しかし、声をかけられてしまった。
「大分お困りのようですね。あなたは周りの人がいなくなれば良いと思っていらっしゃる。」
いきなり意味不明なことを話しかけられて驚いた。世間の常識を知らない老婆だ。そんなことを急に話しかけられて答える人間などいない。現在2009年だ。
しかし、その意味不明さ、非現実的な紫布などについ惹かれてしまった。酔いも手伝ったかもしれない。気が付くとその老婆に話しかけていた。
「上司も部下も急に原因不明の病気で死んでくれたらなあ…。」
すると老婆はふところから腕時計を取り出した。
「これは病気時計というものです。誰かのことを頭に思い浮かべながらアラームをセットすると、アラームが鳴り響いた瞬間に思い浮かべた相手が病死するという優れものです。」
なんて夢のようなアイテムだろう。私は調子に乗って嫌いな上司と部下を思い浮かべながら1分後にアラームをセットして鳴らしてみた。アラームがなった瞬間、私はぼんやりとした憂鬱が吹き飛び気分の晴れる思いがした。
そして翌日、会社に行くと上司も部下もいなかった。二人とも昨夜、原因不明の病気で死んだという。私は動揺した。まさか実際に死んでしまうとは。体中から汗が噴出した。
それからの日々はとにかく怖かった。私は人殺しになってしまったのである。私が殺したと周囲に知られてはならない。その思いが私を責め立てていた。夜に眠れることが無くなったし、嘔吐の回数も増えた。約二年経ったある日、ついに時計の電池が切れ始めた。もはや正確な時刻を刻んではいない。そしてほぼ動かなくなった。私は時計を見つめる。時計の長針が進みそうで進まない。ついに止まったと思った瞬間