非日常はいつだって唐突に
時刻は16時をちょっと過ぎた頃。日は既に傾き始め空は朱に染まっていた。
今日の授業は全くと言っていいほど身が入らなかった。ずっと綾音や陸斗の言ってた事について考えていたからだ。
「コンプレックスに言い訳……か」
考え方は違えどどちらも正しく思春期を指していた。しかし、二人の意見を聞いても尚俺は思春期というものが分からずにいた。いや、正確にはどちらも俺に当てはまらなかったというのが正しい。
「やっぱり俺が変なのかなぁ……」
誰に言うでもなくぽそりと、朱に染まっていく空へと呟く。
思春期。思春期とは何なのか。考えども考えどもやはり理解ができないものだった。
「……帰るか」
やがて考えるのに疲れた俺は、誰も居なくなった教室を後にする事にした。
帰ってからも特になんの問題なく一日が終わっていく。
俺はこんな日々が好きだしこんな平和が続いて欲しい。イレギュラーなんて要らないしアブノーマルは求めていない。
そんな事を考えていた。
そうだよ、イレギュラーってのは気持ち悪いんだよ。背筋がゾワゾワし吐き気を催す。しかし、やがて意識は微睡んでいき次第に夢の世界へと沈んでいった。
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気が付けば外は既に明るみを帯び始めていた。時計を見ると時刻は4時。学校に行くには流石に早すぎるしかといって二度寝する気も起きない位に目覚めはスッキリだった。
どうしようかと考えた挙句、仕方なくテレビをつけてニュースを観ることにした。
『昨夜未明、変死体が…………』
瞬間、ゾワッとした感覚が背中を撫でる。
アナウンサーの淡々とした話し方が、あまりにも自然過ぎて未だに夢にいるのではないかと錯覚してしまう。やけに現実味が薄い。
今……なんて言ったんだ……?
『身元は不明ですが星ノ宮学園のものと思しき制服を来ており…………』
制服、星ノ宮学園、変死体。単なる点でしか無かった言葉が結ばれ線となる。
俺が嫌悪し決して求めない世界が、体に、心に絡みついていく。
「……嘘だろ」
それはうちの生徒が死んだから、というのもある。だがそれ以上に俺たちの住んでいる場所で殺人事件が起きたということ事態が異常なのだ。
俺たちの住む神薙区は東京特例区として新たな土地拡張の一環として政府が50年の歳月を掛け作り上げた人工島である。
大きさは東京ドームにして約15000個分。
おおよそ琵琶湖位のサイズの島だ。
人口は約200万程度で東京都の4分の1程の人が住んでいる。
では何故この島で殺人事件が起きたのが驚きか、というところなのだが。
実は犯罪件数はこの島が出来てから今に至るまで0だったのだ。
というのも、この島に入るためには幾つもの厳しい入島の審査があるため、生半可な人間じゃ中に入ることすら叶わない。
ただの島に何故ここまで厳重な警備を、と思うかもしれない。
そう、ただの島ではない。ここは軍事施設としての用途も兼ね備えている。
それ故に万が一の事も考え、徹底した入島の審査が行われているのだ。
俺はテレビを見つめたまま動くことが出来なかった。この島始まって以来初の事件、しかもそれが殺人。恐らく俺だけじゃない、この島全ての人間が戦慄することであろう。
「一体誰がこんな事を……」
そこまで考え俺は2人の親友の姿が頭をよぎる。まさか、と思う。あの2人も同じ星ノ宮学園の生徒、被害者になっていても何らおかしいことではない。
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「二人に何もなくてよかったよ……」
あの後すぐに電話をした所2人とも無事だったようで、今はいつも通り3人で登校をしている。
「いやはや、まさかこの島に住んでて殺人事件に出くわすとはねぇ……流石の俺も予想してなかったわ」
と、陸斗はいつもと変わらぬ様子で飄々とした様子で話している。
しかし、陸斗の話にふとした違和感を感じた。出会す……?まさかと思ったその瞬間。
「あんたあの現場にいたの……?」
俺が聞くよりも先に綾音が驚いた様子で口を開いた。
確かにさっきの物言いだとその場に居合わせたことになる、つまり第一発見者ってことじゃないか。
「まぁ、一応な。だから今日はあんま寝れてねぇんだよ。事情聴取だなんだって色々聞かれてよ、結局朝まで取り調べ。うんざりだよ」
よく見ると確かに陸斗の目の下にはクマができているし、若干やつれ気味だ。相当長い時間箱詰めにされた事が表情から窺えた。
「第一発見者ってことは容疑者として疑われたの……?」
綾音が聞くが、それに対して陸斗は首を横に振りながら話を続けた。
「いや、死亡推定時刻が昨日の夕方6時らしくてさ。俺その頃まだ部活だったからアリバイありって事で容疑者からは外れてる。というか死んだ奴と何ら接点ないしな俺。名前も知らんし」
ニュースでは伏せられていて分からなかったが陸斗が知らないならそれより交友関係の狭い俺は尚のこと知るわけもない。そしてそれは俺と同じような交友関係の綾音も同じだ。
しかし今はそんなことよりも今までと変わらずの3人はこのままでいられる。それが何よりもの安心だ。
「まぁ何にせよ無事なら良かったよ。俺朝から冷や汗かいちまったし、何せこの島始まって以来だからなぁ」
「まぁそうだなぁ、俺も流石にビビったわ」
俺の言葉に陸斗が続きそしてそれに釣られるように綾音も言葉を紡ぐ。
「私もまさかこんな身近で事件が起こるとは思ってもみなかった」
3人共やはり同意見のようだ。それ程までにこの島での犯罪というのは異常性が高い。ましてや殺人。しかしここの警察官は軍人上がりの人が多いと聞くし不安に思うこともないだろう。
「まぁ警察がなんとかしてくれるって」
楽天的と言われればそれまでだが悩んだって答えの出ない悩みをしたって意味が無いし俺は早々に気持ちを切り替えることにした。
しかし、この時誰も知らない。これがまだほんの序章であるということを






