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よくあるフラグ

存在感。


今の俺はさておき、去年の俺には失われていた。

だけど、今のクラス、と言ってもまだ始まってから二週間位しか経っていないのだが、それでも馴染めたかと言われればやはりノーと言わざるを得ない。

だから、どうやら今の俺にも存在感はないようだ、なんて言うこともできた。

・・・そうなのだが、確かにそうなのかもしれないが、しかし俺は既に友人二人がいる。

これは何というか、心強かった。

場合によっては、ぎこちない会話でその後二度としゃべらないこともあり得ただろう。

つまり、小夏に拒絶され、小春に終始異物を見るかのような目で見られ、俺はまた誰とも話さない、認識されない一年を送るのでした・・・

そういうパターンは存在し得た。

だがそんなことはなく、それどころか反りが合うというか意気投合するというか、確実に俺は認識されていた。


だから、もしかすると叔父はクラス全体とかそんな範疇で存在感の有無を問いただしていたのだろうか、そんなことは知らないが、俺はとりあえず


「あるよ。友人が二人できた」


とだけ答えたのだった。


「ふむぅ、そりゃぁ良かったぁ。君ときたら話は上手なくせに中学でもクラスの隅っこをキープしてたもんだからさぁ、今もじゃないかなんて思って」

「そのときから俺は存在感の薄い人間だったのかよ」

「叔父である僕が君に初めて会ったのが、君が中学に入学してきてからだろう。だからそれ以前から存在感が薄かった可能性はあるねぇ」

「そうなのか・・・」

「記憶力が良くないのは良くないことだ。まぁ君は鍛錬を積んでついに虚無になったってわけだぁ」

「鍛錬を積んだ割にいやな結果だな」

「仕方ないさぁ。こんなに認識されないことがあるのかって話だけど、名簿にはちゃんと、名前あるんだろぉ?」

「ああ、授業中とかその名簿見て俺が当てられたりすることもある」

「ふぅん。・・・それと、出席番号も関係してるかもしれないなぁ」

「ん? どういうことだ?」

「君は今まで『出席番号1番』というのがデフォルトだった。だから、必然的に初めにあてがわれる席は隅っこになる・・・」

「ははは、流石にこじつけだろう。隅っこの席にいて目立たないから、そのうちに認識から薄れ、みんな俺を知らないってことになるのか?無理やりすぎじゃないか」

「勘の良いのは良いことだ。だけど発想力が良くないのは良くないことだ。言ったろう、君はそれほどまでに存在感が薄れている。薄れすぎて虚無になったんだ。クラスの隅っこにいる奴なんていっぱいいるけど、君はその中で群を抜いていたってだけのことだ。受動的アプローチは、当たり前だが効かないぜ」

「思えばその二人も俺から話しかけたっけ」

「そうかい。あぁ、誤解される前に言っておくが、存在感が薄いからって君は幽霊になったわけじゃぁない。書類上君の名前があるからそれによって君は認識される。何かの順番待ちのときも、そこに、在る。ただ、誰だっけこいつってなったときに誰だかわからない。それだけのことだ。いったん認識されてしまえば、その二人の友人とやらはちゃんと君を認識してくれる」

「理解力がない俺でもそれくらいは読めるよ」

「念のためだ。まぁもし君が今までの生活に嫌気がさすなら、アピールすることだなぁ」


アピール・・・やはり解はその一つしかなかったようだ。


「で、叔父さんは何しに来たんだ?」

「それを言いに来た。もう僕は帰るよ」


時計の針は午後四時を指していた。

あれ・・・? 勤務時間中じゃないのか。


「あぁ、そうだ。これを言うのを忘れてた」


そう言って振り返る。


「君が誰かに認識されてないように、誰かも君に認識されてないことって、無いのかなぁ」


風が吹く。四月下旬。桜はもう散り始めていた。




さて受動的かつ堕落した日々を送ってきた俺が何か大きなことを成し遂げたいなどと願ったわけだが、どうやらそれは友人関係の形成ということを経て、そして今他人からまともに認識されることまで移った。

言われてみれば地味だけど大きな、それはそれは大きな目標だった。

考えてみれば何か大きなことを成し遂げて、「で、結局あれって誰がやったんだっけ」なんて言われたら悲しいことこの上ない。

目立つのとは少し違う。だが最低限認識される必要があった。

しかしアピール。そして偉業のような何か。

これら二つを同時に解決する策は俺には思いつかなかった。


勉強。

数学を除いて平均スレスレ、国語に至っては赤点連発の俺がそこでトップに名を連ねるなど至難の業だった。

よく考えたら数学だって化け物級にできるわけでもない。

まあ赤点連発の割には国語教師に名を憶えられていない俺は、これに関しては良かったかもしれない。

運がいいのか微妙ではあったが。


部活。

高校生が輝けると言えばこれだった。が、二年生のこの時期になるとどこへ入っても確実に足を引っ張って終わりだ。

目立たないようにすればいいのだがそれだと本末転倒だろう。

自ら部活を作っても入る人がいない。

そういえば小夏と小春は文藝部に入ってたっけ。

いや、一応兼部は可能なのだが、下手に巻き込むのは悪い気がした。


・・・あれ?ほかに何かあったっけ。

叔父に発想力がないと指摘された俺だったが、それにしては乏しすぎではないだろうか俺の発想力。


いや、捻りだすんだ。

いつも何かを考えてばかりだろう、俺。



とは言え、捻りだせと言われたからといって何か思いつくものでもなかった。

そのうえ、美味しい話があるはずもない。

別々に成し遂げるにしても、後者に関しては少なくとも簡単に手の届くものでもなかった。

妥協も大事かな・・・。


そう思いながら校舎の中を歩いていた昼休み、いつの間にか見知らぬところまで来ていたようだった。

・・・戻るか。

そう思い角を曲がった矢先、見覚えのある姿が視界に入る。

気が付けば声をかけていた。


「小春。何をしてるんだ?」

「ああ、こんにちは拓先輩。生徒会でいらない書類が溜まったんで処理しようとしたところですっ。ほんとは三月中にするはずが、引き延ばして今になっちゃいました」


てへっ、なんて微笑みながら、部屋へ戻っては小春はその書類の山とやらを積み上げていきいくつかを廊下に出す。

何の書類かは検討すらつかなかったが、その数は多かった。

書類のほかにも何に使うのかわからないがおそらく不要であろう冊子の入った段ボールがいくつか置いてある。

扉の上を見ると「生徒会準備室」と書いてあった。

無論知らないし、こんな部屋があることを俺は今初めて知った。


と、小春は積み上げた束を段ボール箱に入れ、おもむろに持ち上げた。


「今から・・・これを・・・ゴミ置き・・・場に、よいしょっと・・・」

「て、手伝うよ!!俺が持つ!」


自然と、無意識に俺は小春の手から段ボール箱を取り、抱え込んでいた。

・・・お、・・・重い。

想像していたよりも重たかった。

けれど、助けをする機会があるときに助けないでその場を立ち去ることなど、俺にできるはずなかった。

友達だから尚更。


小春は別の、同じく処分する中身入りの箱を持ち、小走りでゴミ置き場とやらまで行く俺と並ぶ。


「いきなりありがとうございます。い、良いんですかね、全然関係ないのに手伝ってもらっちゃって」

「悪いわけないだろう。それに関係ないことないよ。・・・そういえば小春は、生徒会の書記かなんか何だっけ。他のメンバーはいないのか?」

「みなさんそれぞれの業務で忙しいみたいです。手の空いた人がやる。これが原則ですっ」

「でもあの量全部なんじゃないのか・・・?」

「え?そうですけど?」

「あ、いや、性別年齢にかかわらず、あの量を一人でやるのはハードすぎるだろう。会長とか忙しくなさそうだけどなあ」


言って俺は、アリスの顔を思い浮かべる。


「会長が案外一番忙しいかもですよ。あ、あそこの倉庫です」


校舎から離れて建っていた古びた倉庫の、建付けの悪い錆びた扉を開け、小春と俺は処分する中身入りの段ボールを置いた。

食堂のメニューを豊富にするより倉庫の建て替えにお金をかけたほうが良い気もするが、まあそこは俺が口を挟むようなことではなかった。


「これをあと何往復かですね・・・。昼休みの間に終わらないかもしれないです・・・」

「放課後でも手伝うよ!どうせひ、・・・・・・暇だしな」


まあ暇なのは事実だった。だからこそコンプレックスがあるのかもしれないが。


「ほんとですか!? 良いんですか!?」


小春の顔が輝く。

喜んでくれているのか・・・。

こっちまで嬉しかった。

居場所を得た嬉しさもあると思う。

もうなんか、それだけで十分な気もした。

だから俺は、いきなりではなく徐々にできるところからしようという、ありふれていて王道な手段を取ろうと決め・・・


「あのさ、小春。これからそういう雑用的なことがあったら、な、なんでも頼んでくれよ。勿論・・・生徒会の邪魔になるならここで引くけどさ、でも俺、暇だしそれに・・・小春と俺は友達だから・・・」


言った。

・・・・・・すごく・・・すごく臭いことを言った気がするが。

本心とは言え、言って恥ずかしかった。

が、小春はそれに対してにっこりと微笑み、


「では、よろしくおねがいしますっ!先輩っ!!」


と、快活な声でそう返してくれたのだった。



それから何日か、小春の手伝いをした。

勿論毎日処分物を運ぶ仕事ではなく、中庭や校舎を掃除したり、書類やプリントを印刷して運んだり・・・。

まあ雑用とは言えども、ここ数年までの俺には考えられないくらいの行動力だった。

例年、この時期の会長と副会長は新年度の部活の予算がどうとかで、連日会計引き連れ各部活と論争を繰り広げているとかいないとか。

だから特に何もすることのない書記が必然的に暇を持て余すことになるのだとか・・・。


生徒会って四人で回してるのか・・・

あとおそらくは小夏、去年一人でこれをしていたのか・・・

うろ覚えだが、その時の俺は帰ってネトゲ三昧だったような気がする。

なぜか申し訳なく思う俺だった。


「四人というより、会長一人ですかねー」

「え? そうなのか?」

「はいっ。権限はほぼすべてアリス会長に集まっているといっても過言ではないでしょう。といっても会長の提案が非の打ち所のないものであるがゆえに、ほかの三人がそれに二つ返事ってのが大体のパターンですけど」

「にしては俺のよく知っているイメージと違うというか・・・。生徒会って形式的な行事の進行と多少の地味な事務作業で終わるイメージしかなかったもんだから・・・なんか、教師に一任されて本当に自治的に運営してるのがすごいなって・・・」

「見ているものがすべてとは限らないってことですかねー。権力っていうと悪いイメージが付きまといがちですが、アリス会長は適切にそれを行使してるあたり、何一つ問題ないんです」

「ははは、国家みたいだな。ここの生徒会って」

「へへっ、言われてみればそうかもしれませんねっ」


生徒会の絶大な権力とやらは、アリスの尋常ではないほどの人望に裏付けされていたのか。

その力を俺はあまり、というよりほとんど知らないわけだが、あのときアリスが処罰なんて言葉を出した時点で明らかなことだったのかもしれない。


小春と俺はとりとめのない会話を交わしつつ、ひたすら作業に励む。

たまに小夏も手伝ってくれたりしたりしながら。


「もうあらかた終わりですね」


やることが無さすぎるが故にこの数日の放課後を使ってあらゆる雑務をこなしてしまった。

当面の間、することが無さそうだ。

それを見かねた、というわけではないだろう。純粋に楽しく仕事をしていた俺を快く思ってくれたのだろうか。

小春は


「拓先輩」


そう俺に声をかけるや否や続けて言った。


「良かったら、生徒会に入りません?」

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