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Mundus ex machina  作者: 嘘(仮)
第二章 暴君の山
9/29

出発

第二章開始です

 自称神の打倒を決意した日の夜、モルト達は地図を見ながら最初の行き先について悩んでいた。

「どうしたものか…」

「いきなり手詰まりですね…」

 この二人が行き先で悩んでるのには非常に厄介な理由がある。それは現在の自分たちの位置である。

 地図によると彼らは今、大陸の最西端にいる。そして、彼らがそこからいける場所は砂漠か死の土地と呼ばれている場所の二か所しかない。

「砂漠には遺跡があるが、死の土地には何もないな」

「でも、砂漠に行くには準備が必要ですよね。街に入れない私たちに準備が出来るでしょうか?」

「じゃあ、死の土地に行くか?」

「あそこは砂漠と同じくらい不毛な土地らしいですし、危険な化け物がうろついているとも聞きます」

「どうしたものか…」

 このように危険な場所以外の選択肢がないため彼らは悩み続けていた。

 無論、彼らも自称神を倒すためならば命を賭けることさえ厭わない覚悟でいる。ただ、不可能なことに挑戦して無為に命を失うようなことはしたくないのだ。

(俺たちに取れる行動は二つか。どちらのほうが生存確率が高いか)

 この状況で彼らに出来ることは大きく分けて二つである。街に侵入し、装備を揃えて砂漠に向かう、またはこのまま死の土地に向かうかである。

 この二つを考えたとき、どちらが生き残りやすいかと言われても答えることのできる人はおそらくいないであろう。そんな、究極の選択に最初から出くわしたのだ。悩んでも仕方がないといえる。

 悩み、悩んで、悩み抜き彼はついに結論を出した。

「死の土地へ行こう」

 その結論にローナは目を見開いて驚く。どうやら彼女の考えと違っていたようだ。

「なぜ死の土地なんですか?砂漠のほうがまだ安全だと思います。それに死の土地には何もないんですよ」

「何もないからこそ行くんだ」

「?」

 ローナが不思議そうに首を傾げる。

「よく考えてみてくれ。俺たちは追われて、さらに俺たちの行き先もおそらくばれているだろう。だとしたら、奴らは確実に遺跡付近に刺客を送り込んでくる。ただでさえ装備が整い辛く危険な砂漠に敵が増えるとなれば、俺たちが生き残ることはほぼ出来ないと思ったほうがいい。だから、死の土地なんだ。それに、そこに関する情報は噂話しかないだろう?もしかしたら、そんなに酷い場所ではないかもしれない」

「遺跡はどうするんですか?」

「とりあえず放置する。他の遺跡に砂漠用の装備などがあるかもしれないからな。なくとも刺客に対抗する手段くらいはあるだろう」

「…分かりました。行きましょう死の土地へ」

 ローナは渋々了承した。

「だとしたら最初の目的地はどこにするんですか?」

 その問いにモルトが地図を指差しながら答える。

「最初の目的地、それは遺跡が唯一人類生存権に存在している場所。スラム街だ」


 翌朝、モルト達は出発の準備をしていた。

 モルトは洞窟から出て行く方向を確認する。

「とりあえず、この山を超えないといけないのか」

 彼らが目指す方向、そこには巨大な山が立っていた。

 その山は非常に険しく、まるで彼らの旅路が困難極まるものだということを暗示しているかのようにも見える。

 だが、彼は感じていた。自分たちの旅はこの程度の厳しさでは済まないということを。この山はその最初の試練なのではないかと。

「お待たせしました」

 ローナが洞窟から出てくる。

「まずはこの山越えですか。最初から厳しいですね」

「こんなものこの先のことを考えれば序の口だ」

「それもそうですね」

 二人は決意新たに山に向かって歩き出した。


 時は二人の出発より少し遡る。アビレスでフードの男‘イーノス’は壊れた街をさらに破壊して回っていた。

「くそっ!」

 彼の手から噴出された炎によって壁や地面が溶けてゆく。

「随分荒れているようだね」

 不意に彼の脳内に声が響く。

「ちっ、セットか。テレパシーを使うときは事前に合図をよこせって言っただろうが。いきなり喋られるとムカつくんだよ」

「そんなこといわれたってなぁ。事前に合図を送る手段がない以上どうしようもないね」

 その対応にイーノスはさらに機嫌を悪くする。

「ふざけるな!それを何とかしろって言ってんだよ!」

「おお、なんと理不尽な」

 イーノスが怒鳴り散らすがセットにはどこ吹く風。手慣れた様子で適当に受け流す。

 それもそのはず、彼らは幼少のころから共に育ってきた。所謂、幼馴染というやつである。イーノスは幼いころから機嫌が悪いとこの調子なのでセットはとっくに慣れていたのだ。

「そんなことよりイーノス。君にお客さんだよ」

「はぁ?僕に客?誰だよこんな時にめんどくさい」

「そんなこと言ったらだめだよ。なんたってお客さんって陛下のことだから」

 その言葉を聞いた瞬間、イーノスの表情が一変する。先ほどまでの苛ついた表情とは打って変わり非常に真面目な顔つきになる。

「やぁ、イーノス君。調子はどうだい?」

「はっ!問題ありません。ところでどういったご用件で」

 口調までもが丁寧なものへと変わる。

 そうなるのも当然である。なぜなら、今イーノスが会話している相手、それは人類生存圏における最高権力者の皇帝その人であるからだ。そのような人物と会話すればよっぽどの馬鹿でもない限り、彼のような態度へと変化するであろう。

「用件は君も既に分かっているだろう?もちろん今回、君に頼んだ無能力者の街の破壊および遺跡の情報の隠匿についてだよ。それで、どうだったかな?」

 イーノスは内心焦っていた。彼は自身の油断、慢心により無能力者二人を逃がしてしまっている。

 それだけならまだ良かったかもしれない。彼の記憶が間違っていなければその二人は遺跡にいた。つまり、情報が洩れてしまっている可能性があるのだ。

 そう、彼は今回の任務の8割方は失敗に終わらせてしまっているといっても過言ではない。

 そのうえ、事が起きてから数時間後の皇帝からの連絡。これで焦るなというほうが無理である。

「ま、街の破壊は滞りなく行いました。現在、街は人が住めるような環境ではありません。住人もほぼ全員を殺害したため復興するのも不可能かと思われます。遺跡も破壊したためこの付近一帯でのスキルの行使が可能となりました。また、これ以上情報が洩れる心配もないかと思われます。」

 彼は自身の失敗を嘘をつかずに出来る限り隠そうと努力した。しかし、その努力は無意味に終わる。

「うんうん、なるほどね。つまり、君は街の住人のうち情報を知ってしまったもの数人は取り逃がしてしまったってことだね」

 皇帝には全てお見通しだったのだ。

「…」

 彼は真実を言い当てられたことにより黙ってしまう。

 暫くの間続いた沈黙の中でイーノスは自身の死を覚悟する。皇帝から最重要だといわれ請け負った仕事を失敗させたのだ。当然の罰であろう。

 ところが帰ってきた返答は意外なものであった。

「はぁ、まぁ仕方ないね。君は人間だ。人間なら誰しも一度は失敗するものだからね。普段君の仕事ぶりには助けられているし、今回は一度だけチャンスを与えよう。逃したものを殺してこい。そうすれば今回のことは不問にしてあげよう」

「感謝します!」

 彼は目の前に皇帝がいないにもかかわらず深く、深く頭を下げるのであった。

 通信が切れた後、彼は一人悪態をつく。

「あの無能力者ども覚えておけ。僕に怪我を負わせたうえに恥までかかせて。絶対に許さない。見つけ次第、残酷に殺してやる」

 苛立ちが収まらないのかその後も街を破壊し、気が済んだところでモルト達を追って彼は廃墟を後にするのであった。


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