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Mundus ex machina  作者: 嘘(仮)
第一章 旅立ち
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襲撃者

「モルトさん、急にどうしたんで…え?」

 後からローナが追い付いてきて、街の惨状を目の当たりにしてしまう。

「え…。う、嘘…ですよね?」

 彼女は目に涙を浮かべながら膝をつく。

「そ、そんな私たちの街が…。ありえない。ありえない!…そう、これは夢。質の悪い夢に決まってます!ハハハ、アッハハハハハハハハ」

 彼女の何かが切れた。切れて、現実から逃げるため狂ったように笑いだす。

 ごうごうと燃える街の前で彼女の笑い声だけが木霊していたのであった。


 どれぐらいたったのだろうか。いまだに燃え続けている街の前でモルトは考える。

 笑っていたローナも疲れたのか、それとも声すら出なくなったのかいつの間にか辺りは静かになっていた。

(誰だ、誰がこんなことを!いや、分かっている。おそらくあのフードの男だろう。あの時俺が奴を追いかけていればこんなことに…クソッ!)

 やるせない気持ちや怒り、後悔で彼の心は押しつぶされそうになる。

 そんな彼らのもとに街から一人の男が出てきた。

(まさか、生き残り?)

 しかし、そんな彼の期待はあっさりと裏切られる。

「あらら。まだ生き残りがいたんだ。待っててね、今殺してあげるから」

 現れたのはフードの男だった。

 男は手から炎の球を撃ちながら、そして煽るかのようにわざとそれを外しながら近づいてくる。

(スキル持ち、やはりこいつが街を…)

 気付いた瞬間、彼の胸に怒りがこみあげてくる。

(せめて、せめてこいつを殺して仇を!)

 彼は怒りに任せてナイフを手に男に突進した。だがそのような単調な攻撃が当たるはずもなく容易く避けられてしまう。

「お?なんだい戦うのかい?でも、そんな攻撃じゃ僕は殺せないよ。ほらお返しだ」

 さらに、モルトは体勢が崩れているところに男の炎を胴体に浴びせられ火傷を負ってしまう。幸いだったのは運よく致命傷にならなかったことぐらいだろう。

 彼は一端男から距離を取る。

(何をやっているんだ俺は!落ち着かなくては。考えなしでは決して奴には勝てない。何か、何か奴の隙をつけるものはないのか)

「どうしたんだい?もう終わりかい?なんだよ拍子抜けだなぁ」

 考えている間にも男は近づいてくる。

(何か、何かないのか!)

 彼は考えた。必死に考えた。

 だが思いつかない。思いつけなかったのだ。

 彼がそんな風に考えているとついに男が目の前まで接近してきてしまう。

「はぁ、歯向かってくるような奴だから少しは骨があると思ったけどがっかりだよ」

 男が手から炎を噴出させそれを剣のような形にする。

「じゃあ、死んで」

 モルトに炎の剣が振り下ろされる。

 当たってなくても分かる熱気。近くにいるだけで火傷をしてしまいそうなほどの圧倒的熱。このようなものに当たれば人の体など容易く溶け消えてしまうだろう。

 それをモルトは命からがら避けることに成功する。避けた後、彼はすぐに距離を取る。

 だが、距離を取る方向が悪かった。彼の後ろには燃え盛る街。もうこれ以上後退は出来なくなったのだ。

「馬鹿だなぁ。そっちの方向に逃げるなんて。さぁもう追い詰めたよ」

 男が不気味に笑いながら近づいてくる。

(くそっ。こんなところで死んでたまるかよ!何か、何かないのか)

 彼はあたりを見渡す。森の方向を見たところで彼はあるものに気付く。

 木に残っている銃痕だ。それを見て彼は思い出す。自身の持っている遠距離武器、銃の存在を。それがおそらく他の街には伝わっていないであろうことを。

(おそらく奴はこちらに遠距離武器があるとは思っていないはず。ならばその隙をつければあるいは…)

 彼は相手に隙があることに賭けた。一か八かの賭けではあるがそれ以外に方法がないのだ。

 素早く銃を抜き男に対して撃つ。

「なっ!?」

 男が咄嗟に炎で壁を作る。

 しかし、明らかに遅すぎる。弾はおそらく男に命中しているだろう。

(やった。やってやった。俺は勝ったんだ)

 完全なる不意打ち。男は油断しきっていた。

 モルトが予想した通り、男は目の前にいる奴が遠距離武器を持っているだなんてこと予想だにしていなかった。さらに、男には何があっても大丈夫だという慢心も存在してた。

 その結果、男には隙が出来ていた。モルトは賭けに勝ったのだ。

 彼は歓喜する。奇跡に、自分に微笑んだ女神に。

 だが、それは幻想に過ぎなかった。彼がローナを助けるため彼女に近づいた時、再び絶望がその鎌首をもたげる。

「いたたた。まさか、攻撃されるとは思わなかったよ。不覚不覚」

 炎の中から男が現れたのだ。

(まさか、外した!?)

 モルトが男を見ると銃弾は確かに命中していた。命中していたのだ、男の足に。

 だが、足では致命傷には程遠い。彼らに微笑んでいたのは女神ではなく、女神の皮を被った死神だったのだ。

「まったく、無能力者の癖に僕にこんな傷を負わせるなんて許されないよ」

 男が近づいてくる。先ほどの笑顔とは違い、怒りに満ちた顔で。

(くそっ!なぜ足なんだ。せめて腕とかならまだ勝算はあったかもしれないのに!ここで、死ぬのか…)

 彼が生を諦めかけると走馬灯のように今までの思い出が頭に浮かぶ。

(これが走馬灯ってやつか?はは、さっきの戦闘のことまで鮮明に思い出せるのか。せん…とう?)

 ここで彼は気付く。戦闘中の男の行動の違和感に。

(これなら、もしかしたら逃げ切れる!)

 彼は立ち上がりローナを背負い森へと走った。

「おい、待て!!」

 男は必死に追いかけてこようとするが足を怪我している為か動きが遅い。彼らを捕まえるのには致命的に遅すぎるのだ。

 もちろんモルトはその隙を見逃さない。全力で逃げ、やがて男の姿は見えなくなった。

(やはりな。思った通りだ)

 彼が感じた違和感、それは男の攻撃である。

 男はモルト達を攻撃するとき必ず近づいてきていたのだ。殺すだけならばわざわざ近づかなくても遠距離から炎を放てば済む話。

 だが、男はそれをやらなかった。最初は油断や慢心があったのかもしれないが、銃を撃たれたあとも近づいてくるのは些か不可解である。

 仮にモルトの銃弾を全て防げるとしても遠距離攻撃が出来るならわざわざ近づく意味がないのだ。

 つまり、彼はこう考えたのである。

 男の攻撃は遠距離だと威力が落ちるなり、制御できないなりの理由があり近距離攻撃しかできないのではないのか、最初に炎の球を撃ってきたのはそれを隠すためのブラフなのではないのか、と。

 それならば足を撃たれて動きが鈍っている男から逃げ切るのは可能である。

 そして、それは正しく、彼らは男から死神の魔の手から逃げ切ったのだ。

 後ろを振り返ると森が燃えていた。おそらく男が燃やしたのだろう。

 火の手が迫ってくるがそれほど早くはなく、逃げ切ることは可能である。

 彼は燃える木々を背に走っていくのであった。



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