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Mundus ex machina  作者: 嘘(仮)
第二章 暴君の山
12/29

山に潜む者

 モルトが野宿場所へ戻るとそこには何匹かの動物の死体が置かれていた。

「鹿が二頭と野兎が二頭、猪が一頭か。よくも一人でこんなに狩ったな」

 彼が感心していると、ちょうどローナが猪を引きずりながら戻ってきた。

「あ、モルトさん見てください、この獲物の量を。これだけあれば数日は食料に困りませんよ」

「そうだな、それにしてもよくこれだけの数を狩ってこられたな」

「これが私の力です。と、言いたいところなんですが今回は運が良かっただけですね」

「それにしても一人でこの数はすごいと思うぞ」

 彼が褒めるとローナは頬を緩めた。

「それほどでもないですよ。そういえば少し気になることがあったのですが」

 ローナは先ほど自身が感じたことについて彼に話した。

「だから、この山には絶対に何かいると思うんです」

「やはりか、実は俺のほうでも動物が殺戮されていたんだ。おそらく、そこの生き残りがローナのほうに逃げて行ったんだろう」

 お互いの情報により二人は危険な存在についてさらに確信を深める。

「とりあえず残りの話は夕飯の後にでも話そうか」

「そうですね」

 二人は夕飯の支度を始める。

 動物から解体した肉を火で炙るだけの簡単な食事だ。しかし、ここ数日まともなものを食べてない彼らにとっては豪勢な食事であるだろう。

 余った部分はこれからの為に全て保存食にすることにした。

 量が多いため、全部は終わりそうにない。そのため、彼らは出来る範囲の分のみを取り、残りは遠くに捨てたのであった。

 ただ出来る分だけと言えど、ここ数日分の食料はおそらく確保できたため、彼らは非常に喜んでいた。


 モルト達は寝る前に今後のことを話し合っていた。

「この山に潜んでいる何かについてどう思います?」

「そうだな、それがただの肉食動物ならいいんだが」

「でも、動物の逃げ方が異常でしたし、多分もっと危険なものですよね」

 ローナの声は彼女が不安であることをモルトに伝える。

「もし、遭遇してしまったらどうしましょう」

「そのときは倒せそうなら戦う。無理そうならば逃げるの一択だな」

「でも、倒せそうもない化け物相手に逃げ切れるでしょうか?」

 彼はローナが小刻みに震えていることに気付く。

 普段はあまり感じさせないがローナもまだ十数歳である。この状況に恐怖心を抱いているのだ。

 彼はローナを安心させるため彼女の頭を撫でながら言葉を言う。

「大丈夫、きっと逃げ切れる。なんたって俺たちは運がいいらしいからな」

 彼のその言葉と行動に少し安心したのかローナの震えが若干収まる。

「そうですね、きっと大丈夫ですよね」

 ローナは自身に言い聞かせるように言葉を繰り返した。

「明日も早い、もうそろそろ寝ろ。暫くは俺が見張りをしてるから安心しろ」

「ありがとうございます。モルトさんも疲れたら私を起こしてくださいね。見張り変わりますから」

「ああ、ありがとう。それじゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 暫くすると静かな山の夜の中、彼女の寝息だけが聞こえるようになる。どうやら眠りについたようだ。

 彼は見張りをしながら物思いに更けていた。

(あれだけの動物を食い荒らしていたんだ。おそらくは群れだろう。そして、その群れの長こそが俺たちが感じているものの正体といったところか)

 先ほどの状況からそれの正体を予想していたのである。

(そうすると群れは肉食系の動物、山となれば狼といったところか)

 さらに群れの正体を考える。

 導き出した答えは狼である。これは予想であると同時に、彼にとってそうであって欲しいという願望でもあった。

 なぜなら、狼であれば倒すにしても逃げるにしても最も対処しやすいと考えられるからだ。

 もし、他の可能性を考えるとすれば未知の生命体か肉食の蟲の群れといったところだろう。

 正体が未知の生命体ならば対処の方法など分かるはずもなく負ける可能性が高い。

 そして何より蟲だった場合が最悪である。

 山の殺戮を行ったほどの蟲の群れとなればそれは相当大規模なものとなる。いくら一匹当たりが弱かったとしても、たった二人ではすぐに数で押しつぶされてしまう。これでは勝ち目などほとんどありはしない。

 そんなことを考えながら彼は空を見上げる。

 空には星々が輝き、月は美しく輝いていた。だが、すぐに雲がかかり見えなくなってしまう。

 山は非常に静かでローナの小さな寝息が彼の耳にはっきりと届くほどであった。それは、まるで嵐の前の静けさであるように彼は感じるのであった。


「モルトさん、起きてください」

 体を激しく揺らされモルトは目を覚ます。

 どうやら疲れからか彼は見張りの途中で眠ってしまっていたらしい。

 彼は起きてすぐ状況を把握した。

 四方八方から何者かの気配がする。彼らは敵に囲まれているようだ。

「すまない、俺が眠ってしまったばかりに」

「いえ、大丈夫です。おそらく起きていても状況は変わってなかったと思います。それに、今はそんなことを言ってる場合じゃないですよ」

 木々に隠れている気配がついに、彼らを襲う為に一斉に動き出す。

 彼らもそれに合わせて武器を構えた。

 木々をかき分け敵がその正体を露わにする。

 それは狼であった。

 彼はその事実に少し安堵した。彼が予想した中で最も生存率が高いと思われる狼であるからだ。

 彼はその群れの狼の数をざっと確認する。

「多くて二十数匹といったところか。ローナ、やれるか?」

「もちろん大丈夫ですよ」

 その言葉と同時に狼の群れが彼らに襲い掛かった。

 彼らはその攻撃を着実に避けながら各々の戦闘へと入っていく。


 モルトは最初の攻撃を避けるとすれ違いざまにナイフで狼の喉を掻き切る。

 次に飛び掛かってきた狼に対して、しゃがんでそれを避け、そいつの足を掴み目の前を走ってくる狼へと投げつけた。

 走っていた狼はいきなり飛んできたものを避けることもできずそのまま後ろに飛ばされた。それにより、その後ろを走っていたもの数匹も巻き込まれることとなった。

 数匹の仲間がやられたが狼たちは攻撃の手を止めることは無い。

 モルトの周り、四方向から同時に彼に襲い掛かった。

 彼は上から来た二匹に対し、一匹には銃を打ち込み、もう一匹は飛んできたところをナイフで刺し攻撃を阻止した。

 下から来た二匹についても、一匹は蹴り返すことにより攻撃を阻止するが、もう一匹に蹴っていないほうの足を噛みつかれるのを許してしまう。

 それにより、彼はバランスを崩して転んでしまう。すぐに足に着いた狼を蹴り払うが、体勢が整うよりも早く、別の狼によりマウントを取られてしまった。

 その狼は顔に噛みついてこようとする。

 彼は両手で狼を掴みそれを阻止した。だが、狼の力は意外と強くそのまま均衡状態へと持ち込まれてしまう。

(今別の奴に襲われたらまずい)

 狼たちがそんな隙を見逃すわけもない。モルト向かい、数匹の狼が近づいていくのであった。


 ローナは最初の攻撃を避けながらホルスターから拳銃を抜き、襲い掛かってきた狼の眉間を的確に撃ち抜いた。

 そして、目の前から走ってくる狼に対しても的確に頭を撃ち抜いて見せる。

 しかし、数が多く数匹を殺した程度ではすぐに近づかれてしまう。

 近づいてきたものに対してはナイフで応戦するが彼女は近接戦闘があまり得意ではない。一匹程度ならば対処することも可能であるが、二匹以上を相手にすると厳しいものがある。

「本当は使いたくなかったのですが」

 それを避けるため彼女は自身の持っていた袋から新たな武器を取り出す。

「これなら前方広範囲をカバーできます」

 彼女が取り出したのは散弾銃である。

 取り出してすかさずそれを撃つことにより前方の狼の大多数にダメージを与えることに成功する。

 さらに、運よくその中の半分以上に致命傷を与えることが出来たらしく、敵の数が大幅に減った。致命傷を避けたものも足などに被弾したものはうまく走れなくなり、戦えるものは後方にいたため被弾しなかったもの数匹となる。

 ところが、いいことばかりではない。

 彼女は撃った反動により銃を手から離してしまい、それが顔に当たることで彼女自身も怪我を負ってしまったのだ。

「いったぁ。まったく、これだから使いたくなかったんですよ」

 ローナは悪態をつきながらすぐに体勢を立て直し、すかさず襲い掛かってくる無傷の狼数匹を撃ち殺す。

「これで最後ですね」

 彼女は散弾銃に被弾した残りの狼に対し銃を撃った。

 彼女は状況を確認するためにモルトのほうを見る。

 そこではモルトが狼に組み伏せられ今にも襲われそうになっていた。

「助けないと」

 彼女は銃を構えその狼に対して引き金を銃の引くのであった。


(ここまでか)

 モルトが諦めかけたとき、銃声が響き彼が抑えていた狼が横に吹き飛ぶ。さらに彼に襲い掛かろうとしていた狼も銃によって撃ち殺された。

「大丈夫ですか」

 彼が立ち上がりながら横を見るとローナが銃を構えて立っていた。

「ありがとう助かった」

「これくらいお安い御用ですよ。さて、あとはあそこの数匹だけですね」

 彼は残りの狼のほうを見る。

 残りは数匹のみである。彼はここで勝利を確信した。

 だがそれは、その後ろから出てきたものによって容易く崩れ去る。

 この群れの長、彼らが感じていた恐怖の正体、それが彼らの前についにその正体を現した。

「これが本当に狼だとでもいうのか」

 人間よりも遥かに大きく、見たもの全てに畏怖を与える狼という名の怪物。

 それを目にして彼らはただただ恐怖を覚えるのであった。



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