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Mundus ex machina  作者: 嘘(仮)
第二章 暴君の山
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燃える森で

敵側の話です。


 時はモルト達が出発する一日前に遡る。

 廃墟を後にしたイーノスはモルト達の足取りを追うため森へと入っていった。森は数時間たった今もまだごうごうと燃え盛っている。それも普通の人間が触れば火傷では済まない温度でだ。

 そんな中をイーノスは何事もないかのように歩いていた。当然だろう、彼自身で出した炎なのだ。その炎に焼かれて火傷を負っていては戦闘はおろかスキルを使用することも難しい。

「ちっ、感情に任せて適当にやり過ぎた。これじゃあ足跡を見つけるのにも一苦労だ」

 彼は地面に着いているであろう足跡を探す。広い森のため見つけるのにどれくらいの時間がかかるか分からない。

 暫くの間探していたが足跡は一向に見つからず、彼に焦りが出始める。

(早く見つけないと。もしここで見失ってせっかくのチャンスを逃せば僕は…)

 待っているのは確実なる死。他のどうでもいい任務ならば降格程度で済むだろうが今回は話が違う。それも、一度失敗しているのだ。どのような恐ろしい目に合うのか想像もつかない。そのような考えに、彼は身を震わせる。

 そんなことを考えていると、また突如として脳内に声が響く。

「やぁやぁイーノス、調子はどうかな?」

「はぁ、最悪の気分だ。セット、半分はお前のせいだ」

 苛ついた声で彼は答える。

「まぁまぁ、そういわないで。私と君の中なんだからさ」

「はぁ」

 昔からそうだが、こいつはなんでいつもハイテンションなんだ。そう思い、彼は大きくため息をつく。

 別に彼もセットのことは嫌いではない。ただ、いつもそのテンションのため正直疲れるのだ。

「てか、お前まだ仕事中だろ。こんな風に油売ってて大丈夫なのか」

「お、心配してくれるの? 優しいなぁ。流石は私のイーノス、惚れ直しちゃうよ」

「思ってもないことをいうな」

「ん? あながち冗談じゃないんだぜ」

 セットが茶化すようにいう。

「はぁ」

 本当になぜこいつはいつもこうなんだ。思ってもないことをペラペラと。彼はさらに大きなため息をつく。

「もうどっかいってくれ。お前と話していると疲れる」

「もう、乗り悪いなぁ。せっかく早めに終わらせて君と喋りに来たんだからさ、もう少しくらい構ってくれてもいいじゃないか。仕方ない、本題に移るよ」

「用事があるなら先にいってくれ。僕だって暇じゃないんだ。それで何なんだ」

「私も君と一緒に任務に参加することになったからよろしくね」

「はぁ!?」

 あまりの衝撃に彼は開いた口が塞がらなかった。非戦闘員である彼女が戦闘に参加するといっているのだ。驚かざるをえないだろう。

「そんなに驚くこともないでしょ」

 セットは当たり前であるかのように話す。

「い、いやお前戦えるのか? てか、普段の仕事はどうすんだよ」

「ふっふっふ。なめてもらっては困りますね。私、実は結構強いんだよ。それに、陛下に直々に頼んできたんだ。今更やめられないよ」

 なんていう行動力であろうか。皇帝に直々に頼みに行くだなんて普通の人間ではあまりに恐ろしくて出来ることではない。それを普通にやってのけたのだ。彼女の精神は常人のそれとはかけ離れているのだろう。

「そ、それならいいけど。それで、そんなことまでして何故こっちに来たかったんだ」

「それは…」

 セットが言葉に詰まる。何か言えない理由があるのだろうかと考えるがすぐに彼は考えるのを止める。なぜならセットのこのような意味ありげな行動には大抵の場合、意味は無いからだ。

 彼は過去にセットの意味ありげな行動に何度も騙されてきた。そのせいで、彼は何度も恥をかかされてきている。そのため、たとえ本当に何かあったとしても考える気など起きないだろう。

「それは君が頼りないからだよ、イーノス君。やっぱ、私がいないとだめかなぁって思って」

 またも茶化すようにいう。

 やはりわざと言葉に詰まらせたのだろう。本当に面倒臭いやつだ。彼は何度目か分からないため息をついた。

「ったく、頼りがいのある仲間が増えて嬉しい限りだよ」

 彼は吐き捨てるようにいった。だが、セットには関係なかったようだ。

「そうだろう、そうだろう。じゃあ、今から行くからちょっと待っててね」

「今からってどういう…」

 それを聞いていたのかいなかったのかテレパシーは切れてしまう。そして、彼の目の前の空間が突如歪み、そこからセットが出てきたのである。

「セット様とーちゃく…って、あぶなっ! なんでこんなに燃えてるのさ! 火傷するから早く消して!」

 彼は突然のことに驚きつつもセットに火傷されるわけにもいかないので咄嗟に周りの炎を吸収した。

 周りから炎が消えたことに安心しながらセットは彼に文句を言う。

「先に消しといてよ、危ないだろ」

「無茶いうんじゃねぇよ。そもそも、俺がそれを言おうとしたのに聞かなかったお前が悪いんだろうが」

「いやぁ、君に早く会いたくてね」

「笑って誤魔化そうとするな」

 彼はまたもため息をつく。この数十分の間に何回ため息をついただろうか。セットが来てしまったことで彼はこれからのことに不安を覚えるしかなかった。

「それで今なにしてるの?」

「奴らの足跡を探してる」

「この森の中を? あんた馬鹿でしょ」

 セットがにやにやとしながら彼に言う。

「黙っとけ。それ以外に方法がないんだよ」

「やっぱり馬鹿だ。私がいて良かったね」

 先ほどまでは何とかこらえていた彼もいい加減に苛ついてくる。

「うっさいな。だったらお前がなんか案を出してみろ」

 彼は、どうせ代案なんて出ないだろうからこれで黙るだろうと思いこの発言をした。だが、その予想は裏切られた。

「足跡を探す以外の方法は思いつかないけど、範囲ならぐっと絞れると思うよ」

 なんと、何かしらの案が彼女にはあったらしい。

「…言ってみろよ」

「君は多分、無能力者に逃げられたときに森に火をつけたんだろう? だったら、奴らは逃げるときに真っすぐと進んだはず。だって、後ろから火の手が迫ってきてるのに寄り道なんてしないでしょ? だから、奴らが逃げこんだ場所からほぼ直線状を探せば見つかるんじゃないかな」

 彼は驚きの表情を浮かべた。その表情を見てセットはしてやったりという顔をする。

「やっぱり私がいて良かったでしょ」

 いわれてみれば確かにそうだ。これは彼には思いつけなかったことである。

 今回は彼女がいなければまずかったかもしれない。それにより彼はセットに対する評価を上げざるをえなかった。


 夜もだいぶ更けたころ、イーノス達はセットがいったように足跡を探しながら森を歩いていた。

「そういえばさ、遺跡の情報について知ってたりするの?」

 不意にセットが彼に質問を投げかける。

「内容なんか知らんし、そんなことはどうでもいい。俺には野望がある。そのために俺は今動いている。だから、道中のくだらんことなんてどうでもいいんだよ」

 彼は真面目に自身について語った。

「さっすが、かっこいいねぇ」

 だが、帰ってきた言葉はそんな茶化して来るようなものであった。

「くそ、少しでもお前に話してもいいと思った俺が馬鹿だったよ」

「えー、じゃあその野望とやらは教えてくれないの?」

「教えるか、アホ」

 そんな会話をしているとついに彼らは足跡を見つける。

「ようやく見つけた。くそ、随分と時間を取られた。間に合うか?」

「大丈夫でしょ、奴らも疲れてるだろうから多分どっかで寝てると思うよ」

「だといいけどな」

 彼らはそう信じて足跡の向かう方向へと足早に歩いて行った。


 どれくらい歩いただろうか、既に日は昇ってきている。

 本当にこの方向でいいのだろうか、そう考えていたがついに手掛かりを発見したらしくセットが彼に呼び掛けた。

「おーい。この洞窟、人がいた形跡があるぞ」

 彼も洞窟へと入ってみる。

「ついさっきまで人がいたって感じだな」

「そうだね、もうちょっと早かったら見つけられたかもね」

「くそっ、また最初っからかよ」

 彼は近くの壁を殴る。

「まぁ落ち着いて、外に何か残ってるかもしれないよ」

「そうだな…」

 どうせ何もないだろう、そうおもいつつ洞窟から出たがすぐに足取りを掴むことが出来た。

 洞窟の目の前の山、そこの草木が何者かが通ったかのように倒れていたのだ。

「これは運がいい。やつら山に入っていったらしいね」

「面倒臭いことしやがって。仕方ない、少し休憩したら登るぞ」

 それから彼らは数時間の仮眠を取り、モルト達の後を追い山へと登っていくのであった。


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