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Mundus ex machina  作者: 嘘(仮)
第一章 旅立ち
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脱出

初めての執筆となるため所々に不備があるかもしれませんがどうぞよろしくお願いします。

「ついにこの時が来たか」

 少年は期待に胸を膨らませていた。

 彼の名前はモルト。元聖女の母と元英雄の父を持ち、その二人から様々な才能を引き継いだまさしく神童である。

 そんな彼が胸を膨らませるものが何かというと、10歳になると行われるスキルの授与である。

 聖女と英雄の親を持ち類まれなる才能も持ち合わせている彼は当然ながら周りからは期待されていた。

 前の人の授与が終わりついに彼の番がやってきた。彼より前に有能なスキルをもらえた人物がいないため、彼への期待は一層高まっていく。

「父さん、母さん、いってくるよ」

「モルト、お前のスキルがどの様なものであろうと私たちはあなたの味方ですからね」

 彼の母はそういいながらにこりと笑って見せた。普段笑わない父も笑顔で彼を送り出してくれる。

「では、授与を始める」

 神官の声が会場に響き、目の前にある水晶から光が溢れ出す。光が収まった後、暫くの間沈黙が場を支配する。周りからは緊張と期待が感じられる。

 そして、ついに神官が口を開いた。

「神からの信託を受け取った。君は無能力者である」

 その瞬間周りの空気が凍った。彼自身も今言われた言葉を理解できなかった。

「む、無能力?嘘だろ・・・」

 悲しいかな、返ってきた答えは

「神の言うことに嘘はない」

 という神官の言葉のみだった。観衆たちから声が上がる。

「忌子だ!捕まえろ!あいつがると不幸になるぞ!」

「早く捕まえて奴隷商に引き渡さないと!」

 彼のもとに観衆たちが押し寄せてくる。いくら神童と言われていたといえ、その圧倒的な数には為す術もなくあっという間に捕まってしまった。

 彼は最後の望みにと両親のほうを見た。しかし、彼の両親は先ほどまでの笑顔はどこに行ったのか、まるで悪魔か何かを見るような目で彼のことを見ていたのであった。

 スキルとは神からの贈り物。それがないということは神に存在が認められていないということ。つまり、悪魔か何かのようなものなのだ。いくら家族といえどもそんな存在を助けるはずがない。いや、スキルがないとわかった時点でもはや家族と思われてなかったのかもしれない。

 その後すぐに彼は奴隷商へと引き渡され、どこかの鉱山へと連れていかれたのであった。


 十年の時がたった。

 とある鉱山にて一人の男が採掘をしていた。その服はボロボロで体もやせ細っており碌なものを食べてないことが伺える。目には光がなく、もはや生きることに何の意味も感じていないように見える。

 これが現在のモルトである。

 彼も最初のころはいつか出られると希望を持って生きていた。しかし、それが夢だということに数年で気付き、今では日々を無意味に過ごし、ただ死ぬその時を待ち続けているだけの存在となり果てていた。

 そんなある日のこと、彼はいつも通り決められた場所で採掘作業をしていた。今日も一日採掘をして、少ない食事を与えられ、明日倒れないためにも早く寝る。そんな風に一日が終わっていくものだと思っていた。

 しかし、その日は違った。採掘を始めてから1、2時間ほどたったとき採掘場の奥から悲鳴が聞こえきた。

 彼が何事かと奥のほうに目をやると奴隷や監視人が必死の形相で採掘場の入り口に逃げていこうとするのが見える。

 しかし、彼らの後ろからそれを嘲笑うかのように炎が噴射され、逃げようとしていた者たちはみな焼かれてしまった。

 炎の噴出元を見てみるとそこにはドラゴンがいた。そう、奴隷や監視人たちはこのドラゴンから逃げてきたのだ。

 標的を全て焼き払ってしったドラゴンは次の標的に目を付ける。それはもちろん最も近くにいるもの、つまりモルトとその周辺にいる者たちである。

 周りに奴隷たちは入り口に向かい一斉に逃げ出した。モルトも逃げようとしたがその時、彼にはドラゴン炎を吐こうとしているのが視界の端に見えたのだ。

(このまま入り口に逃げればさっきの奴隷たちのようにまとめて焼かれてしまう)

 そう思い彼は咄嗟にドラゴンの足元に逃げこむ。そして、その予想は見事的中し入り口に向かい走っていった者たちは皆焼き殺されてしまった。

 ドラゴンはそれに満足したのか、それとも彼に気づいていないのか奥へと戻っていこうとし始める。

 彼は自分が助かることに安堵した。

 しかし、ここで彼に一つの考えが浮かぶ。

(もし、ドラゴンを連れて入り口まで行けば監視達はその対処に追われ、その隙に自分はここから逃げ出せるのではないか)

 と。もちろんそれにはリスクが付いてくる。それも失敗すれば自身が確実に死ぬという特大のリスクが。

 だが、彼は思う。

(もしここで何もせずに生き延びたとしてその後はどうなる。また今までと同じように採掘を続けるのか。あの苦しい日々を続けるのか。本当にそれでいいのか)

(いや、そんなの答えは決まっている。もちろんNOだ。このまま一生苦しい生活をするのならば、逃げられずともここで死んだほうがはるかにまし。それならば、この作戦を実行すべきではないだろうか)

 思い立ったら行動である。

 彼はすぐに帰ろうとするドラゴンに向かい石を投げつけた。その石はしっかりとドラゴンに命中する。

 しかし、不運なことに命中した個所はドラゴンの目であった。いくら屈強な体を持つといっても所詮は生物、目などの柔らかい部分に攻撃されれば当然激痛が走る。

 そして、そんなことをされれば誰だろうと怒り出すだろう。それはもちろんドラゴンも例外ではない。

 ドラゴンは彼を睨み付け、炎弾を吐き出して来た。

 彼はそれを紙一重で避けるとそのまま入り口に向かい走り出す。

 彼に対して怒りを抱いているドラゴンはもちろんその後を追ってくる。彼の目論見通りにドラゴンを引き連れていくことに成功したのである。

 しかし、そこから先は彼の想像以上に厳しいものであった。まず、道がほぼ一直線のせいでドラゴンからの炎弾やブレスは避けるのが非常に困難である。

 そして、それを避けるためにドラゴンの下へと潜り込もうものならばその巨腕で容赦なく叩き潰そうとしてくるのだ。

 だが、彼はそれを死ぬ物狂いで避け続けた。途中、炎弾が掠り皮膚が焼けたり、腕に当たり肉が削げたりしたが諦めなかった。

 その結果ついに外の光が見えてくる。採掘場の入り口についに辿り着いたのだ。

 ついに出られる。そう思い彼の目に涙が薄っすらと浮かぶ。

 しかし、現実はそう甘くはなかった。彼が入り口から出る前に入り口付近で爆発が起こったのだ。

 どうやら、何者かがドラゴンを外に出さまいと入り口爆破したらしい。

 幸いにも巻き込まれることは無かったが、これにより落石で入り口が塞がれてしまったのだ。

(そ、そんな。どうすれば…。ここで諦めるしかないのか)

 彼がそんな風に狼狽えている間にもドラゴンは迫ってくる。

 そして、ついに追い付かれてしまう。ドラゴンは憎悪の満ちた目で彼を睨み、彼に対して特大の炎弾を放った。

 しかし、彼もまだ諦めたわけではない。その攻撃をギリギリで避けつつ考える。

(後ろの岩を何とか破壊することが出来れば… !)

 彼はそこであるアイデアを思いつく。

(この方法なら)

 彼は挑発するかのように石をもう一度ドラゴンの目に向かい投げつけた。

 それは見事に目に命中し、ドラゴンは激痛により少し後ろにのけぞる。

 さらに彼は畳みかけるようにドラゴンに挑発する。

「そんな程度かよ。図体ばかりでかい木偶の坊だな」

 その言葉を理解したのかドラゴンはより激しく怒り出し、怒りに任せて暴れだす。

 目論見通りと彼は口元を少し釣り上げた。

 いくら強力な攻撃であろうと当たらなければなんてことは無く、怒りに任せ暴れているドラゴンの攻撃は酷く単調なものとなっている。それならば避けることはもちろん誘導することだって可能となる。

 彼はドラゴンの攻撃を避けつつ岩付近に誘導する。その姿はドラゴンから見れば、どんどんと隅へ追い詰められていくように見えたのだろう。

 彼を岩に密着する程度まで追い詰めた時、ドラゴンはとどめとばかりに最大火力の炎弾を放った。

 しかし、それは軽々とよけられてしまう。

 標的を失った炎弾はそのまま落石にへと当たりそれを粉々に砕いたのであった。

 モルトはほくそ笑んだ。まさかここまで上手く事が運ぶとは思っていなかったのだ。彼は自身の幸運に感謝しながら砂煙でドラゴンの視界が遮られているうちに入り口から逃げ出した。

 外に出ると監視員や役人達が彼のほうを見る。

 いきなり出てきたモルトに対し、最初は戸惑っていたがすぐに捕らえるようにと指示を出した。

 だが、その指示が実行されることは無かった。後ろからドラゴンが出現したためだ。

 この時点でモルトは既に身を隠しており、ドラゴンはその姿を発見することは出来なかった。

 そのため、怒りの収まらないドラゴンはせめてもの憂さ晴らしにとその場にいた役人や監視員を襲い始める。

 それを尻目に彼はその場から逃げていくのであった。


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