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崩壊序曲~finality~  作者: 千月華音
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(12)引けない想い



 ガーディアン本部、監視モニタールーム。

 ガイアの拠点となる各主要地点に設置されている隠しカメラの映像を、いつものようにつまらない表情で見ていた今宮は――突如、絶句した。

「……おい、何の冗談だよ。こりゃ……」

 時間にして数秒。瞬きをしていたら見落としていた。――だが、間違いない。

 すぐに映像を巻戻した。

 映像自体は不鮮明で明かりもない。だが今宮の狩猟能力本能が画像の解析などしなくともそこに映っている人物をよく知っていた。

 知っているどころか。

 知っているからこそ――信じられなかった。

「……E-402の、……あそこか。先回りできるか」

 ギリッ、――と唇を噛む。

 聞きたいことは山ほどある。

 だが。

 問い詰めたい気持ちよりも、静かに湧き上がる怒りのほうが凌駕していくのを抑えることが出来なかった。






 巨大な地下放水路から下水溝伝いに地上へ出た瑚太朗は、空を見上げて表情を凍らせた。

 歌、が――。

 風と空気に乗って降りてくる。人の耳では聞き取れないほど微かな音色。だが頭の中に響いてくるその歌声は、間違いなく不吉な予兆を齎した。

 アカペラだ。

 楽器も伴奏もない声だけの歌。だがそれは、自然と調和した共振で構成されている。

「これ、が……」

 滅びの歌なのか。

 まずい……この歌は。

 大気に浸透して、共鳴している。どこで歌おうと世界中に鳴り響く。こんな技術があれば核兵器だって必要ない。

 歌だけで世界を滅ぼせる。

 鍵が、……目覚めてしまえば。

「くそぉっ!」

 地面に拳を叩きつける。

 悔しさと情けなさに歯噛みする。……だが。

 まだ間に合うはずだ。歌声はまだゆっくりとテンポが進んでいる。鍵の目覚めまでには至らないはずだ。

 これが多くの人間の耳にまで聞こえてしまう頃になると、もう……。

 その前に――なんとしても止めてみせる!

 現在地を確認した。スマホのGPSから地図で見るとここから学園までおよそ10kmの距離。走れば数分で辿り着く。

 放水口から身を乗り出し、水量の涸れた支流へと飛び降りたそのとき。

 見覚えのある黄金色の鳥がバサバサと翼を鳴らして目の前に現れた。

 小鳥に預けた物見鳥だった。――まさか。

「おまえ、……今まで探してたのか?」

 契約線が切れたらさっさと逃げろと言ったのに。

 心配で探し回っていたのだろう、物見鳥がさっさと契約しろとばかりに肩に降りて翼を鳴らした。

 ……仕方ない。

 瑚太朗は諦めたように吐息をついて、物見鳥と再契約を結んだ。

『――バカッ! 今までどこにいたのよ! ずっと探してたんだから!』

「……バカはおまえだ。なんで逃げなかった。テンマたちが来たはずだろ」

『瑚太朗くんを探すって、手分けしてくれたの。それより……!』

「わかってる。歌が始まった。どこで歌ってるかはわかってる。これから行ってとめてくる。それより篝は見つかったのか?」

『……だめ。やっぱり宿木がないと。でも、ちーちゃんが魔物で匂いを追ってくれてる』

「ちーちゃん? ……ああ、ちはやか。おまえより魔物使いの才能があるから、そのほうが助かる。俺のことはいいから、テンマとテンジンにも篝を探すように言ってくれ」

『でも……シズルって子はどうするかって』

「まずは篝が先だ。救済が起こってしまう前に確保したかったが、そうも言ってられなくなった。静流は俺がなんとかする。今は篝を先に……っ?!」

『ど、どうしたの?』

「……悪い、小鳥。あとでまた連絡するから上空で待機しててくれ」

 物見鳥を空へと放すと同時に、遠くから近づいてくる人物に警戒しながら腰の銃の感触を確かめた。

 いざとなれば、――ブレードを使って。

 接近したときがチャンスだ。だがあいつだってガーディアンの端くれ。間合いに入るような真似はしないだろう。

 向こうもそれはわかっているのか、声が届くギリギリの距離で歩みを止めた。

「なぁんでガーディアンのおまえが魔物なんて使役してるんですかね?」

「その前に聞きたいことがあるんじゃないのか。顔がひきつってるぞ、今宮」

「……っ。聞けば教えてくれんのかよ」

「口を割らせるほうが早いんじゃないか。お得意の洗脳で」

 今宮の顔が凶悪に歪んだ。

 ――知らないとでも思っていたのか。

 瑚太朗は内心毒づいた。こいつがガーディアンの先遣部隊でガイアの一員を嬲り殺すように痛めつけ、あまつさえ寝返りさせるよう洗脳操作していたことはとうに調べがついている。

 監視と調査というのは建前で、その実――かなり非道な殺戮を繰り広げている。それは今宮の部隊に限った話ではないが。

 別にそんなことに興味はない。だが。

 超人と呼ばれる彼らが己の誇示のため愉悦に浸れるのがそんなくだらない所業であることに、侮蔑と嫌悪感をこうして向けるだけで。

 彼らの神経を逆撫でるに十分であれば、それでよかった。

「おまえだって拷問、暗殺、テロ……けっこうな略歴をお持ちだそうで」

「ああ、清水から聞いたんだったな。じゃ、これは聞いたか。今まで任務中に殺害したと報告した魔物使いの子供達だけど、俺が秘かに保護して、とある施設で育ててるって。聞いちゃいないだろ」

「な……?!」

「そればかりじゃない。おまえらガーディアンが目をつけた超人候補の子供達を俺が先回りして保護してる。もちろん彼らを拉致もしくは連行しようとした黒服連中は俺のほうで始末しておいた。バレないように偽情報を流した上でな」

「お、まえ……!」

「いいか、今宮。鍵の争奪なんてバカなことやってる間に、世界はもう取り返しのつかない事態に陥っているんだ。おまえだって能力者の端くれなんだからこの歌が聞こえるはずだ」

「歌だと…?」

「滅びの歌だ。この歌が鍵の救済を呼び起こすんだ。まだ歌は始まったばかりだが、これ以上続けば救済がとめられなくなる。それがどういうことになるか、おまえにだってわかるだろ!」

 今宮は銃を向けながら戸惑うような顔で空を見上げた。

 だが――。

 彼の憎悪はそんなことでは覆らないようだった。

 銃弾が耳を通り抜けた。

「……今宮」

「天王寺。おまえには聞きたいことが山ほどある。正直、この場で殺してやりたいくらいだが……」

 ガチャッ、と銃弾を装填しなおして照準を再び合わせた。

「ひとつだけ聞かせろ。――おまえは、何者だ」

「天王寺瑚太朗だよ」

「俺の知ってる天王寺は、そんな顔をしていない。背だって俺より高かった」

「…ははっ。おまえより高くなったのが自慢のひとつだったんだけどな」

「おまえ……本当に天王寺なのか」

「信じられないのは俺だってそうだよ。……篝と繋がって、気づいたら若返っていた」

「篝?」

「おまえに話した、俺の彼女。――鍵だ」

「はぁっ?!」

「俺は鍵が視認できる。実はガーディアンに入る前から鍵と接触していた。鍵だって知ったのはガーディアンに入ってからだけどな。その鍵を好きになったんだよ、俺は。イカれてると思ってるが、もうどうでもいい。鍵を……篝を救うのが、俺の生きる意味だ」

「…………」

「篝は星を救う『良い記憶』をずっと求めていた。その答えを見つけたんだ。だが救済が起こってしまえば答えを示す前にすべてが終わってしまう。救済は篝にとって生理現象みたいなものなんだ。星の自浄作用のようなもので、篝にはとめようがない。この歌が救済の呼び水になってしまう。……今宮。後でいくらでも拷問でもなんでも受けてやるから、今は行かせてくれ。この歌をやめさせないといけないんだ」

「…………」

「今宮!」

「……もう一度聞かせろ。おまえが若返ったってのは、その鍵が原因なのか?」

 瑚太朗は唇を噛み締めて、ため息をついた。

 ここまで言ってもやっぱり話が通じる相手じゃなかったか……。

 だが、もうこうなればヤケだ。あらいざらい話してやる。

「ああ、おそらくな。篝の力の一部が流れた副作用か、俺自身の能力かはわからないが。傷の治りも以前に比べておそろしいほど早い。おまえがさっき撃った銃弾な、耳を貫通したけど、もう塞がってる。篝と似た体質になったせいもあるんだろ」

「似た……体質?」

「鍵は大地の魔物だ。人間の姿をしているが、命の源泉のような魔物と同じ生命力が溢れている。篝はその力の一部を俺に注ぎこんだ。理由はわからないが……」

 生きて欲しいと思ったから。

 そう思うのは……自惚れにすぎないのだろうか。

「バッカ、おまえそんなの……生きてて欲しいと思ったからに決まってんだろ」

「今……宮……」

「鍵でも人間に恋することがあるならだけどな。……そんなの、もう鍵じゃねえかもしれないけど」

「…………」

「どこで歌ってる? 場所はわかってるのか」

「あ、……ああ。今は結界で覆われて見えないが、おそらくマーテル本部から巨大な樹木が聳えている。そこの最上層らしい」

「結界は解除できるのか?」

「カードキーがある。内部からなら侵入できるはずだ。学園の地下から直結通路で繋がっているらしい」

「風高か……。あそこは西が警戒網を敷いている。俺が話をつけておくから、先に行け!」

「今宮…おまえ」

「あとで詳しい話きっちり聞かせてもらうからな。それまでとりあえずツケておく。言っておくがおまえの裏切りを認めたわけじゃない。状況的にどちらの優先度が高いかどうかの判断だ。さっさと歌をとめに行ってこい!」

「……ああ。後で決着つけてやるよ」

 バカな男だけど、話がわからない奴じゃなかった。

 瑚太朗は苦笑した。……今ごろそんなことがわかっても仕方ないのに。

 全力で駆け出した瑚太朗を見て、今宮は目を見開いて驚愕した。――あんな速度、どの能力者でも出せやしない。

「バカだよおまえ……謙虚にも程ってもんがあんだろ」

 敵わない――。

 たった一人で戦っていたあの男に、最初から勝ち目なんてどこにもなかった。

 でも……それでいい。

 今宮はなぜか満足したような笑みを浮かべていた。






to be continued……


いまみーを説得するつもりはまったくなかったのですが、書いてたらこうなってしまいました。

いや、その、本当は殺し合いをするつもりだったのですが……。

むしろ味方になってしまった。うーむ。もうこのままでいいか。

というかのろけ話で説得できちゃった感が。これでいいのか。

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