第7話『親友だった人』
どこから話すべきだろうか。
「何を?」って、僕と佑也が今の関係に至った経緯についてだ。
かつて親友であった僕たちが今の他人の関係になったのは、元をたどれば一つの出来事が原因だ。だからまずは、全てのことの発端である小学5年生の時の話をしよう。
小学校中学年ともなれば、早い人は色恋沙汰に敏感になる年頃で、僕と佑也も当たり前のように気になる子がいた。ただ、これが問題だった。僕と佑也の好きな人が同じ人物だったからだ。
僕と佑也は真逆の性格だった。佑也は相手に対して猛烈なアプローチをし、僕は逆に何もしなかった。僕は佑也が相手を射止めるまでは時間の問題だと思っていた。
そして、小学校4年生の時に佑也が懸命のアプローチを始め、1年が経過した夏休み中盤。事件が起こった。
事件という表現は少々大げさなのかもしれないが、事件は事件だ。僕にとっても佑也にとっても想定外の出来事が起こった。8月18日の夏祭りの日に、佑也は彼女に告白をしてフラれたのだ。
誰もが耳を疑った。佑也が猛アプローチをしていたことはクラスの皆が知っていたことだった。相手もそれを否定はしていなかった。誰もが2人が結ばれるだろうと思っていた矢先、佑也はフラれた。皆が耳を疑ったのはその理由だった。
佑也がフラれた理由は二つあった。一つは佑也がまだまだ子供だったことが原因だった。
確かに僕達は年齢的には皆が子供だった。ただ、相手が言っていたことはそういうことでは無いらしく、精神的に子供だということらしい。
だが、このことが原因で僕がいじめられることになった訳ではない。もう一つの理由が佑也の動機となったのだ。相手は佑也に対して言ったらしい。佑也ではなく、僕のことが好きだと。
これに関しては皆が皆、異論を唱えた。もちろん僕もだ。
意味がわからなかった。なぜかアプローチをしていなかった僕の方が好かれていたのだ。
後になって聞いたことだが、僕のアプローチをしないという姿勢が、相手の考える“大人な”姿勢のアプローチだったらしく、僕がとても大人びて見えていたのだそうだ。
もちろん、こんな理由を佑也が納得するわけもなく、この翌日から佑也による、僕への過激ないじめが始まった。
夏休みのど真ん中にわざわざ学校まで呼び出され、そこでリンチにあったのを覚えている。
“好きな人が自分を見てくれないから”という理由で、好きな人が好きになった人間をいじめるなんて、実に子供らしい話だ。
おそらく、僕らが好きになった女の子が言っていた、佑也の“子供”っぽい部分というのはこの部分だろうなと、僕はいじめられてから気がついた。
僕がいじめを受け始めて1年半ほどたった頃。僕たちは中学生になった。
小学校が同じなのだから当たり前のことだが、僕と桜花、佑也だけでなく、【山沢 あかね】も同じ中学校入った。
中学に入ってからはいじめのレベルも上がり、時には骨折をすることだってあった。
だが、そんな悲劇の時間はすぐに終わりを迎えた。
夏休みが始まる前日。桜花がいじめの現場に現れ、その日のいじめを中断させた。
どうやったのか、今は置いておくとして、次の日から僕へのいじめは一切行われなくなった。
いじめがなくなったことで、もともと関わりがなかったかのように、僕と佑也は互いに距離を置いた。
ここまで来てしまうと、昔のような関係に戻ることは無理なのだろうと、僕だけでなく佑也も思っていたはずだ。
こうして、親友だった人は他人になっていった。