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最後の夢  作者: 人生依存
斯くして少女は最後の夢を叶える
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第21話『破綻と崩壊と完結した世界』

今回は桜花の独白に近い物語です。


 退院後の私はこれまでと変わらない日常を送った。

 優子、杏、伽耶と毎日行動を共にして、くだらない時間を共有して一般的には楽しいと呼ばれる感情を育んだ。

 学校では事あるごとに四人で集まり、放課後にはほとんど毎日誰かしらの家で遊んだ。

 遊びと言う概念の元で共有した時間は本当にくだらないものだ。

 トランプでババ抜きをしたり、ジェンガをしたり、よく分からないテレビゲームをやったり、そういったインドアな遊びばかりかと思えば隠れんぼや鬼ごっこなんかの体を動かす遊びもした。

 時にはテレビ番組の話なんかもした。

 話を合わせるため、私は興味もないような恋愛ドラマやバラエティ番組なんかを見るようになった。

 毎日毎日毎日毎日。

 私は皆から見た理想的な私を作る事に時間を費やした。

 どうして私がそんな事をしたのかなんて、私には分からない。

 けど、私には思考する事ができる。

 きっと、私はみんなとの日常を好いていて、くだらない普遍的な時間だと貶していてもその時間を愛していたのだ。

 だからこそ、私はそんな日常を守るために、表面上は変わらずにいられるように皆から見た理想的な私でいるように努力した。

 

 さぁ。ここまで語れば分かる人は分かるハズだ。

 私がそうまでして、心血を注いで変わらない理想的な私を演じたのは、変わりゆく私を私自身が感じ取っていたからだ。

 いや、さすがにこの表現はわかりづらいか。

 訂正しよう。

 私は思考を繰り返した。

 毎日毎日、皆と遊び終えたらそこからは思考にふけった。

 考えて考えて考えて考えた。

 何を考えたのかは語るまでもない。

 世界へ爪痕を残すため、私には何ができるのだろうと考え続けた。

 そして、思考を重ねるにつれて、私は日常げんじつないがしろにするようになっていった。

 優子たちとみんなで遊ぶ時間を無駄な時間だと感じるようになってしまい、そんな無駄な事をしている暇があるのなら、私は世界に致命傷を与えるために少しでも何かをしなければならないと考えるようになってしまった。

 そして、退院してから一週間が経った頃に私は優子から指摘される。

「桜花ちゃんさぁ、変わったよねぇ」

 その言葉は他の人間が聞いても言葉の通りの意味合いだとしか思わない言葉だ。

 言葉の通り、三週間にわたる入院生活でどこかこれまでと違った雰囲気を見せるようになった。その程度の意味合いしか孕まないだろう。

 しかし、それは他人の場合だ。

 私と優子。

 佐伯桜花と言う一人の人生依存症患者にんげんと清水優子と言う一人の理解者にんげんの関係の元では優子の言葉は異なる意味合いを孕む。

 それは注告だった。忠告でもあった。

 このままだと、お前は取り返しのつかない事になるぞ。

 このままだと、お前を待っているのは破滅だぞ。

 そういった意味合いでの、優子からの箴言しんげんだった。

 そして、悔しい事に私は優子の言葉で気づかされてしまった。

 私自身が蔑ろにしつつあるこのくだらない日常が崩壊するのだと想像した時、私は言いえぬ恐怖を感じたのだ。

 つまり、私はなんだかんだ言ってあの日常を愛していた。それを優子が気づかせてくれた。

 本当、優子は優しい子だと思った。

 名は体を表すというが、その言葉の通りだと思うほど、彼女は名に寄せられた人間だ。

 彼女の両親には感謝しなければならない。

 理解者ゆうこに優子という名前を与えてくれて、彼女をこの最低で救いのない世界に産み落としてくれて、本当にありがとうと感謝の言葉を贈りたい。

 こういったちょっとした経緯があり、私は皆から見た理想的な私というものを偽り続けた。


 これが私だ。

 これが佐伯桜花だ。

 

 そうやってうそぶいて主張をするように私は私を演じた。

 そして、その一方で私は思考を重ねた。

 偽りの日常げんじつの裏で、表面化できない思考の積み重ねを続けた。

 人生のテーマとでも言うべきか、必ず死を迎える世界で死の恐怖を逃れるため、擬似的な永遠の命を手にするため、どうすればいいのだろうと終着の見えない思考を重ねた。

 終着の見えない思考を重ねて終着が見えないという事実を肌身に感じ、その事実に恐怖をする。そして、その思考の末の恐怖から逃れるために普遍的でくだらない日常に身を浸す。

 そんな日常を私は送り続けた。

 退院してから送り続けた。

 ただ、後々考えてみればこの時にはすでに破綻していたのだ。崩壊していたのだ。

 優子が危惧した顛末へと、私はすでに片足を入れてしまっていたのだ。


 …いや、違う。

 本当はもっと前から私は破綻していた。

 だって、私は別にくだらない日常を愛していたわけでもそれを楽しんでいたわけでもないのだから。

 ただ、自分が思考を重ねるにつれて自分の恐れている方向へと歩き進んでいるような錯覚がして、それが怖くて怖くてたまらなくて、思考を重ねて変わってゆく自分の思考や自分自身が怖くて、変に大きく踏み外してしまわないようにと私は日常に目印マーカーを打った。

 それが、私が日常を大切に維持して保持する理由だった。


 もっとも、そんな事実に私が気づくのはもっともっと後になってからの話だ。

 

 さて、私がこんな年齢に相応な思考を積み重ね、破滅へと歩を進めている裏側で。

 間違えた。表現を間違えた。あの話は裏側ではない。

 私の思考の裏側は日常だ。

 だから、正確には場外だ。

 私が年齢に相応した思考を重ね、世界に爪痕を残すための手段を探っていた時。

 そんな本当の私の裏側で皆の理想の私を作り上げて大切なくだらない日常を守り続けていた時。

 私という一人の人間の完結した世界の場外では無粋な事象が膨らんでいた。


 以前から兆しはあったことだ。

 クラスメイトが私に対して負の感情を抱き、蓄積した精神疲労ストレスの捌け口に私を使おうという動きは以前にもあった。

 そして、バカバカしい子供なクラスメイトたちの佐伯桜花虐めの遺物は田舎特有のくだらない集団思考と混ぜ合わさり、偽りの正義を生み出すこととなった。


 さて、話は日常が大きく歪んだ後のことへと移るわけだが、まずはそこに至る直前の話をするとしよう。

 私が大切に形を整えていた偽りの日常が簡単に形を変えてしまったあの出来事を。

 砂の城など最もたやすく崩壊してしまうものなのだと私に知らしめてくれた、あの忌々しい出来事の話を。


 結局、私の作り上げた皆の理想的な佐伯桜花わたしと言うものは優子達みんなにとっての理想的な私というだけであり、完結した世界の外側にいる人間からすれば全くもって理想的ではないある種の目の上のたんこぶ的なものだったのだ。


次回。物語はさらなる急展開を迎えます。

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