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最後の夢  作者: 人生依存
斯くして少女は最後の夢を叶える
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第5話【明けぬ夜に日を望む⑤】


 世界が偶然の産物でしか無いビッグバンによって生まれたのなら、世界もまた偶然の産物であるわけで、そんな何もかもの偶然の延長線上に生まれた私たちも例外ではなくただの偶然の産物だ。

 宗教とかそういう心の拠り所がある理由が私にはわからなかった。だって、世界が偶然の産物である以上は生まれ変わりだとか、死後の世界だとかそう言った設定なんてあるはずが無いのだから。

 もし天国とか地獄とか、生まれ変わりとかそういう話が真実なのだとしたら、世界が生まれたのは偶然ではなく誰かの手によって生み出されたということになる。そうでなければ論理ロジックが破綻してしまう。

 だから生まれ変わりとかそう言った、私のように死に怯える人間への救いなんて存在しない。そう思っていた。

 けれど、私は生まれ変わりと言うものが確かに存在するのだと身をもって知ってしまった。だからその希望を願ってしまうし、それに縋ってしまう。

 

 あの夢のことは死ぬまで忘れることがなかった。私に垂らされた蜘蛛の糸の夢。私では無い誰かの、でも確かに私のものである記憶。それを見た夢を私は忘れられない。

 この話を何人かのクラスメイトにしたけれどみんな私を笑った。彼ら彼女らの言い分はこうだった。

「何言ってんの?生まれ変わりがあるのは当たり前でしょ?だって、お父さんもお母さんもそうやって言っていたもん」

 私は衝撃を受けた。私が散々苦悩して偶然にたどり着いた答えが世間一般では当たり前に認知されていることで、そこに論理など必要無いのだと知らされて衝撃を受けた。

 そうやって馬鹿にされたのが小学校三年になって少し時間が経った6月の頭のこと。私はそれから一月ほど自分がどれだけ愚かで矮小で、他人から遅れている人間なのだろうと悩まされた。

 だからなのか、私は他人に対する仮面を作ることを疎かにしてしまった。他人から見た理想の可愛らしい女の子である佐伯桜花を演じることをすっかり忘れてしまっていた。

 結果、私は不愛想ぶあいそに他人と接してしまって敵を増やすことになった。

 江口えぐち佑也ゆうや山沢やまさわあかねの時のように理不尽に敵が増えたのではなく、本当に私の自業自得で私を敵視する人間は増えてしまった。

 そのまま敵を増やし続けるような事を私がするわけもなく、私はまた佐伯桜花と言う明るくて勉強のできる女の子を演じた。けれど、私が私を再び真面目に演じ始めたのは三年生も残り三ヶ月と言う頃。その頃にはすでに私と友人のように接してくれる人間など片手の指の数よりも少ない人数しかいなかった。

 それ以外のクラスメイトは、皆私に強く当たった。

 この時のクラスに、あかねも佑也もいなかった。

 私を精神的疲労ストレスのはけ口にした。


 最初は給食の配膳が他の人よりも少量になっていたとかそんな程度だった。けれど、時間が経つにつれてどんどんと酷いものになっていった。

 一年前はあかねを主犯とした数人のグループに私は虐められていた。だからそういう辛い感情のようなものにはすっかり慣れていたと思っていた。より辛い思いを私は味わっているのだから、別にどうってこと無いだろうと思っていた。

 けれど、クラスメイトほとんど全員からの虐めは私が笑って過ごせるようなものではなくなっていった。

 こういう時、普通なら今でも忘れないとかいうのかもしれないが、私はもうすっかり記憶が曖昧になってしまっている。興味が無い物事に記憶の容量リソースを割くような余裕は私に無いし、それにそんなことを覚えていられるほど私の人生は緩やかで何も無いものではなかった。

 たしか、小学校三年生の2月ごろだっただろうか。私は一ヶ月近くの間入院生活を送ることになった。

 理由は怪我だった。

 転んだとか誰かに殴られたとかそういった類のものではなかった。

 複数人いた犯人のリーダー核の名前はなんだっただろうか。この記憶はもうその程度だ。小学校五年になる頃にはこんな程度の記憶しか残っていなかったのだから事件自体はさほど記憶にとどめるほどのものではなかったと言うことになる。

 事件の概要はこうだった。

 班ごとに山菜を指定量採取するという校外学習の際、学校の裏手にある山に山菜を探しに行き、私は班員に置き去りにされた。それもただ置き去りにされたのではなく、山頂近くで道外れに私は突き落とされ、そのまま山の中腹まで転がり落ちた。もちろんあちこちから血が出ていたし、後々になってわかったことだけれど足の骨なんかも折れていた。そんな状況状態で私は置き去りにされたのだ。

 彼らだったか彼女らだったかは忘れたけれど、とにかく犯人たちは遊び半分だった。

 いつものように何かしらの身体を蝕む感情のはけ口として、つくしを探してしゃがんでいた私の背を押した。まさかそんなことになるとは思っていなかったのだろうが、結果として私は山を転げ落ち、大怪我をしてしまった。

 流石に馬鹿な班員たちもやってはいけない事をやってしまったと認識したようで、慌てて逃げていった。

 ただ、そんな馬鹿な班員たちが逃げ去っていく様を私は見てはいない。

 なにせ、私は何度もなんども頭や体を強打して気を失ってしまっていたのだ。

 つまり私は瀕死の状態になった。その状態で放置され、実際に見つけられるまで4日ほどかかった。

 そういう事情があって私はひと月ほど入院をした。

 私が学校生活に復帰をしたのは四年生になってからだった。


 始業式の日、ランドセルに鉛筆1本と消しゴム一つだけが入っている筆箱を入れ、それ以外は何も持たずに学校に向かった。

 それだけしか持っていなかかった理由は始業式の日にそれ以上必要なものは無いだろうと思ったからだった。

 学校に着くと昇降口の壁に大きな用紙が貼られていた。クラスの振り分けが描かれている用紙であることは小学生生活も四年目になれば簡単に理解することができた。

 四年1組が私のクラスだった。

 今年は去年のように私を演じる事を怠らないようにしなければならないと自分に言い聞かせながら教室の扉を開くと、すでに登校していたクラスメイトたちの視線が集まった。

 すでに登校していたクラスメイトとはいったけれど、私の登校班は全部の班の中でもドベから2番目ぐらいに学校に来るのが遅い班だ。つまり、私以外の人間は全員揃っていた。

 新たなクラスで私を知る人間はそこまでは居ないものだと思っていた。にもかかわらず、クラスメイト全員が私に視線を集めるのは異常な光景だと感じた。けれど、席の最前列廊下側に座る少女を見て私は納得した。

 山沢あかねが同じクラスに割り振られた。よくよく見れば佑也も居た。

 つまり、私の居場所はすでに消されているようなものだった。


「はい。じゃあこれから1年間同じ時間を共有する仲間どうし、自己紹介をしましょう」

 メガネをかけた女教師の河村こうむら先生はホームルームが始まるなりそういった。

 教室のあちこちからまばらに「はーい」と言う返事が聞こえた。

 私の出席番号は13番。20人のクラスメイトの真ん中あたりで自己紹介をした。

 他の子達の時はポツポツと拍手が聞こえたけれど、私の時に聞こえたのは忍笑いのようなうすら寒い声だけだった。

 けれど、私はそんなこと特に気にならなかった。と言うのも、他ごとに意識が持って行かれていたからだ。

 私が気になっていたのは自分よりも4つ前に自己紹介をしていた男の子。自己紹介に対して佑也が誰よりも拍手をしていたのが少しだけ腹立たしかった。

 きっと、佑也はその少年を気に入っているのだろうと思った。

 その人物は私もよく知っている人物で、あの日私に手を差し伸べてくれた弱々しくてヨソヨソしい男の子にしては背の低いあの少年だった。

「あ…ぼ、僕は、その……あ、藤沢ふじさわ光助こうすけっていいます。1年間よろしく……お願いします」

 みたいな感じで小さな声で自分の名前しか情報を開示せずに自己紹介を終えた光助くんだけれど、思いの外友人というものを作ることに成功していたようだった。

 私はクラスの端で精神的疲労ストレスのはけ口に使われた。

 まさかこんなことになるとは思っていなかったけれど、私は確かにいじめられていて、光助くんはクラスメイトの中心である佑也に気に入られているからっていうのもあるけれど、常にクラスのカースト上位者の中にいた。

 だから、私は諦めた。明るく振る舞うことは何がなんでも続けるけれど、皆に好かれにいくことを諦めた。ただ、私を好いてくれている人にはせめて好かれようと試みた。

 意外だったのがこの一年で佑也が私へ好意を抱かなくなっていたということだ。すでに何度か拒絶していたのだから当たり前なのだろうが、それでも彼が私への好意を枯らすことはないものだろうと考えていたから少しだけショックだった。

 そして、佑也がこの一年であかねに対して恋愛感情というものを芽生えさせていたのも意外だった。

 じゃあ私への告白はなんだったのだと世の女子は思うかもしれないけれど、私は特に気にしなかった。私はそんなことに精神を割けるほど何も考えていないわけではないからだ。

 未だ私は毎日のように自分との会話を繰り返していた。

 日を追うごとに死ぬことへの恐怖が膨らんでいってしまった。

 だからなのか、私は自分ではない人間への興味がだんだんと薄れていってしまった。

 そうして9月ごろ、よくよく考えてみれば私に対する虐め行為が一切行われなくなっていた。けれど、そんなことにも私は気がつけなかった。

 

 いつの間にか私が障害のない昔のような平和な時間を過ごすことができるようになり、少しばかりの時間が過ぎた。

 10月の20日ごろだっただろうか。合唱大会のあたりの日付だったのだからきっとそうだ。

 忘れ物を回収するために放課後に学校に行った時、私は偶然見かけてしまった。

 佑也やあかねがいつものように取り巻きを連れ、誰かをいじめているのを見かけてしまった。私ではない誰かを7人ほどで取り囲み、代わる代わるその中心にいる人物を蹴飛ばしていた。

 また随分と馬鹿げたものをしているものだと思った。けれど、止めに行こうとかそういうことは考えなかった。

 だって私は正義の主人公ヒロインでなないのだから。

 私は私で、ただ死ぬことに怯えているだけ。他人になんて構っていられない。

 この時の私はまだ、佑也やあかねの新しいターゲットが光助くんだなんて知らなかった。

 まぁ、もし知っていたら何か変わっていたのかとは思うけれど、とにかく私はまだ鈍感な私でいた。


お久しぶりです。

現状として月1更新でこの量はさすがに短すぎると思って反省しています。

めっちゃペースあげます許してください。

後2話で第2部の第1章が終わります。そこからがようやく第2部の本番です。

第2部の前編は最後の夢本編の前日までのお話です。後編では本編と同時系列のお話です。それだけ言っておきます。

お楽しみください。

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