第11話『ダレカノキオク』
夢で目が覚めると、ものすごく気分が落ち着いていて、目に入ってくる光景すべてが輝いて見えていた。
太陽の光。
空の青さ。
外で鳴く蝉の声。
全てが愛おしかった。
歯磨きをして服を着替えた僕はリビングに入り、その光景を目に焼き付ける。
テレビとテーブル、そしてソファ。
もう何年も見てきた光景だ。
そんな当たり前の光景が輝いて見えた。
ソファの横辺りまで歩いた僕は、ポケットの中に入っているものに触れる。
嫌な冷たさをするそれは、前日までの陰鬱な気持ちをすべて吸い取っているような錯覚を僕に与えた。
僕はそのまま、触れている金属の塊をゆっくりと取り出し、左の首へとあてがう。
先ほどまでのおだやかな気持ちが嘘のように薄れていき、呼吸が荒くなる。
僕はたっぷりとためらった後、思い切って右手をスライドした。
僕は噴水となり、赤い水を芸術的に吐き出す。
そして、僕は赤い華々に囲まれた。
僕は真っ赤な花畑に埋もれながら、『ピッ…ピッ…ピッ…』という、頭に響く不思議な機械音を、ただ静かに聞きながら意識を手放した。
こうして僕は、冷たいコンクリートの上で目を覚ました。




