表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魔法使いと楽器のはなし

チェロのはなし

作者: 滅天使

童話風の書き方をしたくて書きましたパート2

 むかしむかし、あるところに、幼馴染の少年と少女がいました。


 あまりにも昔の話なので、二人の名前は分かりません。


 とても仲の良い二人は、何をするのも一緒でした。


 ある日、少年がチェロを弾く練習を始めると、少女も同様にチェロを弾く練習を始めました。


 日ごとに、少女はチェロを弾くのが上手くなり、次々と難しい楽譜を弾けるようになっていきました。


 先に始めた自分よりも、後から始めた少女のほうが格段に綺麗な音を奏でるので、少年はとても焦りました。


 同時に、自分よりも上手にチェロを弾く彼女が恨めしく思いました。


 そんな彼の気持ちを、少女は全く気付かず、いつものように一緒に練習しようと誘いました。


 少年はとうとう怒ってしまい、一人で練習をするようになりました。


 それでも少女は毎日少年を訪ねました。


 ところがある日、それがピタリと止みました。


 全く顔を見せなくなった少女のことが気になり、少年は少女の家に行きました。


 しかし、少女はいませんでした。


 少女の父親に尋ねると、数日前から帰ってこないと言うのです。


 少年は必死に町中を探しました。


 二人で遊んだ公園や、森の奥の秘密基地、少ないお小遣いを出しあって買うお菓子屋さん。


 町中くまなく少女を探しましたが、彼女は見つかりませんでした。


 すっかり暗くなってしまったので、仕方なく少年は家に帰りました。


 家に帰ると、両親にひどく叱られました。


 少年は素直に謝りましたが、どうやら心配をしたのは、ただ帰りが遅かったからではないようです。


 母親は言いました。

「落ち着いて聞きなさい。少女は見つかったけど、死んでしまったの」


 父親は言いました。

「お兄さんに殺されて山奥に捨てられていたんだ。お前の帰りも遅いし、もしものことがあるんじゃないかと、母さんと二人で心配していたんだ」




 両親の話を、少年はうつろな頭で聞きました。


 彼女を探していた間に、すでに少女は死んでいて、もう何もかも終わっていたのです。


 少年は部屋に閉じこもり、自分のチェロを見つめながら泣きました。


 意地にならず、いつものように二人でチェロの練習をすればよかった。


 もうできないと知っていれば。


 もうできない。




 それから数日、数か月────そして数年経ち、少年は青年になりました。


 青年は独り立ちするため、家を離れる準備をしていました。


 その時、クローゼットの奥で、埃をかぶって灰色になっていたチェロを見つけました。


 少女が死んで以来、まったく弾かなかってしまったのです。


 もう弾かないならいっそ捨ててしまおうかとも思いました。


 しかし、青年は荷物の中にチェロを入れ、家を出ていきました。




 新しい街で青年は、公園で遊んでいる子供たちを見かけました。


 しばらくして、子供たちは家に帰っていきました。


 新しい部屋に帰った青年は、荷物を片付けてすぐ、チェロを弾きました。


 もう何年も弾いていなかったので、あの頃より演奏が下手になっていました。


 自分の下手な演奏を聴く度、少女と練習していた時のことを思い出しました。


 青年は夜通しチェロを奏でました。




 あくる日。


 とある楽団が町を訪れました。


 演奏をしながら旅をする一座です。


 青年は無理を承知で、楽団に入りたいと願い出ました。


 団長は、何故入りたいのかと、理由を尋ねました。


 青年はこう言いました。


「後悔したくないから」


 団長は、更に詳しい訳を聞こうと思いましたが、やめました。


 その代わりに青年に手を差し伸べました。


 青年がその手を取ると、


「もう後には引けませんよ?」


 青年は楽団に入り、大勢の人たちに囲まれながらチェロを弾きました。


 勿論、下手なチェロだと笑われました。


 しかし、みんなは上達するよう教鞭を取ってくれました。


 青年は、ひとつも取りこぼさないよう練習に励みました。


 のちに、チェロ弾きの青年の名は有名になりました。




 青年はたくさんの花を買い、少女の墓に添えました。


 お墓の前で一曲だけ奏で、一座と共に旅に向かいました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ