チェロのはなし
童話風の書き方をしたくて書きましたパート2
むかしむかし、あるところに、幼馴染の少年と少女がいました。
あまりにも昔の話なので、二人の名前は分かりません。
とても仲の良い二人は、何をするのも一緒でした。
ある日、少年がチェロを弾く練習を始めると、少女も同様にチェロを弾く練習を始めました。
日ごとに、少女はチェロを弾くのが上手くなり、次々と難しい楽譜を弾けるようになっていきました。
先に始めた自分よりも、後から始めた少女のほうが格段に綺麗な音を奏でるので、少年はとても焦りました。
同時に、自分よりも上手にチェロを弾く彼女が恨めしく思いました。
そんな彼の気持ちを、少女は全く気付かず、いつものように一緒に練習しようと誘いました。
少年はとうとう怒ってしまい、一人で練習をするようになりました。
それでも少女は毎日少年を訪ねました。
ところがある日、それがピタリと止みました。
全く顔を見せなくなった少女のことが気になり、少年は少女の家に行きました。
しかし、少女はいませんでした。
少女の父親に尋ねると、数日前から帰ってこないと言うのです。
少年は必死に町中を探しました。
二人で遊んだ公園や、森の奥の秘密基地、少ないお小遣いを出しあって買うお菓子屋さん。
町中くまなく少女を探しましたが、彼女は見つかりませんでした。
すっかり暗くなってしまったので、仕方なく少年は家に帰りました。
家に帰ると、両親にひどく叱られました。
少年は素直に謝りましたが、どうやら心配をしたのは、ただ帰りが遅かったからではないようです。
母親は言いました。
「落ち着いて聞きなさい。少女は見つかったけど、死んでしまったの」
父親は言いました。
「お兄さんに殺されて山奥に捨てられていたんだ。お前の帰りも遅いし、もしものことがあるんじゃないかと、母さんと二人で心配していたんだ」
両親の話を、少年はうつろな頭で聞きました。
彼女を探していた間に、すでに少女は死んでいて、もう何もかも終わっていたのです。
少年は部屋に閉じこもり、自分のチェロを見つめながら泣きました。
意地にならず、いつものように二人でチェロの練習をすればよかった。
もうできないと知っていれば。
もうできない。
それから数日、数か月────そして数年経ち、少年は青年になりました。
青年は独り立ちするため、家を離れる準備をしていました。
その時、クローゼットの奥で、埃をかぶって灰色になっていたチェロを見つけました。
少女が死んで以来、まったく弾かなかってしまったのです。
もう弾かないならいっそ捨ててしまおうかとも思いました。
しかし、青年は荷物の中にチェロを入れ、家を出ていきました。
新しい街で青年は、公園で遊んでいる子供たちを見かけました。
しばらくして、子供たちは家に帰っていきました。
新しい部屋に帰った青年は、荷物を片付けてすぐ、チェロを弾きました。
もう何年も弾いていなかったので、あの頃より演奏が下手になっていました。
自分の下手な演奏を聴く度、少女と練習していた時のことを思い出しました。
青年は夜通しチェロを奏でました。
あくる日。
とある楽団が町を訪れました。
演奏をしながら旅をする一座です。
青年は無理を承知で、楽団に入りたいと願い出ました。
団長は、何故入りたいのかと、理由を尋ねました。
青年はこう言いました。
「後悔したくないから」
団長は、更に詳しい訳を聞こうと思いましたが、やめました。
その代わりに青年に手を差し伸べました。
青年がその手を取ると、
「もう後には引けませんよ?」
青年は楽団に入り、大勢の人たちに囲まれながらチェロを弾きました。
勿論、下手なチェロだと笑われました。
しかし、みんなは上達するよう教鞭を取ってくれました。
青年は、ひとつも取りこぼさないよう練習に励みました。
のちに、チェロ弾きの青年の名は有名になりました。
青年はたくさんの花を買い、少女の墓に添えました。
お墓の前で一曲だけ奏で、一座と共に旅に向かいました。