裏で操る男?ーいえ、あくまで女王様のお遊びです。
「断罪イベントに婚約破棄?いえ、全ては女王様のお遊びです。」の続きのようなものです。
この話だけでは分からないかと思います。
「勇者?」
「ええ。ほら、少し話題になったことがあったでしょう?」
「それがなぜ君のところにーー」
「お嬢様と結婚するのは自分だと。僕に戦いを挑んできたんです。」
老人は頭を抱えた。
「なんてことだ....すまない、私の娘が....」
「いえ、大丈夫です。上司がどうにかしてくれるそうなので。」
「そうか、君の上司といえばーー」
「ええ。そうです。」
「ーーああ、本当に良かった。君のような人と娘の結婚が決まって....」
老人は本当に安堵したように男の手を握った。
◇◆◇
「うむむむ.....」
「リムシア様?」
「うーーーーむ.....」
「リムシアさまーー。」
「ううう......ん」
「ーーーなぜやめるのじゃ!」
がしゃこーん!、と机を投げ飛ばした。
「我が悩んでいるのだぞ!ーーもっと心配せぬか!」
うががが、とリムシアは威嚇した。
「ふふ、はいはい。分かりましたよ。」
「べ、べつに興味がないならよい。」
リムシアの顔がじわじわと赤くなり、
ふいっ、とそっぽを向いてしまった。
私はこれ以上はいけない、と笑いを堪えた。
「それで、どうなさったんですか?」
耳元で囁く。
「な!ーーーーこれじゃ。」
ばさりと書類を渡される。
「これは...」
今年、どこにいくらお金がかかったかの最終報告の書類だった。
それがなぜか、修繕費に異様な金額がつぎ込まれている。
「変じゃ。街外れの競技場が何度も破壊されておる。
そう簡単に壊れない創りになっていたはずじゃが.....ギース、何か報告は受け取らんのか?」
私には心当たりがあった。
「そうですね。勇者を名乗る男が競技場を荒らして回っていると、報告が。」
「ーーな、なぜそれを教えぬ!」
「教えたら、どうしました?」
うっ、とリムシアは言葉に詰まった。
「べ、べつに....」
「別に何も?なら、知らなくてもいいですよね?」
「な、ならぬ!ならぬものはならぬのじゃ!」
いーーーっと、八重歯を見せた。
「その、勇者とやらは、何者なのじゃ、」
「なんでも突然現れて、人々を救っているとか、荒らして回っているとか。賛否両論ありますね。」
「うーむ...よし、探しに行ってくる。」
「ーーどこへ?なにをしに、です?」
ひょいっと椅子から降り部屋を出ていこうとしたリムシアを引き止める。
「は、離すのじゃ!」
リムシアはバタバタと私の腕の中で暴れた。
と言っても、本当に離して欲しい訳でないと私は分かっていた。
◇◆◇
「ぎ、ギース様、追加でご報告したいことが!」
扉の向こうから部下の声がした。
リムシアは一瞬で大人しくなり、椅子に戻る。
私が許可すると部下は恐る恐る入ってきた。
部下たちは、私がリムシアといるときに邪魔をすると良いことがないことを身に染みて理解している。
「なにがあった。」
「はっ。王宮の近くで月の女神の像が破壊されたとの報告が!」
「なに?」
月の女神はこの国で信じられている神で、街の人間からもその像は大切にされている。
もちろん盗まれたりしないよう、国で対策は施してあった。
「誰が何の目的でしたのか、分かっているのか。」
女王からの言葉に部下もより背筋を伸ばした。
「はっ。目撃者も多数おりまして、」
部下は言いにくそうに目線をしたに向けた。
「それで、誰がなぜ?」
私の気持ちが伝わったのか、部下は青い顔をして報告を続けた。
「それが、勇者と呼ばれる男で、国には名前の登録がなかったのです。ジェームズという名前で探してはみたのですが、近隣の国でも登録はないようで....」
私とリムシアは思わず目を合わせた。
国に登録がないということは密入国者か、スパイか。
「それで、破壊の目的は?」
女王の厳しい声に緊張感が走った。
「それが....」
部下の'ため'に、国に忍び寄る危機を感じていた。
部下は一度唾を飲むと、私の方をみた。
「それが、ひったくりを捕まえる、ためだと.....」
威厳を保つようしていた女王も、思わずきょとんとした表情になった。
「ーーひったくり?」
「は、はい!荷物をひったくりした男を捕まえるため力を使い、それが偶然月の女神の像も壊す結果になったと....」
私はこめかみをもんだ。
部下もこの報告が異常だということを分かっており、恐る恐る私の顔を見上げる。
「分かりました。」
「あの、捕まえておくべきでしょうか?」
「いえ、一度解放しなさい。居場所は追っておくように。」
私が視線で退出を促すとできる限りのスピードで部屋から出て行った。
◇◆◇
「ーーー決めたぞ。」
リムシアは立ち上がった。
私は嫌な予感がした。
「何を、です?」
「そいつを真の勇者に仕立て上げようぞ。」
「どうやってーー」
「我は旅に出る。後はよろしく頼むぞ。」
リムシアは私室に移動し準備を始めた。
「な、なにを、」
「ん?その勇者とやらと旅に出る。まあ、数年で戻るから心配するな。」
「ーーなぜ、そんな、危険な男と!」
「危険?いいやつではないか、ひったくりを捕まえようとしたそうじゃぞ?」
ふんふんと鼻歌を歌いながら荷物を詰める。
「この国の者ではないのです!どんな目的を持つ男かーー」
「この国で自由にされても困る。じゃが、他国に持って行かれても困るのじゃ。」
「しかし、リムシア様がーー!」
リムシアは私の方を向いてにぱっと笑った。
「大丈夫じゃ。我の勘は外れぬ。」
私は思わず止まってしまった。
「なんじゃ?我の笑顔に惚れたか?ん?ん?」
ニマニマと笑いながら私に近づいてくる。
「リムシア様ーー」
「心配か?勇者とやらに我が惚れぬか。」
「そういう、わけではーー」
「そうか、ならいいんじゃな?どうなっても。」
リムシアの罠だと分かっていながら、私はリムシアを押し倒した。
「ん、んーーーっ、、ぷはっ」
はふはふと息をするリムシアが今までにないくらい可愛くみえた。
こんな女王様の姿を、勇者とやらが見るというのかーー
「そうですね。じゃあ私がその間にどうなっても、いいんですね?」
「だ、ダメじゃ!というか長いわ!ーーううう....」
耐え切れなくなったリムシアが私に抱きつく。
「ダメじゃ。浮気は許さぬ。絶対じゃ。」
「ふふ、リムシア様も、ですよ?」
「わ、分かっておる!」
「夜は勇者と二人きりにならないこと。」
「分かっておる。」
「強い男を見ても着いて行かないこと。」
「わ、分かっておる。」
「強い相手と戦おうとしないこと。」
「わ、分かっておる!」
「ーー帰ってきたら、私のものになること。」
「わ、分かってーー?」
きょとんとした顔で私を見上げ、みるみるうちに顔が真っ赤になった。
「ば、ばか者!ギースが我のものになるのじゃ!」
「ふふ、そうでしたね。」
二日後、ギースはリムシアを送り出した。
◇◆◇
「ーー思い出しましたか?」
「おお!あの時の!」
「ええ、そこにあの勇者が....」
「ーーあの令嬢には幸せになって貰わねばならぬからな。なんとかしておけ。」
「ーーええ。手配は済んでます。....それはそうと、この話でなにか気づきませんか?」
リムシアはきょろり、と目をそらした。
「ーーなにか?なんのことじゃ?」
「リムシア様が嘘をつくとき鼻が動くって知ってましたか?」
リムシアはパッと鼻を押さえた。
「ふふ、冗談です。
リムシア様、私に嘘をついてますね?」
「だ、騙しおったな!」
「ふぅん、そうですか。私が悪いと仰るのですか。」
「い、や.....うう...」
「嘘をついたリムシア様には、御仕置きが必要ですね。」
「今日は覚悟しておいてください。」
私はリムシア様の耳元で囁いた。
ありがとうございます。