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05 町に行こう


 異世界の日々は、正直言って素晴らしすぎた。

 私の仕事はスマホのゲームだけだ。

 家の居心地としては、どこかのペンションに来ているぐらいだ。ウサギが掃除をしてくれるし、食事も小人族が用意してくれる。目が疲れれば散歩に行けばいいし、牛の乳搾りも体験してみた。

 そして二週間後。


「これが銀馬かぁ」


 キラキラと輝く銀馬が農場にやってきた。

 無事に白馬を十頭納品できた。後は女神様の采配に任せよう。

 銀馬は私の胸あたりに顔を擦り寄せた。挨拶なのだろう。わざわざ顔を避けてくれた気がする。

 銀馬は挨拶が終わると放牧場にいる他の家畜達に挨拶をして回った。異種族でも関係ないらしい。犬達なんかは主が来たと言わんばかりに尻尾を振っている。


「あれ、主人は私だよね」

「エリィ様はオーナーで、銀馬は直属の上司ですから。よい部下がきましたね」

「私いらなくない?」

「役割が違いますよ。魔物退治はエリィ様には無理ですし」

「銀馬なら魔物退治も出来ちゃうんだよね」

「私でも大丈夫ですよ」

「うぅ、私の価値が無さ過ぎる気がする」

「そんなことありません。二週間で白馬を十頭納品されたではありませんか。女神様でしたら数ヶ月かかっても終わっていませんから」

「それは比較対象が悪い気がする……」

「まぁまぁ。小人族は便利な反面、その扱いが面倒なのです。それを扱えるエリィ様方召喚者の皆様には本当に感謝しておりますので」


 まぁ、私はゲームしていただけだけどね。


「とにかく銀馬がいればウサギがいなくても農場を留守に出来るわけだよね」

「左様です。では」

「うん。町に行く用意を始めるよ」




 箱庭から出るにはどうしたらいいか。

 ウサギに聞いて順番に取り揃えていった。

 まず移動手段は馬車だ。馬は売るほどいるので、六頭立てで行こうという話になった。どこの王侯貴族だと思うけど、ウサギなら操れるとさ。さすがチート。

 町についたら四頭は売ろうという話だ。比較的若くて元気な馬を選んだ。

 馬車は小人達に作ってもらった。というか、馬車はそもそも作れる品目にあって、ウサギが改造した。スプリングやマットが素晴らしい乗客に優しい品だ。


 居住性も上げるため、クッションなんかは自分で選んだ。

 ハンモックにあった刺繍が可愛かったから、あれが出来ないかと小人達に聞いたら出来るというので、フリンジがついたクッションカバーを縫ってもらった。

 クロンを出して買うものよりは肌触りが悪い。が、クロンで直接購入したものは箱庭から持ち出せないと言われた。箱庭ルール再びだ。

 でも小人達が刺繍をするのを横で見ていて、出来上がってどうぞと手渡された瞬間、そのクッションカバーは唯一無二の品になってしまった。

 小人達の身長は一メートルもないだろう。三歳児ぐらいの大きさなのだ。クッションカバーを縫ったのは赤い髪の女の小人で、赤毛のアンと心の中で呼んでいた。その子がニコニコしながら縫ってくれたのだ。嬉しくないわけがない。

 私の着替えも縫ってもらった。箱庭で着るよりも質素で村娘らしいエプロンワンピースだ。麻や綿のナチュラル系だけど、裾に刺繍を入れてもらった分かなり可愛い。

 そうそう。小人達への指示や命令はスマホを介さなくても出来る。箱庭内で作業出来るのは5つと変わりないけど、あれこれ指示を出来るのはかなり有り難い。


 町までは三日程度というので、余裕を持って食糧は保存食を十日分用意した。

 無駄はいけないが、異世界で最初の町行きでイベントがないはずがない。

 食糧とは別に山のように作った人参とトウモロコシも積み荷として持っていくことにした。これも売って現地のお金にかえる予定だ。


「武器とかはいいのかな?」

「私の武器は必要ですが、エリィ様はどうぞ馬車の中で待っていていただければ」


 ウサギは事も無げにそう言った。いや、ウサギは強いと聞いたけどサイズは小人族より少し大きいぐらいだからね。

 心配だけど、いざとなれば馬力で逃げていいわけだからと深く考えないことにした。

 タオルや歯ブラシ、私物もカバンに入れたら準備は完了だ。

 あ、異世界定番のアイテムボックスはないんだって。箱庭の倉庫がそれにあたるので、持ち運びするカバンは普通のカバンなんだとか。

 箱庭ルールがチートなだけで、農園から出たら色々チートが効かないから気をつけるようにと言われた。



「じゃあ、行ってきます。留守はよろしくね」


 見送りに出ていた銀馬と小人族に挨拶をした。

 銀馬はこすりつける挨拶の後、一度嘶いた。

 小人族はみんなニコニコと手を振っている。スマホは持っていくからね、お出かけ中も指示は出しますよ。

 ウサギが御者台に乗り、私も座席に座ると馬車が動き出した。

 箱庭を抜け、西に西にと馬車を走らせる。


「何もないねぇ……」


 見渡す限り砂と岩だ。砂も岩も白っぽくて、空は青い。


「このあたりは荒野ですからね。誰にも迷惑がかからないため、ここに農園を設置しました」

「なるほど。じゃあ他のトリップした人もそういうとこに?」

「はい。大体が荒野ですね。一人は無人島ですけど」

「船で脱出か。船も作れるんだね」

「小人族は器用ですから可能ですよ。このあたりでは船を作るならば先に川を造らなくてはなりませんが」

「船に乗りたいから川を造るってどこの平安貴族?! そこまで乗りたくないよ?」

「そうですか? 農園から荷を運ぶならば町まで川があった方が便利ですよ。荒野ですから、川を作って誰からも文句は出ませんよ」

「水の利権とか絶対絡んで面倒なのが目に見えます。てか、川が作れるわけ?」

「作るというか……数百年前は川があったんです。このあたりは草原地帯でした。それが人間が牧草地にするわ、戦争するわで根こそぎ草がなくなり川も枯れた次第でして」

「えーと、このまま砂漠になりそうなんだけど」

「なりそうですねぇ」

「問題じゃない!」


 前にグーグル先生で衛星写真を見たのを思い出した。地球もどんどん砂漠地帯が広がっていたんだ。あの写真はゾッとする。

 砂漠ってその地帯だけで終わる話じゃなくて周りに砂を撒き散らす。この砂のせいで、砂漠の周りには植物が育ちにくくなるんだ。と何かで読んだ。


「ですから、エリィ様が川を作って草原を復活させて、林や森を作れば豊かな土地になりますよと」

「え、何その緑化プロジェクト」

「マテリアルが不足した世界など、多かれ少なかれこのようなものです」

「地球も不足してない?」

「そのあたりは地球の神に聞いてください」


 それは聞けないって意味じゃない?

 とにかく私ならできるのか。


「うーむ」


 まずはこの荒野の扱いがどうなっているか調べないといけないよね。戦争で疲弊した土地なら国境線になっている可能性もあるんだし。

 川自体は魔法がある世界なら土魔法とかで土手とか作れそうだし、小人族に工具を作ってもらうか重機を作る手もある。

 北海道の緑化には昆布を敷き詰めて種を植えた話があったけど、中国の緑化はひたすら砂に強い木を植えて防砂林を作ったはずだ。

 ここはまだ荒野で砂はさほど飛んでないけど、防砂林を作るのは悪くないはず。もしも土地に合わなければ枯れるだけだろう。



 時々休憩を挟みながら、私はスマホを操作しながら馬車はずんどこ進んでいた。そして何事もなく一日目の日が暮れた。

 テントは張らず、馬車の中で寝るらしい。荒野は夜は冷えるので防寒具を着込んで寝てくださいと言われた。

 ウサギが焚き火を興してスープを作る。パンにオリーブオイルを垂らして炙る。家では味わえない雰囲気にドキドキした。

 満点の星空にため息をつく。焚き火があるから星が降ってきそうなことはない。

 農園は夜でも明るかった。夜でも小人族が作業をしていたのだから当然だろうと思うだけど、実は夜でも作物が育つように人工太陽が浮かんでいたのだ。


「エリィ様、お茶をどうぞ」

「ありがとう」


 ステンレスのマグに甘めのお茶が入ってる。セイロンティーに味が近いかな。そういや会社の同僚で女子力が高いあの子は紅茶に詳しかった気がする。無事、イケメン男子を捕まえられただろうか。

 ウサギをちらりと見た。


「ウサギってさ。性別どっち?」


 今まで何となく聞きにくかったので、今更聞いてみる。

 ウサギはキョトンとした顔でこちらを見つめた。


「女神様以外、女神の庭にいるものは全て男ですよ」

「すごい逆ハーだな!」

「この世界のウサギの獣人は全て私と女神様の子孫です」

「待って! それだと女神は女神の庭にいる人全員とやっちゃってるわけ?」

「世界の創世にそういう話はつきものでしょう」

「うわー。聞きたくなかった」


 私は頭を軽く振った。ウサギは笑ってスープをかき混ぜた。


「まぁ、普通の受胎じゃありませんよ。人間のように十月十日身ごもることはありません」

「ああ、そうだよね」

「一度に一人二人産んでいたのでは足りませんしね」

「え、何。魚なの? 両生類?」

「そこまでは。爬虫類ぐらいですね」

「サラッと言うなぁ」

「まぁ、それがこの世界の成り立ちですから」


 そう言いながらスープとパンを手渡してくれた。

 コンソメ系のスープには人参や豆がふんだんに入っている。ジャガイモとベーコンも入っていてボリュームたっぷりだ。


「美味しいねぇ」

「ありがとうございます」

「このまま何事もなく町に着くといいねえ」

「そうですね」



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