04 マテリアル
とはいえ大量の資源はあるんだから、一文無しとはいえないか。
「話の繋がりが見えないんだけど」
「そうですね」
ウサギは首をひねりながらしばし考えた後、もう一度私を見つめた。
「女神様の目的はマテリアルを増やすことです。これに関しての活動はクロンだけでも賄えます。ただ、エリィ様画この農場から出かけることを考えるならば外の町との付き合いも考えなくてはいけません」
「なるほど。箱庭だしここだけで世界は完結できるわけなんだね」
「はい。お望みでしたら近隣の町からここが見つからないように隠蔽することも可能です」
「ふむ」
この世界がどんな世界かはわからないが、私がこの農場だけで飽きないかと聞かれると確実に飽きる。
ゲームは私にとっての現実逃避で思考停止のためにあるものだ。ずっと思考を停止すればきっと飽きがくる。
「外の世界は危険かな?」
「安全だとは言えません。魔物や盗賊もいますし、衣食住のランクも下がります。」
「魔物いるんだ。じゃあダンジョンとか迷宮とか魔王とか……」
「ダンジョンはあります。魔王はこの世界におりませんが、知恵のある魔人ならいます」
「あるんだぁ……じゃあ冒険者とか」
「冒険者ギルドもあります」
「基本的なファンタジーなんだね」
「興味がございますか?」
「うーん」
私はしばらく考える。そして大きく頷いた。
「うん。興味ある。けど、とりあえず農園をきちんと管理してから行くことにする」
「かしこまりました。ちなみに、私の召喚期間は一年となっております」
「それは長いような短いような」
「そうですね。私と一緒でしたらどのような敵からもお守り出来ますが、一年後のことを考えて活動してくださいませ」
どんな敵からもって言い切った。女神様の遣いだし、チート仕様か。
「ちなみに再召喚は可能?」
「はい。一年で3000万クロンになります」
「……今一瞬クロンが円かと思ったわ。人一人雇うならそれぐらいいるのか。凄腕なわけだし」
「ご理解いただけて何よりです。ちなみに今回は説明も兼ねておりますし、生存率を上げるためクロンは必要ありません」
「サービスいいね」
私はグイッとお茶を飲み干した。
「よし、じゃあやるか」
それから農園の大改造を始めた。
今まで道を整備していなかったし日照も考えていなかったので、敷地面積を大きくすることから始めた。
敷地の真ん中に大通りを作って街路樹も植える。それぞれの建物に小道をつけ庭もつけて、景観も気にした。
インテリア値を上げる紫の木は全部引っこ抜こうと思ったら、魔物避け+ステータスアップ効果があると言われたので街路樹として使用。ファンタジーな景観だ。うむ。
小人たちにも会った。全員やることもないので、自分の家でゆっくりしていたらしい。閉じ込め状態じゃなくてよかった。
小人たちと話もした。どうやら迫害された一族で、女神様が保護していたのを生産者として推薦してくれていたらしい。
ゲームでは働く人数は五人固定だったのが、実際にいたのは十人ほどだった。
「昼と夜の交代制でしたので」
どう働いていたか聞いたらそう話された。年中無休のブラック並の忙しさだったのかと愕然とした。
「食事代が増えていいから、人数を増やしたい」
と言えば、ウサギの許可が出た。
箱庭ルールとして、生産が五カ所という縛りは変わらないが、小人に関しては迫害されて隠れ住んでいるため多くの小人を保護するのは問題ないらしい。
小人が住むための家を増やし、果樹園を作り上げた。主食である果物は自由に食べてもらうことにする。
家畜小屋がなかったので、放牧場に隣接させる形で各動物の家畜小屋を作る。
「家畜の世話って誰がするの? 自動?」
「小人達が……」
「うん、小人足りないよね!」
小人達がスーパーマン過ぎる。小人の家をさらに増築した。彼らに必要なのは果物だけ。果樹園の木も増やしておく。
ガッコンガッコン改築しながら、もちろん生産指示も出しておく。
イベントの銀馬のためには、人参とトウモロコシが必要だ。白いのが出来るまでせっせと植えて収穫を続ける。つか、これも小人達の仕事かい! ゲームと同様に二時間や四時間で収穫出来るのは箱庭仕様らしい。果樹園の果物も数時間単位で出来上がるし、魔力の無駄遣いな気もする。
「ところで、銀馬の意味は?」
「銀馬は農場を守るための守護者になってくれます。知能も高いですので、他の家畜などの面倒もみてくれますよ」
「フォロー要員なのね」
「白馬は人間が乱獲したため絶滅しかかっていまして。白馬には魔力を整える役目があるので、いなくなると困るんですよ」
「魔力の暴走で魔物の氾濫とかそういうフラグ?」
「今現在、魔物の大量発生中ですね」
「うわぁ……」
「女神の庭に白馬を出荷していただいたら、効率的に各地に転送しますので」
「あんまり世界の調整の舞台裏は知りたくなかったなぁ」
あれだ。銀馬はご褒美で、本当に必要なのは白馬なんだ。まぁ、世界のためなら仕方ないか。
馬が二頭いると三日で子馬を産む。子馬は四日で大人になり、また子を産む。十頭産むと老衰で死ぬ。
今現在馬は五十頭。白馬はそのうち三頭だ。白いトウモロコシと人参が足りなくてまだ大人になっていない。銀馬を貰えるには白馬を十頭出荷なので、まだまだ先になりそうだ。
ハタと気がつけば日が傾いていた。小人達はシフト制で頑張るらしいが、私は家に入ろう。
食事はキッチン建物で作った。箱庭仕様で腐らないらしい。数年前に作っても出来立てホヤホヤだ。
とはいえ気分的に嫌なので家に入る前に小人達に作ってもらった。本当の出来立てだ。
今日はオムライスの気分だったので、ウサギの分と2つ。ジュースとサラダとスープを添えれば豪華な夕飯だ。
「私までありがとうございます」
「いいよ。足りるかな?」
「充分です。私などサラダだけ出されるかと」
「いやいや、ボデーガード兼ならば肉はいるんじゃない?」
「肉も食べますけど、基本雑食ですよ。でもどちらかと言えば野菜が好きかなという程度です」
「ウサギなのに……」
「お気になさらず」
二人で向かい合ってダイニングで食べた。スマホ操作していただけでなく、農園の中をチェックして歩いたからお腹がすいていたんだ。
「あれだ、ファミレスのオムライスの味だ」
ちょっとガッカリだ。昼のサンドイッチやケーキが美味しすぎた。期待はするまいと思っていたのに、舌が贅沢になっている。
「女神の庭の食べ物は格が違いますからね。あそこまで美味しいのはなかなか作れませんよ。女神の庭の食べ物はクロンで購入できますが」
「なるほど。あんまり美味しい料理を食べ続けると町に出た時に耐えられないかもしれないから良しとするか」
ファミレスの味付けは普通に美味しいし、普通の味なんだから普通に慣れるべきだろう。一人暮らしの時はパンだけとかの食事もよくあったわけだし。
「女神の庭に食事を送るクエストとかあったよね。あれは何で?」
「女神様が保護されている種族に施しを与えるのが主な目的です」
「そりゃ数がいるわ」
「果物の納入は殆どが小人族に対してですが」
「どんだけいるんだ小人族」
「繁殖力はありますからね。迫害されていたのはそのせいもありますから」
「え、それなんてゴブリン」
「ゴブリンとはかなり違いますよ。小人族は肉を好みませんし、指示をされることを好みます。手先も器用で果物と住処を与えておけば大体の言うことを聞いてくれます」
「え、それなんてしもべ妖精」
「しもべというのはピッタリですね。あまりに素直に言うことを聞きすぎて疲労や貧困から数を減らし、他種族から逃げ出したんです」
「革命や反乱じゃなくて逃亡なんだね」
「戦う能力は皆無ですから」
「あ、繁殖力があるなら家とか足りない? 果物も足りないよね」
「いえいえ。彼らも自滅するほど増えませんから。年かさのものが死ねばすぐに子を産むだけですから」
「あー、うん。わかった」
何かそのあたりも仕様なんだろう。
地球だって実験動物が一定数以上は増えないとかもあったはずだし。
食後の片づけはウサギがやってくれた。家にもキッチンがあるので、皿洗いぐらいはできる。
各生産建物は全て小人仕様だ。私たちが使うには小さすぎる。自分で何かするなら家を改装するしかない。
「ププ。ウサギにエプロンと踏み台て……」
「お気になさらず」
人間の子供の身長しかないウサギには、私サイズのキッチンは大きすぎるので踏み台が必要だが。
ウサギにギャルソンエプロンが似合いすぎる。
今度眼鏡を用意したい。隻眼眼鏡でもいいな。
夜も更けてきたので寝室で休むことになった。
あ、お風呂も入ったし歯磨きとかもしたよ。今の服装は憧れのネグリジェだし。家ではジャージだった。くたびれたジャージも心地よいんだけどね。この部屋では着たくないな。
ウサギの部屋は私の隣だ。護衛も兼ねているから何かあっても駆けつけられるようにだって。
ウサギの趣味に合わせてシンプルな部屋にした。水色ベースは私の趣味だ。私も水色ワンピを着るべきか。いや、アラサーでは厳しいか。
私はゴロンとベッドに横になった。
相変わらずスマホを操作している。小人族は指示を受けないと何もしないから、とにかく細かく指示がいるらしい。複雑な指示をすると出来ないこともあるから、同じ指示でも何度もしてやらないといけないんだとか。
白馬には白い人参やトウモロコシを出来た端から食べさせる。役目があるならば、とにかく一頭でも送るべきだろう。
「あ、一頭出来た」
食べ物が一定量になったらしく、一頭が成馬になった。すかさず納品ボタンをタップする。
「よっしゃ、まずは一頭!」
私が喝采をあげると、窓が黄色い光で満たされた。
「え? 何?」
慌ててベッドから起き上がり、窓の外を覗いた。
夕方に全ての家畜を家畜小屋に入れたはずが、放牧場にいつの間にか白馬が一頭だけ歩いていた。
私の方を向き一礼したかと思うと、天から黄色い光が差してきて、翼でもはえているかのように天に駆け上がっていった。
「僕、もう眠たいよ……みたいなんですけどー」
納品っていうより昇天って言いませんかね?
そんな感じで異世界一日目は幕を閉じた。