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03 説明役の登場


 切れたよ。電話切れちゃったよ。

 え、あの悲鳴なに?

 確かめようにも電話ボタンは消えているし、しばらく経ってもかかってくる様子はない。

 どうするべきか。


「どうしようもないな」


 諦めることにしてスマホをいじる。

 まぁ、女神様の話した感じでは今すぐ私に命の危険はないだろう。

 ここにいる限りは衣食住にも問題はないはずだ。他の問題に関しては後々でいい。

 何よりスマホを弄れば目の前で色々動くのだ。私が実際に動く必要はない。

 これってかなり好条件だ。運動不足も心配だけど、誰もいないんだし歩きながらスマホいじったって誰にも迷惑をかけない。

 ノンビリ椅子に座ったままインテリアのクエストからこなしていくことにする。

 ここに紅茶とケーキがあればなおいいのに。いや、私は基本的にインスタントコーヒーしか飲まないけど。ちょっと優雅な気分に浸りたかったんだよ。うん。


 チュートリアルに従って操作をすれば、家の間取りが表示された。

 地球ではお給料の関係で叶わなかったフレンチナチュラルなインテリアを目指してみる。

 木目調の壁に白い家具。差し色は緑でいいだろうか。

 観葉植物にはアイビーを選ぶ。憧れだったんだよ、ワンルームだと邪魔だったしさ。

 テーブルセットも木製の白、ソファは……ハンモックがある!

 これはもうハンモックしかないでしょう!

 リネンの白地に黄色とピンクで刺繍をしてあって、フリンジまでついているとか。女神様、センスいいね。

 照明もある。シャンデリアまであったけど、丸っこいのが3つついたやつにしてみた。電気はくるのか?

 キッチンは白タイルを基調として戸棚は木の扉にした。取っ手部分は白の陶器で出来ているやつだ。

 風呂やトイレも白タイルを基調にしたものを選ぶ。

 二階に部屋が三つもある。一番大きな部屋を主寝室にしよう。白いタンスと化粧台、天蓋付きのベッドも置いた。カーテンも白にしておく。ちょっと白すぎか? でも壁が全部木だし、別荘っぽいからいいか。他の二つの部屋は放置だ。気が向いたら設置しよう。

 うふふ、着々とナチュラルテイストに仕上がってきたね。

 気分は通販の大人買いだ。予算なんて気にしない。五億クロンを使い切ったとしても、まだまだ生産品を売ればお金はあるんだから。


『これでよろしいですか?』

「うんうん、いいねいいね」


 スマホの確認メッセージを見ながら私は一人悦に入った。

 全部で1500万クロンほどかかっている。金持ちっていいなぁ。ぐふふ。しかもナチュラルに飽きればまた買い直しができるのだ。スマホを弄るだけだから運び出す手間もかからない。

 決定ボタンを押すとクエストクリアと表示された。

 クリアアイテムは……コインだ。

 テーブルの上にコインが現れた。ウサギのシルエットが彫られている金のコインだ。

 金貨と思えないのは文字らしきものがないから。言語が違っても数字に当たる模様がないならば、お金ではない気がする。


「はて……?」


 私はコインをつまみ上げる。特に変わったことは起きない。


 ポーン


『新クエスト 召喚してみよう』


 異世界らしい単語が出てきた。

 召喚魔法かぁ。お助けキャラクターか何かかな。

 生産業万歳では実際に生産するのは小人たちだった。

 小人の家を作り必要数の小人を買って仕事をさせるのだ。

 小人達のご飯である果物さえ与えておけば不眠不休で働いてくれる……のはゲームの中だけだろう。

 そういえば、小人もどうなっているのか調べなくちゃなぁ。


「とりあえず、召喚いくか」


 コインを指先でクルクルと回しながらチュートリアルを読む。


「コインを握ったまま召喚ボタンをタップする……魔法らしくないなぁ」


 厨二病な魔法を唱えたいわけじゃないけど、スマホに頼りすぎじゃないだろうか。

 タップしてみたら一瞬で手の中のコインの感触がなくなる。


「ん?」


 周りをキョロキョロ見回してみた。特に変化はない。


「あれ? 失敗?」

「失敗ではありませんよ」


 ……後ろから声がした。

 振り返ればウサギがいた。


「……ウサギ?」

「左様です。初めましてご主人様」

「コンニチハ」

「いいお天気ですね」

「ソーデスネ」


 ウサギよウサギよウサギさん。

 あなたは何故、二足歩行なの?

 あなたは何故、執事服を着ているの?

 あなたは何故、人間の子どもぐらいの大きさなの?

 マジマジと見つめると、ウサギは胸元から懐中時計を取り出した。

 まんま不思議の国ですやん!

 おっと、エセ関西弁が。


「一分ほど見つめられましたが、気はお済みですか?」

「あ、はい。ごめんなさい」

「いえいえ。地球の常識では有り得ないことでしょうから」

「さすが、ファンタジー」


 ちょっぴり怒なのか、それともクールなのか。

 会話の主導権は向こうにお渡しした方がいい気がする。女神とは違って仕事が出来る感じがする。


「自己紹介が遅れました。私はウサギです。キラリン革命様にお仕えするように女神様より指示を受けて参りました」

「ぎゃあああああ!!!!」


 思わず叫ぶ。

 ウサギさんが半眼でこちらを見ているが、叫んでしまったものは仕方ない。

 しかし、しまった、しまったよ。ネタでそんな名前つけたけど、これからずっとその名前で呼ばれ続けるとかありえない。

 大体、ゲームでつける名前なんて適当だ。ネトゲ、ブラウザゲーでは下ネタに走っているやつも少なくない。

 これ、他のトリップ者も同じ苦しみを感じているんじゃあるまいか。


「どうなさいました?」


 私は眉間を押さえ、片手でウサギの執事を制した。


「ゲームにその名前を登録した私が悪いのは分かってる。リネームを希望します」

「リネーム手続きには三十万クロン必要となりますが、宜しいですか?」

「単なるリネームに高くない?」

「こちらの世界に来て頂くために、様々な碑石に名前を刻み込んでおりますので、碑石を修復した後にまた刻み込んでという作業になります」

「魔法でパパっとなりそうなのに」

「この作業を簡略化すると、悪しきものに碑石を刻み込まれる可能性があるので念の為です」


 碑石ねえ。キーアイテムくさいけど、今回は突っ込まないでおこう。


「りょーかい。スマホで操作する?」

「クエストを発動させます。少々お待ちを」


 ウサギは分厚い本をどこからか取り出すと、羽ペンでサラサラと何か書き出した。


 ポーン


「お、きた」


 スマホに新クエストが表示されている。


『新クエスト リネームをしてみよう

 イベントクエスト 手紙を書こう(残り24時間)』


 イベントの方は女神様に話していた分だろう。

 私はリネームクエストを選択する。


「一度しかリネームクエストは受けれませんので、お気をつけて」

「厨二病溢れる名前は危険ってことか」

「いえいえ、後悔なさらなければこちらはどんな名前でも構いませんので」


 私はしばし考える。本名が無難だろうけど、さて本名がいいかどうか。


「質問。本名はエリなんだけど、この世界、っていうかこの付近でこの名前はどうだろう」

「周りを気にするのは賢明だと思います。エリ、というのはあまりありませんが、エリィ、エリア、エリアルなどが似た名前であります」

「なるほど」


 質問をしたことでウサギの好感度は上がったっぽい。

 無難にエリィにしておこう。呼ばれてもすぐに反応出来るだろうし。

 最後に決定ボタンを押すと、三十万クロンが支払われた。同時に注意書きが出ている。


『リネーム作業に24時間かかります。作業完了までお待ちください』

「作業完了までは私は……エリィと呼んで貰えないの?」


 危ない。キラリン革命と呼ばれるの?と言いそうになった。自分から地雷を踏みに行きかけた。


「いえ、女神の庭から届く書類にキラリン革命という名が書いてあるだけですので、私はエリィ様とお呼びさせていただきます」

「ぐふっ」


 地味にダメージが。

 まぁ、まぁいい。うん。まだ私は大丈夫。

 とりあえずクエストは完了だ。が、何故か今回は何も起きない。

 

「えっと、クエスト終了すると前はクエストクリアアイテムが出たと思うんだけど、なくなったのかな?」

「そんなことありませんよ」


 にっこり笑うウサギの手元にはティーセットが乗ったキャスターが。


「インテリアクエストのクリアアイテムは私でして、リネームクエストではお茶の用意にさせていただきました」

「え、いやアイテムって」

「ふふ。とりあえずこちらをお召し上がりください」


 テーブルの上に紅茶と生クリームケーキが置かれた。イチゴではなく、細かく刻んだフルーツが散らしてある。


「いただきます」


 私はフォークでケーキを口に運ぶ。美味しい。異世界って食事の質が悪くて、みたいなイメージなのに、代官山のケーキですと言われても納得しそうなぐらい美味しい。

 紅茶も美味しい。嫌な渋みがない。こんなに紅茶ってスッキリした味わいだっけ? 薄いだけとかいうオチじゃなく、混ぜ物もないしちゃんと紅茶の味がするのに雑味を感じない。


「いかがですか?」

「すごく……美味しいです」


 思わず敬語になってしまった。いやいや、仕方ないだろう。


「それはよろしゅうございました」


 ウサギはうんうん頷く。ご機嫌がよろしくなったようだ。よかったよかった。


「あの、先ほどサンドウィッチも食べたんだけど、とても美味しいよね?」

「ありがとうございます。これらは女神様がお住まいである女神の庭の食事ですので、この世界一般の食事はこれほど高水準ではございません」


 おっと、それは少し残念な情報だ。

 女神の庭というのは、あれだろうか、天国みたいな扱いだろうか。


「女神の庭……」

「ゲーム中に様々なものを購入したり販売されていましたが、輸送コストなどは一切かかっておりませんでしたね」

「まぁ、そうだね」


 生産業万歳は輸送費という観念はなかった。まぁ、そこまでするとややこしかったからだろうけど。


「これは売買相手が全て女神様であったためだとお考えください」

「はぁ」

「今現在、エリィ様は四億八千四百万クロンほどお持ちでございますが、これは女神の庭と取り引きできるお金となります」

「……ん? あれ? じゃあ、普通に町に行ってクロンは……」

「一切使えません」





 え、億万長者から無一文に格下げっすか?





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