02 現状把握は大切
スマホの前に、私の格好からいこう。
生産業万歳では、ユーザーキャラクターの性別と服装は選べた。農家の娘らしいエプロンドレスから、舞踏会に行けそうなヒラヒラドレスまで色々あった。今の私の服装はデフォルトであるリネンのワンピースに白のエプロン姿だ。
髪を触ってみる。黒いままだ。手も今までと変わりは見えない。体格の違いも感じない。
ゲームでは茶色の髪の美少女だった。ゲーム仕様の姿なら視線の低さや手が若かったりするはずだが、そういうことはない。
つまり、トリップ系と考えられる。異世界くるなら美人転生が良かったんだけどなぁ。
スマホを再び操作する。
『新クエスト“インテリアをコーディネートしよう!”』
お腹が落ち着いたなら、次は家のことらしい。が、それを無視して、いくつか操作をしてみる。
「やっぱりかぁ」
スマホのホーム画面に戻れない。生産業万歳しか操作が出来ないみたいだ。
ゲームのQ&Aとかもネット接続だったせいで見れない。
ただ、クエスト以外の動作が出来ないわけではないらしい。
「ゴミ箱ないかなー」
ゴミを持ち歩くのは嫌だったし、置いたままもなぁと思う。ショップのエクステリアにゴミ箱がないかと探すと。
『ゴミ箱 3000クロン』
エクステリア用は一つしかなかったので、迷わず決定。
オサレなテーブルセットの横に、コンテナサイズの木のゴミ箱が現れた。
ぶ、無骨すぎる。
私は黙ってゴミ箱の蓋を開けた。ギギィと音がしたのを聞きながら、ゴミをポイッと入れた。内袋? そんなん知るか!
生産業万歳では、一定時間すぎると空き場所にゴミが落ちる仕様だった。が、掃除コマンドでゴミは消えるだけで資源変換なんてなかった。まぁ、ゲームなんて普通そんなものだし、現実なら燃やすか埋めるかだろうしな。燃やすならゴミ箱ごと燃やしちゃる!
気を取り直してクエスト欄を確認する。インテリアのクエストの他にもいくつかクエストがあった。
『新クエスト 建物を移動させてみよう
新クエスト 食事を作ろう
新クエスト 布団を作ろう
イベントクエスト 馬を出荷しよう
イベントクエスト 白馬をもらおう
イベントクエスト 白馬を出荷しよう
イベントクエスト 銀馬をもらおう』
イベントクエストがなくなっていなかった。
新クエストは現実として必要なことばかりだ。それはわかる。多分クエストを消化すれば同系統の新規クエストが出てくるだろう。
でもイベントクエストは必要性としてはかなり低い。銀馬がいなくてもゲームとしては成り立つからだ。
これは一体……
ポーン
『新クエスト 女神に電話をしよう』
「……へ?」
あまりに唐突な新クエストに驚きしかない。
生産業万歳には電話はない。ゲームのフレンドにするのはギフトとお手伝いだけだ。メッセージすら残さない。
ゲームの中に女神がいたかも覚えがない。ゲーム仕様としては神話的なものはなかったはずなんだ。
いくら思っても新クエストは消えない。
どころか、スマホをいくら操作しても通話マークが中央から消えない。
これはかけなきゃかかってきそうだなぁ。
かけてみよう。女は度胸だ。
通話マークをグイっと押して、スマホを耳にあてた。
コール音が数回鳴った後、電話がとられた。
『もっしもーし☆』
やけに明るい女の声がした。キャバ嬢って言われても納得しそうだ。
「女神様ですか?」
『そうよー♪ お電話ありがとう〜☆ これからよろしくね♪(*^ ・^)ノ⌒☆』
見えないはずの顔文字が見えたよ。
頭痛をこらえながら、聞くべきことを聞こう。
「状況説明をお願いできますか?」
『あら〜。冷静ねえ。前に話した男の子はいきなり怒鳴ったわよ』
まぁあの出だしじゃあねえ。
トリップ者は複数か。雰囲気としては二人だけじゃないな。
「あまり冷静じゃないですよ。女神様が優しそうなので甘えているだけです」
『ふ〜ん。おべっかも上手ねえ』
リップサービスは無料だからね。社交辞令は会話の潤滑油です。事務職はそれぐらいできなきゃ基本できませんし。
『まぁいいわ。こっちも忙しいから電話にしたんだしね。説明するわね』
「お願いします」
『まず、ここは異世界です』
「あ、そこからですか」
『電脳世界に入ったわけじゃないのよ』
「なるほど。そうなんですね」
電脳世界って考えはなかったな。異世界トリップ小説に毒されたかな。
『驚きが足りないなぁ』
「いえいえ、驚いてますから」
『異世界にきてもらう際にアンケートをとったけど、現実に未練が少なそうな人で、センスがある人を選びました』
「センス……?」
アンケート内容と現状にそのあたりは納得する。正直衣食住が保証されてゲームが出来ればどこだって構わなかったと自分で思う。
だが、センスとは何だろう。
『コスパはわかる?』
「コストパフォーマンスですよね」
『そう。所詮ゲームだけど、コスパを重視してやるのと適当にやるのじゃ全然違うでしょ』
「まぁ、育成ゲームはいかに効率的に動くかが基本ですしね。みんなそれを楽しんでいるんでしょ?」
『出来てないやつもいるわよ。課金アイテムごり押しとか』
「まぁ、そういうのもいないとゲーム会社は儲かりませんし」
『会社としてはね。今回私はいかにコスパを重視して動けるかに着目したわけです』
「はぁ……わかりました。そこまではいいです。目的は何ですか?」
魔王を倒せとか? コスパ関係ないな。
『この世界のマテリアルを増やして欲しいの』
「……マテリアルって何です? 世界?」
話が大きくなった気がする。異世界トリップ小説はよく読んだ方だが、この導入は厄介なパターンじゃないだろうか。
『大きな話をするわね。まず世界の意義って何だと思う?』
「世界の意義?」
『何故私は生きているのか? 世界は何故あるのか? 考えたことはない?』
「厨二病な質問ですね。我思う故に我あり、でいいと思いますが」
『まぁね。あなたの世界はそれでいいんだけどね』
「で、正解は?」
『人間が食事して睡眠をとるのが当たり前のように、神は世界を創るのが当たり前なの』
「世界は神の食事ですか」
『食べるわけじゃないのよ。神がいるから世界があって、世界があるから神がいるの』
「卵と鶏みたいですね」
『大して変わらないわね。で、世界を発展させていきたいわけよ、神としては』
ふむ。これはもう本能的な部分なんだろうな。
人間が自然と生きたい、死にたくないと願うように。
神は世界を維持したい、発展させたいと思うんだろう。
「それこそ、女神様が育成ゲームしたらダメなんですか?」
『他の神でそうしているのもいるわ。私も考えたんだけど、私には無理だったのよ。センスないから』
「はぁ。まぁ、合う合わないはありますもんね」
『そうなのよね〜。結構自由なんだよね、世界創るの自体は。すごいのは人間VSスライムの世界作ったやつ。ダンジョンにスライムしかいないんだけど、一歩入ったら瞬殺っていう』
「勇者のくせに……いえ、何でもありません」
危ない危ない。前にやったゲームを思い出した。
モンスター育成ゲームなのに、スライム縛りでも越せるあれだ。
異世界って案外適当な仕様なのかもしれない。てか、その世界に呼ばれなくてよかった。
『よその世界はさておき、私が作った世界が地球の中世ぐらいから文明が進まないのよ』
「ファンタジーにありがちな中世ヨーロッパですか」
『やっぱり権力者が力を持っちゃうと、奴隷制になったり戦争によって文化衰退が起こったりしてねぇ』
「まぁ、病気とかもあるんでしょうけど」
『魔法を抜いた世界って創りにくいから、魔法がある性で科学が進歩しないのよね〜。魔法も万能じゃないから伝染病にはきかないし、飢饉になっちゃうとどうしようもないし』
「剣と魔法の世界ってベタですが、創りやすいと?」
『うん。科学特化の世界を創った神もいたんだけどね。成長が早すぎて崩壊しちゃったりね〜』
「科学特化と崩壊の意味がよく……」
『イメージとしてはSFかな。巨大ロボとか空飛ぶ戦艦とか』
「ああ、わかります」
『人が死ぬだけなら死体と魂とマナが残るんだけどさ、あんまり特化した科学だと全てを消し去る方法が見つかるんだよね。世界のマテリアルが急激に減って世界が維持できなくなるの』
「過ぎたるは及ばざるがごとしですか」
魔法だって特化しすぎるとバランス崩壊しそうだもんな。
何事もほどほどに、というところだろうか。
「で、マテリアルとは?」
『世界を構成する因子、素材のことね。より高度で複雑になるほど世界が大きくなれるの。でも一度大きくなった世界が一気にマテリアルを失えば崩壊してしまうのよ』
「因子や素材じゃよくわかりませんよ。具体的にお願いします」
『より高度な生命体が増えること、生態系が複雑になること、文化や文明が発展すること、そんなとこかしら。地球だと人間が何十億人もいて、様々な文化や文明が育ってて、情報に溢れた社会になっているでしょ』
「絶滅動物が多いのはいいんです?」
『それは確かにマイナス点なんだけどね。科学が進めばもう一度復活させることが出来るから』
「出来ちゃうんですか」
『百年単位でかかるけどね。まぁ、とりあえず地球は今成功例になっているの。問題はあるけど、世界の規模としてはまぁまぁで崩壊までも遠いだろうという見解ね』
「はぁ、なるほど」
わかったようなわからないような。
無機より有機、魚類より哺乳類、より複雑化されることがいいんだろう。
『あなたたちは理解できないかもしれないけど、人間一人にも知識と知恵とが詰まってるからマテリアルとして非常に優秀なのよ。もちろん地球のマテリアルをみんな欲しがっているわ』
「ああ、それで異世界へトリップさせたと」
『闇雲に転生やトリップをさせているわけじゃないの。ちゃんと地球の許可を取ってから動いているし』
「じゃあ、小説にある神の失敗で死亡してチートなんかはないと」
『ううん。結構な頻度で実話があるわよ』
「は!? マジで!?」
『こちらとしては異世界に憧れを持ってもらいたいもの。そういう話を本として出しておくわけ。まあ、普通に創作もあるけど、実話も結構あるの。こちらに来て駄々をこねられたくないし。人間の空想に合わせた種族を創ったり、チートを渡したりしてるわよ。自分の世界のチートなんて渡すの簡単だしね。世界のバランスが崩れないように過度なチートに対しては力が足りないから無理とか言い訳したりするけど』
「え、じゃあ小説とかの神の失敗なんて嘘?」
『嘘。完全に確信犯だから。ただし地球に戻る話があるのは本当。そのあたりは地球とその世界の交渉次第なのよ』
「ちなみに私は」
『返す話はしてないわ。そんなすぐに終わる話じゃないし。戻っても大変よ?』
まぁ、よくある地球では時間が進んでませんでした系も、自分が年をとってから戻るとギャップに打ちのめされそうだし、同じ時間が流れていた場合は浦島太郎だもんね。
『こちらとしてはやることやってくれたら恋愛も結婚も自由にしてくれたらいいの』
「事後承諾の意味は?」
『異世界に行きたいやつが能力があるわけじゃないでしょ。無双したいだけのワガママなやつはマテリアルを減らすもとだからいらないのよ』
「いやいや、向こうを整理する時間ぐらい欲しいですって」
『仕事やめるまでどれだけかかるのよ。親に連絡するの?』
「じゃあ向こうでの私はどうなっているんです?」
『行方不明』
「いやいや、だから、それが迷惑だから言ってるんでしょ! 借りてたアパートぐらい引き払わないと!」
『あーもー、わかったわよ。頼んであげる! アパート引き払って、仕事場には探さないでくださいって手紙送って、荷物は全部こっちの倉庫に入れて、お金は頼んだ人の報酬にするから!』
「頼む人がいるの!?」
『いなかったら本やゲームを配布出来ないでしょうが!』
何故か逆ギレ。えー、私悪くない。
何だか疲れてきた。私は椅子の背もたれに体をぐでっと預けて空を仰ぐ。
「あーうん、じゃあそれで」
『手紙は出してあげるから書きなさい。後で取りに行かせるから』
「りょーかいっす」
『で、他に聞きたいことは?』
「私がやるべきことを具体的に」
『クエスト消化して』
「身も蓋もないな」
『やって欲しいことはそれだもん』
「わかりましたー。で、そもそもここはどこ? 他のトリップした人は?」
『ここは五大陸の一つの……きゃあああ!!』
ブッ。
「へ?」




