表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ドルチェスタンの衰亡

作者: 葉月 初華

 初作品、初投稿です。

 かなり適当です。基本登場人物は二人だけっぽいです。あとはモブです。

 変なことを書いているようなら教えてください。

 あらすじにも似たようなこと書いちゃった、テヘッ

 軍人である陽太は、ビーストを扱わせれば右に出るものがいないといわれるほどの操縦技術を持っている。一対一の、さしの勝負では、負けなしであるし、一対多の戦闘であっても必ず生還してきた。生還するのに必ず、というもの変な言い回しだが、死んで還ってきて、それから生き返る場合もあるというのだから、仕方がない。

 陽太は、軍の教導隊に所属し、第三小隊を率いる小隊長だ。この小隊は、その任務内容と隊員の面子から、アイドル部隊なんて揶揄されている。そんな部隊を陽太が任されているのは、陽太が軍にやっかまれ飼い殺しにされているためである。つまりお飾り隊長で、仕事といえば、地方基地でのデモンストレーションでビーストを操縦し、時折、陽太の代わりに雑務を任されている副隊長を手伝うぐらいだ。遣り甲斐とは無縁の職場である。いや、単に陽太にやる気がないだけであった。

 軍隊でそんなゆるゆるな緊張感のない仕事ぶりがゆるされるなら願ったりかなったりであるが、どんな集団も何かしらの利益を追求する宿命にある以上、そうもいかない。まれに、いや、均せば月一ぐらいのかなり頻度で、陽太の卓越したビースト操縦技術が必要となる命懸けの任務が発生するのだ。

 陽太は、そんな任務は心底嫌なのだが、家族の安全を引き合いに出されると断りようがなかった。常人であれば、あまりに非道な任務だと突っ撥ねることができるかもしれない。だが、陽太は、任官のときにやらかしてしまった過去があり、軍隊内でも非常に微妙、家族に類が及ぶほどに危うい立場にいるのだ。

 そういうわけで、陽太の緩慢で怠惰な日々は、今日も唐突に中断し、血沸き肉踊る日が開始された。



 直接の上司ではないが、陽太の実際の上司で唯一陽太をあごで使えるのが小暮豹真だ。彼は調査院とかいうよくわからない部署に所属していて、陽太を危険な任務にいつも小間使いのごとく走らせる。

 陽太がすることもなく教導隊詰め所で茶でも飲みながら隊員達の仕事を眺めていると、小暮がやってきた。小暮はいつも忙しいと言いつつ、週一以上の頻度で、陽太の様子を見に来る。そして、そんななんでもない来訪と同じような顔をしてしれっと危険で喫緊な任務を持ってくるので質が悪い。

 そして、今回もなんでもないような顔をして任務を持ってきた。若干嬉しそうな顔で「お仕事だよ」なんて言うのだから、むかっ腹も立つというものだ。

 任務の説明を聞き終わって、陽太の頭に疑問が浮かんだ。「なんで、皇王国が直接出張っていかなきゃなんないんだ?」

口に出していったところで任務が消えてなくなるわけではないし、陽太に任務が持ってこられた段階で覆りようもない決定事項であるのだが、口に出さずにはいられない。それほど、小暮の持ってきた任務は、皇王国のあり方を曲げるものであったからだ。

「内戦中の国からの要人救出なんて、内政干渉もいいところだぞ。」

「君から、内政干渉なんて言葉を聞くなんて思いもしなかった。」

「日々勉強しているんだよ。内政干渉は侵略の手始めだからな。皇国は専守防衛に徹し、対外派兵はしないんじゃなかったのかよ。」

政治用語を使って見せた陽太に小暮は、感心しているようなニコニコ満面の笑顔だ。だが、その笑顔は、どこまで本気かわからないし、これから命懸けの任務に駆り出される陽太にとっては場違いの何ものでもない。

 ちなみに、皇国は皇王国を約めていう場合で、皇王国とは王が皇帝をしている国ということらしい。君主は王と皇帝を兼任しているということで皇王と呼ぶ。

「そうなんだけどね。それは表向きで、内戦が続いてほしい連中がいてね、その彼らの要求が強くて、皇国は、しぶしぶ救出に動くんだよ。体制側が押されているいるから、その体制側にテコを入れる感じかな。」

 小暮が持ってきた陽太の任務は、中央アジアの内戦下にある小国ドルチェスタンで、状況不利にある大統領一族を救出するというものだった。つい最近までは、優勢であった体制側である大統領一派は、先日、苛烈な攻撃を始めた反体制派によって孤立させられた。各地に散らばる体勢側である政府軍勢力との共闘もままならず、今や、大統領一派は要塞と化した大統領官邸に篭城している状態だ。

 皇国がこの介入を行う理由を、小暮が順を追って説明したことには、ドルチェスタンの体制側を支援する国の一派がこの皇王国で一定の力を、持っており、その一派が体制側が戦線を維持できるようにと、その体勢側の旗頭である大統領の一族を保護しようというのだという。一旦傾いた大勢を旗頭一族を助けたところで焼け石に水もいいところだと陽太は感じたが、支援国一派はそうは考えていないらしい。

 大体、自国に他国の利益を代弁する集団がいるのが、おかしいと思う陽太だが、それは、この皇王国の成り立ちに関わるので話が厄介になる。

 「何でその支援国が救出に行かないで、俺が行かなきゃいかないんだ?」

 今から命令は覆らないものの、その支援国が厄介を自分に擦り付ける理由を質さずにはいられない。

「それは、皇国が支援国に恩を売るためさ。我が国の支援国一派も本国に恩を売れるから、喧しいんだよ。それに、内戦を扇動する国もわが国も、表立って動くわけにはいかない。こっそり行って事を解決できるのは、ワンマンアーミーの異名を持つ、君だけなんだよ。」

陽太は口を突き出し、鼻を鳴らした。こっそり行くということは、失敗しても誰も救出に来ないということ、死んでも誰も骨を拾ってくれないということだ。誰かのパワーゲームの駒になってその犠牲になるのは気に食わない。しかし、一個人としての力しか持たない陽太には、任務を受けるしかなかった。




 ビースト、獣機とも呼ばれるそれは、名に反して立派な汎用人型歩行機械、いわゆる搭乗型のロボットだ。成り立ちが不整地での貨物運搬を目的とした獣ような形をしていたからビーストと呼ばれているのだ。

 もちろん、今でも獣型のビーストは世界中で運用されており、四足に拘らず、六本足の昆虫型、人型の下半身が四足のケンタウロスのようなもの、ムカデ型のものもある。しかし、汎用性を求めた、戦闘用ビーストの多くは人型なのだ。人間の形をしていれば、どのような難事に臨んでもパイロットは自分の体を操るように対処できるだろうということなのだ。

「今回は、素早く強襲し逸早く離脱するための特殊設計機体だ。」

 出撃のために連れて行かれた基地に陽太は面食らった。そこはロケット発射基地だったのだ。

「おいおい、俺の出張先は地球上じゃないのか?」

「そんなことはないが、一旦、宇宙に出てもらう。理由は、出撃地点をごまかすためと、高速侵攻をするためだ。」

 この救出作戦では、皇王国が関わっていることを公にできない。ゆえに他国を経由せずに直接ドルチェスタンに乗り込むために高空から弾道軌道で侵入するのだという。しかも、ご丁寧に地球を二周半して、どこから打ち上げられたロケットかわからないように偽装してからの突っ込みだ。題して隕石作戦。

 減速はドラッグシュート(制動傘)使った多段急制動。数種の落下傘を広げては切り離し、広げては切り離す方法だ。超音速のスピードをそれで短時間で減衰させる。それでも減速しきれない着地時のスピードをスラスターの噴射とビーストの機体強度に頼って殺して、着地を敢行する。聞くだに恐ろしい作戦だ。

 ロケットには、二機のビーストと脱出用のロケットが積まれ、一機は着地とその後の周囲の制圧を行う。陽太が乗り込む機体だ。もう一機は無人機で、陽太が着陸地点周囲の敵を掃討している間に、自動で脱出用ロケットの発射準備を行う特殊機体だ。そのビーストは、救出する要人と陽太がロケットに乗り込むと、打ち上げ台となってロケットを発射する。二機のビーストは、いづれも現地に乗り捨てていくことになる。なんとなく、無駄の塊のような機体である。

「こんな機体いつ造ったんだ?」

「こんなこともあろうかとね。安心したまえ。定期的に整備しているし、機種更新も行っている。」

 機種更新をしているということは、数年前から存在しているということだ。効率化、費用削減が叫ばれている国家財政の中でこういった費用支出がいかほどあることかと、思いをめぐらせても詮無いことなので、俺には関係ないことと割り切る。

「ちゃんと失敗することも想定してあるから安心してくれ。君は着地後、ビーストで周囲の敵を無双してくれればいいんだよ。」

失敗したら、この小暮に何ができるというのか?虎の子の何時ぞやのクソガキに始末をつけさせるというのか。

「いまさら、失敗のことを言うなよ。縁起が悪い。」

毒つき、無双するには心もとない装備を思う。機関砲が二門、グレネード25発、近接戦用プラズマカッター二振り。積載量の制限がきつく、陽太の乗り込むビーストの装甲も最低限まで削られている。

「何、体制側にも防衛隊がいるから、君は一暴れするだけだよ。」

 小暮は胸糞の悪くなる情報を気安く付け加えてくれるが、要人が脱出した後、取り残される防衛隊は、いうなれば決死隊だ。彼らの境遇を想うと、嫌な気持ちしか湧いてこない。まあ、戦争する時点で、目も当てられない惨事しか起こらないわけであるが。




 何度かビーストの操縦席で着地のシュミレーションを繰り返すと、作戦開始時刻になった。

「さあ、いって来い」

小暮が発射スイッチを押す。ディスプレイに写る外の景色はじめはゆっくりと、次第に加速していく。微かな振動だけがロケットが動いている陽太が感じることのできる兆候だ。加速感はビーストの基本装備の慣性相殺装置イナーシア・キャンセラーが打ち消しているのだ。この装備ができたおかげで、人型歩行機械の使用が広がった。これがなければ、搭乗員はビーストを歩かせただけで首の骨を折って死ぬ。

 下に目を向ければ、遠ざかる基地、正面を見れば下方に過ぎ去る雲、上を見れば、明るさを失い暗くなっていく空。小暮にはいろいろと無茶をやらされてきたが、宇宙に出るのは始めてであった。弾道軌道で飛ぶので無重力状態になるはずであるが、慣性総裁装置のおかげで元より無重力、それよりも前に操縦席にがっちり固定されているので、それを体感することはできない。

 太陽は、足早に地平線へ沈み、十数分後、反対側の地平線から上りだす。こんなに早く過ぎ去った一日は初めてだということを、考えてみたがどうにも締まらない。一日が太陽の周期を基準にしているなら、確かに一日は過ぎた。しかし、24時間というのが一日なら、まだ半分ほど残っている。なのに、24時間という一日は太陽の周期が基準なのだから、頭がこんぐらがるばかりだ。そもそも、時間というのは、万人に等しく同じ速さで訪れているはずなのだ。(陽太はアホなので一日が地球の自転を基準にしていることに気づかない。)

 そんな、謎かけ頓智みたいなことを考えているうちに、二度目の夜明けを迎えた。いよいよ、大気圏に再突入するのだ。といっても、陽太の仕事は着陸後の戦闘で、着陸まで陽太にすることはない。

 というわけで、陽太は着陸後の戦闘方針を考える。敵部隊が、どんな展開をしているか想像してみる。包囲しているのだから、大統領官邸をぐるりと取り囲んでいるのだろう。陽太の役目は、その部隊を撹乱し、敵戦力を減らして、陽太がロケットに乗り込み打ち上げにかかる時間を稼ぐことだ。偵察衛星の画像を見ながら、射線の通りやすそうな場所、待ち伏せしやすそうな場所、広い路、狭い路と確認していく。最後に立体映像化して、街中を行動するシュミレートしてみた。出たとこ勝負に変わりはないが、心の準備程度には対策できたであろう。

 そうこうしている間に、軌道は下降に移り陽太の乗るロケットは電離層を抜け小暮のいる皇王国との通信が回復する。

「さあ、あと数分で戦闘開始だ。」

 小暮の声を合図に、ヘッドマウントディスプレイが途端に、忙しなく映像を映し出す。偵察衛星からのデータが反映され始めたのだ。外部カメラが映す眼下の映像に敵が隠れていると思しき箇所に光点が次々と浮かぶ。危険度に応じて色が段階的に変えられている。地上が近づくにつれて敵の動きもはっきりとし、点がサークルに広がりそれが右往左往する様が見て取れる。

 敵は上空から突入してきた陽太に気づいたのだろう。地上から陽太に向かって光弾が打ち上がってくる。対空射撃が始まったのだ。いよいよ、陽太の乗るビーストと無人のビーストが切り離される段階だ。

「切り離し」

小暮と事前に打ち合わせた命令コードをつぶやく。ロケットに係わる操作の類はこうした音声入力で実行できるように設定してある。

 他にも、ビーストの操作の内で体で操作できない操作、例えば背面スラスターの点火操作などは音声で起動させるのだ。

「落下傘展開」

 がくんと、落下スピードが落ちたことがディスプレイ映像でわかる。やはり、体感では慣性相殺装置のおかげでわからないのだ。敵の展開の薄い位置まで滑空し、パラシュートを切り離す。スラスターを噴かして減速し、着地。ほぼ同時に、機関砲を撃ちまくり、集まってきた敵に砲弾をばら撒く。

挿絵(By みてみん)

 走りながら、迫る敵のビーストに次々と砲弾を直撃させていく。この、技術こそが陽太が、ビーストに乗せれば皇王国随一といわれる所以だ。

 普通、砲撃なるものは止まって撃つのものだ。そうしなければ、まず当たらない。人間が生身で扱う銃であっても、動きながら撃つのはよっぽど敵が近いか、牽制のためであり、移動しながら撃っては当たらない。

 コンピューター制御であっても当てられない技である。前時代において、航空機が空の覇者であった時代、戦闘機に載せる機銃が廃れた理由でもある。戦闘機対戦闘機の場合、ドッグファイトという追いかけっこをする。そのとき、戦闘機の黎明期では機銃で攻撃していたが、次代が下るにつれ、機銃は廃れ代わりに誘導弾・ミサイルが積まれるようになった。

 そんな技を鼻歌交じりでやってのける陽太は、それだけでビースト乗りとして最強なのだ。

 入り組んだ市街を、衛星からの情報と、勘で駆け抜け遭遇する敵を屠っていく。驚くのは戦闘地域である市街に住人と思しき民間人が残っていることだ。敵の不意をつくため、体当たりで突き抜けた建物に住人がいた。壊れた建物の断面から呆然自失の人影がみえた。願わくば、建物の崩した部分に人がいないと思いたいが、きっといたのだろう。

 なるほど、この戦闘が公にはできないわけだ。陽太は思った。何故、避難していないのかわからないが、一国の元首を助けるために民間人を犠牲にしたとあっては外聞が悪かろう。

 ぐるりと大統領官邸を一周し、敵を減らした後、陽太は官邸に入った。要塞化した官邸の外壁を半ば壊しての強行突入である。

  崩れた壁の先で中にいた人間達があっけにとられている。ここの人間達も戦闘するような出で立ちではない。それぞれの立ち位置からして、瓦礫の下敷きになった人間もいそうだ。気にせずロケット打ち上げ台となる無人ビーストとの合流ポイントの中庭に向かう。

 兵士が駆けつけてきて、立ちふさがる。

「大統領閣下の救出のために参じたものだ。道をあけろ。」

 いけ高な物言いは、陽太の好みではないが小暮に指示された通りのセリフを言う。陽太の声は、ビーストの管制コンピューターが翻訳し、スピーカーで発声しているに違いない。

 集まってきた兵士達は不服そうに動き出し、陽太はその動きを待たずにビーストを進ませた。つま先に逃げ遅れた兵士が弾かれ転げる。「ごめんよー」詫びつつ先を急ぐ。巨大な宮殿とはいえ、人間よりも大きなビーストなら数歩の距離である。それでもこの修羅場から逃げ出さなければならない陽太は時間が惜しい。

 ここいる人間達には、大統領が逃げ出した後に、宮殿が陥落すれば悲惨な運命が待っているのだろう。男も女も老いも若きも、全てが地獄に叩き込まれるのだ。そんな運命から逃れられる大統領はなんて幸運な者だろう。陽太は、思わずほくそ笑んだ。その幸運をもたらす天使が俺なのだから、余計に笑える。

「せいぜい必死こいて戦ってくれ。」外部に聞こえないようにつぶやいて、陽太は笑った。

 

 中庭まで来ると予定通りロケットがそそり立っている。搭乗口へ上るためのタラップの前に、大統領の親族たちか、人だかりができて別れを惜しんでいる。陽太はそこへ、ビーストを乗りつけるとビーストから速やかに降りた。

 途端に、人だかりから兵士達が出てきて陽太の前に並んだ。彼らが持つ小銃は陽太のほうこそ向いていないが、いつでも撃てるようになっている。その間からからよく肥えた男が出てきた。

「よくきてくれた。これで我々の命脈はつながった。本当に感謝する。」

陽太はその大統領である男の謝辞に無言で応え、居並ぶ面子に視線を走らせる。大統領の子供と夫人らしき者たちに軍幹部であろう制服の男たちと、戦闘服姿の男たち、そして大統領一家の世話係か何かの女中姿の女たち。

「逃げる奴は早く乗ってくれ。」

言うと陽太は、ロケットに向かう。しかし、並んだ兵士達が陽太に道を開ける気配がない。陽太は止まる。

「ひとつ、お願いがあるんだが、どうか聞いてもらえないかな?」

「なんだ?」陽太は薄々、大統領が言いたいことが読めたが、まさかそんな恥知らずなことを言うわけがないという期待を込めて、つい訊いてしまった。

「言いづらいことだが、一人ぐらい乗員を増やせないかな。」

大統領は脂ぎった顔で言った。

「すまないな。それはできない。諦めて、早く乗ってくれ。」

陽太は大統領の脇を強引に通ると、タラップに足かけた。そして、振り返る。

「よかったな、早まって俺を撃たなくて。パスワードが分かんなくなって飛べなくなったぞ。」

大統領は苦笑いをして、陽太にすごすごとついてきた。

陽太はタラップを上り切ったところで、思いついて大統領に声をかけた。

「お前が、乗らなければ、二人乗れるぞ。」

気まずかった周囲の空気が、途端に張り詰めるのがわかる。我ながら悪辣なことをいうと陽太は思った。大統領の顔は、あまりに唖然として弛緩してしまう。言葉にならない声を上げている。

「そこにいるのは、お前の子供だろ?助けたくはないのか?」この急場にもかかわらず式典に臨むように精一杯めかし込んだ少年と少女を顎でしゃくる。

「いや、私が・・・」

大統領がやっと出した答えを聞いた陽太の行動はすばやかった。拳銃を抜き出すと大統領の眉間に突きつける。

「こうすれば、気まずくないだろ?」引き金を引いた。

大統領はタラップを転がり落ち、女子供から悲鳴が上がる。

「ふひっ」つい笑いが漏れる。

慌てて小銃構えて陽太の前に兵士達が並ぶ。陽太はこれ以上発砲する意思がないことを示すためにトリガーガードに指を引っ掛けて拳銃をぶらぶらさせながら、諸手を挙げた。

「おっととと、俺を殺せばこの場から誰も逃げられないぞ」

「そこのお前とお前、乗れ。」拳銃を振って身を竦めていた子供にタラップを上るように促す。

「きっ貴様、正気か?本当に、そんな命令を受けてきたのか?」

詰め寄ってきた閣僚らしき男に銃を向ける。

「お前ら、このデブがのうのうと生き延びることに納得していたのかよ。俺は納得できないね。こいつが生きてどうなるんだ?この戦争が終わるのか?」

陽太には、この場にいる者たちが何故大統領を逃がそうとするのか皆目わからなかった。むしろ、危地に追い込まれ思考が狂っているとしか思えなかった。そして、そう思えばこそ、この場の不条理をつくり出したこの太った男に怒りが湧いてくるのだ。

「それは閣下が生き延びて再び、わが国を再興してくれるから・・・」

「おいおい、このデブができると思ってんのか?それに外国に逃げて再興なんてできるかよ。国ってのはここでやっていくモンじゃないのかよ。仮に再興できたとしてお前らはどうなる。こいつが逃げたらすぐお前らここで死んじまうだろ。それで、再興の意味あんのかよ。」

 陽太は、国に縛られ何も成し得ず死んで行く者達を見た。その目には、希望どころか怒りの火さえも宿っていない。諦めで塗り固められ、終わりを受け入れた絶望の目だ。

「だから、せめて生き物として未来に希望を繋げたらどうだって話だ。血は繋がっていなくても同じ土地に生まれた味方のガキだろ、こいつらの子孫繁栄を願って送り出してやれよ。」

 まあ、大統領のガキだけどな。声には出さず毒つく。子供に罪はないというが宮殿の外にも子供は大勢取り残され、死んだり死にそうだったり、殺されたり殺したり地獄を味わっているのだ。そちらの子供を救わず、大統領の子供を救おうというのも馬鹿げた気休めでしかない。

「うーん。」

と、ようやく銃撃と落下の衝撃から覚醒した大統領が目を覚ました。陽太は眉間ではなく、肩を撃ったのだ。瞬間の出来事であったので、この場の全員が大統領は死んだものとみていたようだ。

 一向に動こうとしない子供を連れて行くために、陽太はいったん上ったタラップを降りる。

「お前は、他の奴等を生かすため肉の壁になって死ね。そのぐらいすればあの世で誇れるだろ?」

 いまだ事態の推移が飲み込めない男にそう捨て置いて、子供に手をかける。抵抗したので軽く小突いて気絶させた。子供のほうがよっぽど大統領の子供としての気概がある。

 大方、おめおめ生き残るのは恥だとか言い含められたのだろう。子供は、周りを取り囲む人間達の評価に敏感であるから、洗脳するのは容易い。では、大統領の行為と矛盾が生じるが、それも恥を忍んで国家再興のために脱出するのだとか説得したのだろう。

 そこまで陽太は考えて、残る者たちが大統領が逃げることに納得している不思議に思い至った。ひょっとして自分には計り知れない理由があるのかもとヒヤッとするが、事ここに至ったならば後戻りするのも面倒だ。

 というわけで、気絶した子供達をシートに押し込んでみた。シートは足りないが、コックピットの容積的にはまだ余裕がある。デブの大統領が乗るくらいだ。重量的にも問題ないだろう。

「まだ乗れる。そこのお前とお前来い。」

 陽太は女中の内と、兵士の内から一人づつ選んだ。どちらも歳若い女と男である。単純に一番若そうな者が、この二人しかいなかったのだ。女性優遇とか男女平等などの上等なものは陽太は持ち合わせていない。

 呆けたような二人をタラップの上まで連れてきて、再び引っ張り出した子供と入れ替えに男をシートに座らせる。そして子供二人を抱え込ませた。

「じゃあ、行くからな。そのビーストは使っていいからな。お前らも自棄にならないで、なんとしても生き残ることを考えろよ。」

 死地を前にした者達に別れを告げ陽太は乗り込み、ぼうっと突っ立ている女中を引っ張り込みコックピットのハッチを閉める。

 打ち上げを開始するスイッチを押す。これで後はもう自動で安全地域へ飛び去れる。

 女中を抱えて、寛いだ陽太の様子を怪訝に思ったのか兵士が聞いてきた。

「あの、パスワードは?」

「そんなもんあるわけないだろ。俺が宮殿にたどり着く前に死んだら打ち上げられなくなるじゃねーか。」




 ロケットのカプセルは洋上に着水し、乗っていた陽太達は、小暮がよこした水上艇に回収され、その後皇国の首都である帝都に連れて行かれた。陽太にとっては帰還である。

「いやあ、うまく成し遂げてくれると思っていたけど・・・・。どうしてこうなった?」

連れ帰った面子を見て小暮が渋い顔をする。

「例え大統領の子供であっても、子供なんか何の使い道もないんだよ。それに女中と兵士。誰が世話すんの?君はこの国にドルチェスタンを作るつもりなの?大統領本人なら使い道があるのに・・・・。」

 淡々と陽太を責め、苛む。これでは、小暮ではなく小言だ。

 小暮曰く、大統領の身柄を確保していれば、ドルチェスタンの内戦がどう転んでも、一定の影響力を持てるというのだ。政府軍が勝利すれば、大統領を守ったことになり、反政府軍が勝利すれば、大統領を反政府軍に差し出して裁判をさせてやる。

「だったら、このガキどもを差し出せばいいじゃねえか。」

聞いていた大統領の子供達が顔を青ざめさせる。

というと、小暮は余計に顔をしかめて「それじゃあ、外聞が悪すぎる」という。

「子供を無法者達に差し出すなんて皇国の評判に傷がつくじゃないか。」

 陽太は、どうにでもなれと思った。兎角この世は、悪行がまかり通る。





 おしまい



 




 

読んでいただきありがとうございました。

続きは、考え中です。(書くかどうかふくめて)

続きのあるなしは、読んでくれた方の評価によります。何かコメントください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ