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天より拒絶  作者: エムエム
第1章 エンドライン
5/7

【立ち入り禁止区域】

 人は皆、喜び、幸せというきらびやかな記憶の衣服を惑い、悲しみという体を無意識に隠して生きている。なんとも臆病な生の在り方である。我からすれば悲しみの免疫力が以上に低いただの風邪引きさんだ。おまけに風邪を引けば直ぐ誰かに看病を願う甘えん坊さんだ。人はもろい。ただ人は、自分がどうしようもなくもろい癖して、どうしようもなく弱い癖して、向き合う他人の心のチャイムをならし、どうしようもなく不器用な物語を描いてしまう。

 此度も1人、米粒のような小さい男がそのチャイムを鳴らす。


 ピンポーン


 「はーい」


 ガチャ


 ドアが開いたその先に居たのはチャーターではなく30歳ぐらいの綺麗で優しそうな女性だった。


 「どちら様?」


 「あっえーと、」


 ヤバイ!チャイムを押したがいいわ正直何も考えてなかった。

 

 「おい、米粒、まさか何も考えずに…」

 

 「あのっ、どちら様ですか?」


 「近所に引っ越して来た者です。ご挨拶に廻っておりました。」


 「あっそうです。引っ越して来た新参者ですが、宜しくお願いします。」


 「あらっそうですか、新婚さんですね、こちらこそ宜しくお願いします。お子さんは?」


 「いえ、まだ。」


 「そう、まだお若いものね、うちには中学3年の1人娘がいるの」


 「お子さんは1人だけですか?」


 「えぇ1人娘よ、とてもヤンチャでねぇ、今度娘もご挨拶させますので、あっ良かったら上がってお茶でもどう?」

 

 危ない、冷寒様の挨拶廻りのフォローがなかったら、危うくパニクッて初めての過呼吸を経験するところだった。つーか冷寒でいいだろう、無意識に己の感情にまで遠距離型の上下関係が、これは洗脳か、今はそんな事どうでいい、冷寒のフォローのお陰でお茶の誘いを受けた、これはチャーターに関わる為のチャンスだ、ここは誘いに乗って


 「おい、米粒一旦ひくぞ、」


 「えっ?だってせっかくの」


 「せっかくのお誘いですがまだ挨拶廻りが残っておりますので、また改めてゆっくりと……行くぞ、米粒。」


 「あっ!ちょっ!すいませんまた改めて、耳引っ張んなくても」


 「うるさい!黙れ米粒!」


 「あらっ!フフッ、仲がいいのね。」


 ガチャッ!


 「痛い痛い!」


 「うるさい!黙れ米粒!」

 「何も考えずに人の家のチャイムを押すアホがあるか!ゴミのような脳ミソだとは思ってはいたが、もはやそれ以下、燃えカスだな、ましてやこの天地ほどかけ離れた高貴な我と米粒が新婚夫婦とは何事だ。」


 「そっちが挨拶廻りなんて言うからだろ、」


 「黙れ米粒、謝れ、泣け、わめけ、感謝しろ、お礼を言え、そして死ね、」


 なんか言ってる事がハチャメチャなんだけど、最後死ねって、死んだ俺は死ねるのか、いずれにせよ助かったのは事実だ。


 「申し訳ございません、助かりました、ありがとうございました。」


 「わかれば良い、全く手をわずらわせる。」


 「助かったんですが、何でせっかくお茶の誘いを受けたのに断ったりしたんですか。せっかくのチャンスだったと思ったんだけど。」


 「やはり所詮はつまらん男か、何か気付かなかったか?違和感を感じなかったか。」

 

 特に違和感は感じなかったが、冷寒のあの時の質問は少し気になっていた。


 「冷寒様があの時、「お子さんは1人ですか?」と言ったのは何故ですか?確かその前にあの女性は1人娘がいると言ったはず、1人娘と言った時点で1人のはずなのに何で冷寒様はその質問をしたんだろう。それは不自然に感じてました。」


 「死んで初めて言葉を発したな。米粒!誉めてつかわそう。」


 いや死んでから何も喋ってないみたいに感じますけど、やっとまともなことを口にしたな位のニュアンスで捉えて宜しいんでしょうか。


 「初めて言葉を発したそなたに我のできすぎた優しさ故のヒントをやろう!玄関にある写真立ては見たか?」


 「あぁ、確か家族の写真立てが3つ並んでたな。」


 「よーく思い出してみろ、何人写っていた?」


 「えーと、何人、3つとも記憶が微かだけど、父と母と子供二人だった、えっ、二人って。」


 「そう、あれは確かに4人家族の写真だっ。靴もサイズの違う子供靴が2つ置いてあった。それに中学3年の女の子が乗るには不釣り合いな小さな小学生ぐらいの子供が乗る自転車が玄関の横に置いてあった。」


 「確かに、でも何であの時、あの女性は1人娘と言ったんだ。なんで、そんな事を」


 「うるさい!黙れ米粒!」

 「前にも言ったがここは、過去の記憶の断片と、心の願望の世界、過去の記憶は決して拭いされない、特に悲しみという記憶はなんともこびりつきがひどい油のような者だ。あの家族にはもう1人娘がいる、いや、いたというべきだろう、恐らくその娘が原因で何らかの深い悲しみをこの心の持ち主は背負ってしまったようだな、この世界では心の願望がそれをなかった事にしているという訳だ。」


 何となく、冷寒の言ってる事はわかった。ただ俺がチャーターのこの悲しみに立ち入って良いものなのか、物凄く重い悲しみのような気がする、娘を無かったことになんて余程の理由がない限りあり得ないと思う。

 俺は今、立ち入り禁止の看板を目の前にして、脚が震えていた。


                  つづく

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