【始まりのチャイム】
「うわぁー!」
チャーターの胸の中の暖かいものに触れた瞬間、強い光が俺を包み、その眩しさのあまり俺は目を閉じた。
「もうどうとでもなりなやがれぇー!」
俺は叫んだ、これから何が起こるのか、全くわからないこの状況と、一番触れたくないこのチャーターの心に触れるという事、チャーターの胸の中が心地良い暖かさだった事。それらが俺を叫ばせたのだろう。
「いつまで目を閉じてる、米粒!」
彼女の言葉で目を開けた俺は、眩しい朝陽が差し込み、虫の鳴き声が聞こえる生暖かい、住宅街に立っていた。
「ここは一体」
「ここはあの臭そうな男の心の中だ。」
「心の中って?チャーターの?」
「チャーター?なんだその臭そうな言葉は。」
俺はチャーターがコンビニに来てから、俺が死ぬまでの戦話を彼女に事細かく伝えた。
「なんとも、しょうもない生の終末じゃな。」
「まぁいい、ここはそのチャーターとやらの心の中だ、過去の記憶の断片と心の願望の世界。まっ言うなればわずかな理想の世界。」
「パパ行ってきまーす!」
二階建てのとある家の玄関から、中学生位の女の子が飛び出して来た。女の子が家を出て少しすると女の子の足が光出し下から頭へと光の欠片になり消滅した。
「消えた!」
「あそこがチャーターとやらの家だ、心の世界には心の持ち主を主人公とし、持ち主の記憶に関わる者のみが現れ持ち主の理想を演出する、関わりが途絶え持ち主から離れるとそれは消滅する、先の女の子がそうだ。心の持ち主以外の登場人物は記憶と理想の幻想だ。要するにだ、あそこから人が現れると言うことはそこに心の持ち主が居て、物語が描かれている。記憶と理想が描かれているという事だ。」
「本当にあんたが言う心の中に来てしまったのか、でも俺は一体ここで何をすれば」
「言われなくてもちゃんと説明してやるわ。焦るな!米粒!」
「我の高貴なこの力により、お前は他人の心の中でありながら、この世界に存在するチャーターとやらと対等に関わる事ができる。ほとんどの人の心の中は悲しみと孤独が溢れてる、それを紛らす為に悲しみの記憶に理想を重ね心を保っているのだ。お前は人の悲しみに触れ、関わり、心を導いてもらう。その行いの結果が善であるか、悪であるかを我がジャッチする。まっ我の優しい心故にゴミみたいなお前、いやゴミにも必要な説明はちゃんとしてやる。」
「天と獄の狭間にそなたは何を描く、人と心の狭間にそなたは何を繋ぐ、神の子榊口冷寒の名の元にこれよりジャッチにはいる」
「えっ!これよりって!何をどうすれば、」
「黙れ米粒!まずは心の持ち主と関われ、人と人が真っ向から向き合えば必ずそこから善きにしろ悪にしろ物語が始まる。まずは会って向き合ってみろ。」
「あとひとつ、我の事は冷寒様と呼べ!もしも又我をあんたなどと上から目線の物言いをしたら、即刻地獄に落とす。」
「わ、わかりましたよ。」
俺は生きてるころ人と関わらないようにしていた。別に人が嫌いな訳じゃない、ただ彼女が言ったように人に向き合ってしまったら何かを一緒に背負わなきゃいけない気がして、自分の事だけを考えて生きてきた。
そんな俺が他人と関わるなんてできるわけがない。
だかしかし、これはラストチャンス言わば人生のロスタイム、何ができるか、何が起きるかわからんがやってやろうじゃないか。
ピンポーン
おそらくチャーターの家であろうチャイムを俺は押した。
これは終わりを迎えた俺の始まりのチャイム、ロスタイムの始まりの音が、蒸し暑い太陽の下に響いた。