【裏切りの招き手】
生前、人はどれ程自分の為に必死に生き。
自分の事だけで精一杯なクセしてどれ程他人の為に善の行いをできるのだろうか。
自分の事だけを考え、他人を蹴散らし、自分の利益の為にどれ程の悪の行いをしているのだろうか。
少なくとも俺の記憶を辿ってみても、前者とも後者とも、その行いをしている自分の姿を思い出せずにいる。
強いていうなら、チャーハンをお店に忘れたおっさんに届けた。というぐらいだろうか。
まっ、その結果俺は車にひかれ、死んだ訳だ。
話を戻そう。
俺は即死だった。にも関わらず、その場から立ち上がり、辺りを見渡していた。
そこには無惨にも死体となって横たわっている俺と、ぐちゃぐちゃになったチャーハン、そして、少し離れた所に、他人の家の前でゲロを吐いているチャーターの姿を俺は平然と眺めていた。
ふと我に帰り、
「俺死んだんだよなっ……マジかよっ!」
と嘆いた。
よくよく考えると、全ての事の発端はチャーターのせいである。
よく考えなくてもそうだろう。
その張本人が俺が死んだにも関わらず、飲みすぎのせいでゲロを吐いている。顔を真っ赤にして。
もしこのまま幽霊になるんだとしたら、チャーターにとりついてこの借りを思う存分返してやる!と、この時、硬い誓いを立てた。
人は死んだらどうなるか?今まで何回か考えた事がある。
生まれ変わって違う人生を歩むのか、だとしたら今までの記憶は残らないだろう。それなら俺とは言えない、まったくの別人だ。
天国か地獄が本当にあって、どちらかに導かれ、天国なら、なに不自由なく、地獄なら、なんらかの罰をうけて永遠に過ごさなければならないのか?
それとも死んだら全てが終わりなのか。
いつも最後は哀しみと絶望に胸が押し潰されそうになり、考えるの止める。
今の俺のこの状況、どういう訳かわかんないけど意識を持ち、考え、明らかに死期のスタートラインに立っているみたいだ。
肉体は滅んでしまったが、自分は保たれている。
そんな事を考えながらとりあえず俺は、死んで横たわっている自分がこれからどうなるのか気になり。死体に歩み寄ろうとしたその時だった。
「えっ!?」
身体に違和感を感じた。
急に全身の力が抜けるような感覚だった。
すると足が地面から離れ浮いているではないか!それも徐々に地面から離れ、空へと舞い上がっている。
もしやこのまま、死期の世界とやらに行ってしまうのだろうか。
いや!まだ俺はチャーターに何ひとつ借りを返していないぞ。いやいや!今はそんな事どうでもいい、
空に舞い上がる=天国?
特に悪いこともしてないし、天国か地獄かっていうなら天国だよな?
あれこれ考えているうちに遥か上空へと舞い上がっていった。
そして雲の切れ間に差し掛かろうとしたとき、まばゆい光を放ち、半径2メートル程の丸い何かが現れた。それが何かの入り口なのか、俺はまるでそれに吸い込まれるように向かって行った。
もう少しでそれに接触する間際、その光の中心からスーっと手が伸びてきた。その手は、【この手を握り、導かれよ】と言わんばかりのとても美しい者だった。
これは天国へ導く者の手に間違いない、天国の入り口だと、思い込んだ。
ただいまぁ~!なんとなくそんな言葉を胸で呟き、天の導く手を強く握りしめた。
「コノコメツブメッ……」
「えっ!?」
次の瞬間、その手は俺を天に導くどころか、俺の手を強く握ったまま地上へと急降下し始めた。
一瞬にして地上に落下。
地面に叩きつけられた。
そんな俺の手を握り平然と背中を向け俺の前に立ちすくむ者。
「我は神の子、榊口冷寒。そなたのジャッチメンターだ。まったく、このくそ忙しい時になんで我がそなたのような米粒みたいに器の小さい男のジャッチをせねばならんのだ。」
平然としたたたずまいで彼女は俺への暴言も軽く交えそう言った。
これが冷寒と俺の最初の出会い。
つづく……