表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天より拒絶  作者: エムエム
第1章 エンドライン
1/7

【現世より拒絶】

 俺は逆月 (さかつきりょう)19歳

 しがないコンビニ店員、高校の小遣い稼ぎからコンビニでバイトを始め、店長の口利きでそのまま某グループ会社に就職し、そのまま社員として勤務している。

 コンビニと言えば、ただレジを打っていて夜は暇そうだなぁと思う方も多いと思うが以外とやることが多く大変だったりする。

 レジ精算、事務処理、売上金の管理、清掃、商品の補充、発注、etc。

 そして一番、厄介なのが絵に書いたような酔っ払いと言う人種だ。

 大抵コンビニには常連の酔っぱらいが1人はいる。

 その人種は、滑舌が悪く、多分異世界の言葉を使っているんじゃないかと思う程、何を言ってるのかわからない。

 あげくの果てには、聞き返すといきなりキレだし、トランス状態に陥るというなんとも厄介な人種だ。

 ごく希に、俺は1○0当番といった召喚魔法を使い、異世界に強制送還している。


 そして、今日も1人、見るからに足首と膝をやられ、歩行困難な異世界の住人が現れた。

 しかもすでにトランス状態に陥っているではないか。

 来店するやいなや何かを叫んでいる。

 

 「ちゃーたー!ちゃーたー!」


 ちゃーたー?それは何だ!何をチャーターするというのだ!まっ!まさかコンビニをチャーターするとでもいうのか!?


 「チャーター!早くよこせ……ムゴ…ムゴ…」


 早くよこせとは何をだ?まったくもって理解不能だ。生まれてこの方、ここまで人と距離を置きたくなったことはない。関わりたくはない。

 できれば「あっ!チャーターですか!それなら向こうのコンビニにありましたよ!」と言ってしまいたい。

 

 下手に聞き返すと、確実にキレられる、異世界の住人と数年闘って来た俺の身体がそう言っている。

 それにすでにトランス状態の相手がキレてしまい更なる高みに到達したとき、まだ未成年から顔を出した程度のこの俺が紳士にこの戦をおさめる事はできるのだろうか。

 

 いや!俺もコンビニ店員のはしくれ、社員である身だ。

 すでにあれから10回ほど、チャーターという恐怖の言葉を叫び、ふらついてるあの異世界の住人に聞き返し、チャーターとは何か、その難解な暗号を解いてやろうでじゃないか。

 なぁーに、いざとなったら1○0当番と言う召喚魔法が俺にはある。

 よぅーし!


 「いらっしゃいませ。」

 「何かお探しですか?」


 「おいっ!…チャーターどこだってんだ!」

 

 「チャーターってなんですか?」


 「チャーター!チャーター!」


 もう後戻りはできない、長い闘いになりそうだ。多分これから先もこの異世界の住人はチャーターしか言わないだろう。

 そう俺は悟った。

 召喚魔法も早めに呪文を唱えなければ……


 おいっ!待てよ!

 良く良く聞いてみると


 「チャータン!チャーハン!」


 まさか!


 「お客様チャーハンをお探しですか?」


 すると今まで奇声を放ち、独特の上半身の力が抜けた奇妙なステップを刻み、トランス状態の更なる高みに到達しそうなこの異世界の住人が少し照れた様子で


 「うん」っとかわいらしくうなずいた。

 

 これがギャップというものなのか!

 母性本能が俺に備わってるかわからないが、今だけはこう言わせてほしい。

 この奇妙な人種によって俺の母性本能はくすぐられた。

 

 意思の疎通が計れればたいした事はない、後はチャーハンを取り、レジ通して、必要ならチン!それで終了だ。


 俺は弁当コーナーから1つだけあまっていたチャーターを手に取り……いや!失礼、チャーハンを手に取りレジを通し。

 震えまくってる手を一生懸命に操り、5分近くはかかったであろう小銭の選別を見届けて召喚魔法を解除した。

 おっと忘れていた!これを聞かなくては!


 「温めていきますか?」


 「うん」


 相変わらずかわいい「うん」を使いやがる。幼稚園児みたいなうなずきかたしやがって。


 チンっ!


 ちょうどいい温かさだ。チャーハンを袋に入れ、プラスチックの先割れスプーンを添えて、俺の戦は終わりをむかえる。


 「なんかのめん」


 そう言って返したお釣りの50円玉を俺によこしてきた。

 きっとこれで「なんか飲め」と言っているに違いない、間違いないだろう。

 もう二人は戦友だ。50円がどうした!50円でなにが飲める!そんな事はどうでもいい!

 早く帰ってくれ!もう1人の俺がそう呟いた。


 「ありがとうございます!また御越しくださいませ!」


 まだ俺と話しをしたい戦友の空気は感じたが、終わりを告げるため、目をあわせないように深々と頭をさげ、出ていくまで頭を上げない覚悟で見送った。


 そして、コンビニ独特の扉の開閉音と共に戦友はこの場を去った。ふぅ~とため息と共に頭を上げた俺は驚愕の光景を目の当たりにした。

 なんとそこにはレジの上に置かれてあるチャーター!

 温めたチャーターが!失礼チャーハンがあった。


 「おかしいだろがっ!」


 俺の人生の集大成の突っ込みだった。

 すぐに戦友のチャーターをもち店を出て後を追った。

 信号をふらつきながら歩いてる姿を見てすぐにチャーターだとわかった!


 「すみませーン!!チャータあっ!お客様!」


 信号をふらつきながら渡り終えたチャーターが気付き振り返ってたちどまった。


 「忘れてますよ」


 声をかけながら信号を走って渡っている時だった。


 ドンッ!


 俺は車に跳ねられた。歩道の信号は赤だった。チャーターに気をとられ車に気付かなかった。

 即死だった。

 3時43分26秒

 逆月 良

 死亡

 目撃者 チャーター


                    つづく……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ