16.もう一人の真理
束の間の休息となるはずだった砂浜での休憩は、突然の大規模な自然現象の発生で中断を余儀なくされた。
「地震……?」
「それにしてもこの規模は……」
徐々に大地が揺れる力は非常に大きなっていった。
揺れるヤシの木からは実っていた実が幾つも墜ちていく。
木々が折れ砂埃が立つほどの立っていられない揺れに達した時には、すでに何もかもが遅かった。
「津波……っ」
「津波が来るぞっ……!」
揺れの治まったころに、カネルたちは水平線の彼方を見た。
「あの時の津波……?」
思い起こさせるのは3.11の津波だ。
水平線の彼方からきっと時間をかけてあの白い大きな波が襲ってくるに違いない。
しかし、その津波が来る前に地震が起きた瞬間に航空魔術で一足先に空中に上がっていたクベルは上空から光学空間表示を経由して今起きた地震の規模を分析していた。
「なんだ……?
いまの巨大地震の震源地がこの転星の裏側だ。
しかもこの大地震によって他を震源地とする地震が共振して世界同時多発的に発生している?」
「どういうこと……?」
地上からの章子の声がクベルの耳にも届く。
「M―20だ。
さっきの地震の規模を示すマグニチュードがM20を示している」
「M―20?」
それは未だかつて人類が経験したことがないような天災だった。
マグニチュード20規模の地震が起こった。
そしてその巨大地震による世界同時多発的に発生した津波が音速を超えた秒速数百キロメートルの速さで世界に波紋となって波及している。
「津波は僕が止める」
赤い宝石剣、許約剣の切っ先を海面に浸して振動を同調させ、クベルは東日本大震災とは比べ物にならないほどの大津波を、遠くまだ沖合進んでいる状態から掻き消した。
「これが本当の防災だ。
流石にこれだけの規模の津波を止めるのは初めてだけど。
殆どの自然災害は僕たちの魔術、魔動を用いれば止めることは出来る。
地震も、火山の噴火も、大雨も、暴風もね。
むしろ人が使う魔術、魔動戦闘の方が厄介なぐらいだよ」
第二世界の許約者たちにとっては、これぐらい規模の自然災害などは天災と呼べるほどの災害ではない。
むしろ本当の災害はこの後に起きるのだった。
大地震の震源地帯から想いも寄らぬ巨大な大地龍が飛び出したのだ。
龍は大地の裂け目からマグマの噴出よりも早く生まれ出でて、大地の中からこの地上へと産声を響かせる。
その咆哮は全世界に響き渡っていた。
それは龍の息吹だった。
「M―20が再度発生? 今度はM―30?
何が起こってるんだ?
一つの地震が引き金になって、他の巨大地震が次々に引き起こされていく」
大地に突き立てられたクベルの許約剣によって、共振し中和された周辺では地震が収まっていく。
「他の地域も他の許約者が地震や津波を掻き消している筈だ。
でもその間にこの地震を引き起こした原因を探らないと……」
「その必要はありませんよ」
クベルの発言を遮ったのはこのメンバーにはいない新しい誰かの声だった。
「あれが今のこの転星に眠る三つのペンティスラのうちの一つの姿です……」
真理に瓜二つのしかし真理ではない少女がそこにはいた。
「姉さん……」
呟く真理に章子も疑問の声を上げる。
「だれ……、あなた……?」
「私は落子。
神落子。
最初からそばにいた半野木昇の為だけの真理生命ですよ……咲川章子」
それはこの新世界を創った神、ゴウベンが半野木昇の為に用意したもう一人の真理。
神の落し子だった。




