14.告白 (温泉回)
立ち上る湯気の合間から一望できる山間の景色を眺める。
そこは第二世界の魔導国家ラティンの中でも、避暑と温泉で有名なリゾート地の宿泊施設にある大入浴場の露天風呂だった。
ここは日本のホテルや旅館などにある大浴場とシステムがよく似ていた。
それが女湯で浸かる章子や、男湯にいる昇にとってはどこか懐かしい心地を感じさせていた。
今、章子のいる女湯にはオリルやカネル、真理、そして何故か第五世界から引き続き同行しているギガリスのフルワイナ・ミルまで同席している。
一同がそれぞれリラックスした所作で各々ちょうどいい湯加減の天然温泉を満喫していた。
第五、第六世界と回って、一度、息抜きに何処か羽根を伸ばせれる行楽地に寄っていこうとなったのがこの温泉地だった。
そのお題目どおり、女湯では自分たちの身体の差異の事で結構な盛り上がりを見せている。
どうやら女子の裸で盛り上がるのは男子だけではないらしい。
互いの身体をまさぐる会話を弾ませながら、女子たちの黄色い声が目の前に広がる尾根尾根の雄大な景色に木霊していた。
「向こうは賑やかでいいね。
こっちは本当に静かなもんだ……」
湯船に肩までしっかりと浸かりクベルは言った。
頭に白いタオルを乗せて白昼の温泉を真剣に楽しんでいる。
「いい加減、吐き出したらどうだ?」
何故か一緒に入浴しているシイルが昇に向けて言う。
「吐き出すって何を……?」
「章子とオリル、お前は一体どちらに心惹かれているのかを……」
「え?」
「ああ。それはボクも気になってた」
シイルの発言にクベルもうんうんと頷く。
最初はあれだけの敵意でもって敵対していた二人が今は同じ話題で共闘している。
「なんでそんなこと今さら……。
それに君たちっていつからそんなに仲よくなったの?」
だがそんな昇の問い返しも無視して、クベルとシイルは昇の答えを待っていた。
しかも気づけば。さっきまで騒がしかった女湯の方まで静まり返っているのが分かる。
(聞き耳を立てているのか……)
どうやら向こうでもこの話は特別な関心事らしかった。
「……オリルだよ。ぼくはきっと……オリルが一番気になってるんだと思う」
とうとう言った昇の言葉に、女湯の方で誰か湯船から立ち上がり脱衣所の方へ飛び出していくのが分かった。
「章子っ!」
そのカネルが呼び止めようとした名を聞いて、浴場から誰が飛び出していったのかが分かった。
「よくもそこまではっきり言えたものだな」
「そうだね。ボクもてっきりはぐらかすものだとばかり思ってたよ」
「……二人が言えって言ったんじゃないか……」
毒づく昇だったが、一人女湯で顔半分までお湯に沈めているオリルの今の高揚感を感じ取ることは出来きなかった。
昇やオリルたちが大浴場から上がった頃を見計らい、一人露天風呂の湯船に浸かりなおしに戻った章子は、その帰り、一人、渡り廊下の脇にある見晴らしのいい展望台から遠く彼方を見る昇の姿を見た。
昇はこの宿泊施設の浴衣で、風呂上がりの身体には心地いい清涼な風に当たりながら遠く山間の彼方を見据えていた。
睨むように、まるでその彼方に誰かがいる様に絶景の先を捉えている。
それはただぼーっと遠くを眺めているような在り来たりな感じではなかった。
その様子を見ていた章子は改めて自分の気持ちを自覚していた。
(やっぱり、わたし、昇くんのことが……)
その微かに締め上げてくる心の鼓動に小さな握り拳を当てて。
この話の場面は、もう少し詳細な描写でどの展開版でも共通して挿入する予定です。




