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神の創りし新世界より B  作者: ゴウベン
第二章 「異界の門」
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7.侵し犯す者

 ラティンの首都ヴァッハの上空や破壊されていく街中で様々な光、様々な色、様々な形が交差する中。

 その中心、魔導魔術評議堂サルランの破壊された会議の間では更に強い光が瞬いた。

 そしてまたもやその起点から巻き起こる爆発。

 その爆発で巻き上がった爆煙から飛び出した黄色の光を追って、二つの白い光と一つの紫の光が上空に伸びる。

「そんな……。 なんで……?」

 適度な高度で立ち止まったその舞台。

 そこから見える眼下の景色は、胸に白い光の羽根を灯し、白い豪奢な服飾ドレス、華やかに散りばめられた装飾アクセサリーで着飾った章子を絶句させた。

 流れていく雲上の下、爆煙の立ち昇る廃墟となった街の広がる魔導の都。

 それが今も戦火へと巻き込む炎と煙に曝され、悲鳴を上げるように建物を崩落させ、街そのものの形を死都のそれへと変貌させていく。

「なんで……? なんで、こんなことができるの?」

 先ほどまで、あれほど美しく童話的だった魔導の都、それが今は見る影もない。

「よく見ておくといいわ。これがこれからこの新世界で始まる事。侵犯クライと呼ばれる者たちによる侵略行為よ」

 しかし、そんなことも意に介さず白と紫の三つの光に三方を取り囲まれた黄色の光の少女、クリーム色のリ・クァミスの法衣をはためかせるクダリルが宣言するように言った。

侵犯クライ?」

 オリルが不思議そうな疑問を投げかける。

「そう侵犯クライ。侵し犯す者。オワシマス・オリル。まだ気づかないの?」

 言って黄色い光を左の耳たぶに燈すアワントス・クダリル。

「新世界は一つになったわ。古代に栄えた六つの世界と現代の七番目の世界。

でも、それらをいきなりこんな巨大な舞台で一つにさせられて、それなのに何事もなく平穏平和に同調調和していけると思う?」

 言ったクダリルは断言する。

「無理よ。理性のある人間ならまだしも、野生動物にそんな分別があるわけないわ。

そしてそれは、他の世界を理解する間もなくやってくるでしょうね。

自分たちの世界ではない見知らぬ土地を我が物顔で……。

特に竜種などの攻撃性の高い生物種も多い第六世界の生物の行動範囲は他の世界と比べても桁違いだろうから見ものよ。

もちろんこの転星独自の超大陸にだってもっと強大で強力な生物が蠢いている可能性の方が大きい。

この私が言うのだから絶対よ。

本来の私であるあのゴウベンがそれをしないわけがないんだから。

で? 三人に質問するけど、そこで出た被害は一体誰が責任をとると思う?」

 しかし話を振った少女は自ら嗤って独白していく。

「誰も取りはしないわ。当然じゃない。

だってどちらも被害者面をするんだからっ! 

『強大な生物に私たちの土地が一方的に蹂躙された!』

『管理不可能な野生生物が勝手に起こしたことだから私たちに責任は取れない! 私たちだって被害を被った!』

これの繰り返しよ。

笑っちゃう。完全に平行線で終わることが分かり切ってるのに、延々とそれを繰り返すんだもの。

自分たちに力がないからっ!」

「だから力のあるあなたは、その責任の所在を作るためにこんな回りくどいことを?」

 本来の自分が作った真理生命、真理の台詞に、だがクダリルは首を振って見せた。

「まさか。逆よ。野生動物の破壊行為じゃもの足りないから、こうやって人為的な新世界犯罪組織を作って大々的にやろうっていうだけだわ」

「同じ人物の言葉とは思えませんね」

 神の娘、真理がまだ下界で少年と顔を向き合わせたままの自分の母を見る。

「自分でもそう思うわ。よくもあれだけ丸くなれるものだと感心するぐらいよ。

でも根底にあるものは何も変わらないみたい。

だって、ちゃんと私の時代を呼び出して私の前に現われてくれるんだから!」

 そして発生させた黄色の真理を鋭くさせた左手の先に纏わせてオリルに突き出す。

 オリルは目を研ぎ澄ませて紫の光陣を目の前に発展させるがクダリルの左手が放った威力はそれを突き抜けてオリルに届いた。

「……私を……抜けた……?」

「あら……掴んじゃったわ。オワシマス・オリル」

 喉元寸前の鎖骨あたり。そこに遠く強くクダリルからの握力が伝わる。

「オリルっ!」

「ダメね、見てなさいよ」

 光る眼鏡越しから言葉の力のみで駆け付けようとした章子を後ろへ突き飛ばした

「あっ!……、えっ……?」

 吹き弾き飛ばされた章子は茫然としていた。

「なに……今の……」

 全身を均等に襲った圧力の感覚。それは魔法や魔術とはまた性質の異なった加害手段。

超能力スーパースキル……ですか」

 呟いたのは真理だった。

「超能力って……あの念動力サイコキネシス念会話テレパシーみたいなの……?」

「そうです」

 真理は頷く。

「へえ、第七ではそういう風に呼ぶのね。

ただ単に意思だけで重力圧や物圧を力場で再現させただけなんだけど……」

 そう言っているが、目だけはオリルから離さない。

「それにしても、リ・クァミスの首席が情けないわね。わたしなんて底辺も底辺。誰も気づかない落ちこぼれじゃない?

それなのによくもこんな大それた舞台にお呼びがかかったと思ったら、もう一人の私による娘の指名リストに乗っていたなんて、我ながら本当に人が悪いわ」

 クダリルはまるで他人事のように笑う。

「ねえ、どんな気分? 底辺だと思っていた同じ世界の人間にこうやって真理で出し抜かれ、首元をギュッと掴みあげられている気分は?」

 オリルは無言の視線で対抗しようとするがしかしそのどれもが不発に終わる。

「無駄よ。私とあなたとでは真理学適性リトマシー・エメシスの規模が違うの。

三人同時でも相手にならないのに、あなた一人では尚更私の意思から逃れられるわけがないでしょう?」

「オリルっ!」

「章子!」

 片腕で拘束されるオリルを見て、もう一度それを解かせようと試みる章子に真理も続く。

「やれやれ……王、……転っ」

 クダリルが唱えた先から章子と真理が空中で躓き倒れ込む。

 そして転んだ真理の背中を見据えるクダリル。

「無様ね。それにしてもあなたは邪魔だわ……死んでもらおうかしら。……断……」

「ああっ!」

 真理の背中を、背骨から中心に激しい痛みが襲った。体を真っ二つに裂こうとする悪意に満ちた激しい痛み。

「あっ――……。っあ――!」

「大丈夫よ。別に本当に断とうってわけじゃないから。ただ痛みだけ。動けないほどの痛みだけ味わってもらう。

何しろ、もう一人の私がわざわざ作ってまで用意した娘なんですもの」

 言いつつ、何を思ったのかそこで会話の対象を章子に変えた。

「でも、いいの? あなたのなんでしょ? ……コレ」

「え?」

「あなたのでしょ? この真理生命でく

「何を……言ってるの……?」

 まるで人の命を物と同じように扱う言動。

「呆れた……まだ、何も教えてなかったのね」

 絶叫に喘ぐ真理を仰々に見下すクダリルはくつくつと嗤う。

「これはあなたのよ。咲川章子。あなたの真理生命マーティファクターシン真理マリよ」

 そして視線の先に力を込める

「――っあっ――っ!」

「凄い痛がりようね。ほら助けなくていいの? 今度はこっちのオリルの番になるかもしれないのよ?」

「っ」

「私、オリルには個人的にも恨みがあるから……」

 言って段々と握力を強めていく。

「何……の……こと……を言って?」

「黙ってなさいなオリル。でないと今ここでくびり殺してしまいたくなるじゃない? 私を殺人者にさせないでよ……」

 握力と視線と言葉だけで三人の少女を掌握してみせるクダリル。

「言ってもあなたには分からないことよ……永遠にね」

 そしてオリルの首元から喉元にその握力の位置が移り変わっていき、その気道を抓み潰そうと取りにかかった瞬間。

 唐突に章子とオリルと真理を拘束していた力が弱まった。

「何っ?」

 弱まった途端、伸びたオリルの紫の真理がクダリルの黄の真理と火花を散らして刃で交わる。

 その合間に喉元を抑えたオリルは解放された章子や真理と同時にクダリルから距離を置いた。

「どういう事……? 適性低下パワーダウン? 私の真理学適性が一段下がった? なんで急に……っ?」

 不可解そうに自分の手の平を見つめるクダリルに、章子は白い真理の光を纏って、迷わず飛び込んだ。

「なんでこんなことが出来るのっ? 人が死んでるかもしれないのにっ」

 光りの羽根を舞い散らせて章子は手にした白い光を振りかざす。

 クダリルはそれを捉えて視線だけで章子を弾こうとするがその真理が発動しない。

「何で……っ?」

 そんな事もお構いなしに、白い光を青い宝石が填め込まれた白い近代的な杖に具現化させて、章子はそれをクダリルに向けて振り回す。

 その光景を横目にしながら軽く喉を抑えるオリルは背中に手を当て伏せっている真理にゆっくりと近寄った。

「思ったより……平気そうね……」

「人間のかたちでいる不自由さを思い知った気分ですよ……オリル」

 和らいだ痛みに耐えて独り言ちると、上空の合いまみえている二つの光を見上げる。

「……加勢に行きましょう。あれは章子一人にはまだ荷が重い」

「私でもまだ無理そうね」

「ですが三人なら届きそうです。今の彼女に」

「どうしてクダリが……」

「それも後にしましょう。後があれば……ですが」

 真理の言葉にオリルも頷いた。

 輝いた白と紫の光が上昇し、上空の白と黄の光に合流しようとする。

「私はああいう激しい戦闘が嫌いだったのに……!」

 下の空や街で繰り広げられる光と破壊を見守りながら、その上空にいる黄色の光、クダリルは言った。

「だったら今すぐこんなことはやめてよっ!」

 叫ぶ章子の振るう力を躱しながらクダリルは視線だけを移す。

「やめてどうなるの? 死人を出すのが怖い? それでもいつかは誰かが犠牲になるわ。この七つの世界が一つになった代償を」

「だったら最初っから一つにならなければよかった!」

「そういうわけにもいかないでしょ? あなたは思ったことがなかったの? この世界が新しく変わればいいって」

「あるわよっ。あるけど……、それはなにも、こんな形じゃないっ」

「だったら、それは一体どんな形だったらよかったの?

ほら言ってよ。私は今、それがとっても知りたいわ。あなたなら一体どんな形でこの世界が変わればよかったと思うの?」

「それは……」

「答えられないんじゃ、つべこべ言う資格なんてないじゃない。

大人しく私のすることを地上で見ていなさいな」

「嫌よっ! 絶対にイヤっ」

「何故?」

「そう言ってあなたは人の死を強要するからっ!」

「なら、どうするのっ? ねえっ、あなたはどうするのっ?」

 その顔に備わったのは狂気。

 駄々を捏ねるだけで何の答えも示さない同い年の同性に飽きれて芽生えた殺意を、構えた手の先に込める。

 だが本当の殺意はその下界で迸った。

「何っ?」

 高空で集った四人の少女。

 その四人が四人とも、下界で放たれた一条の光の先で巻き起こった遥か彼方の大爆発の光景に目を釘づけにする。

 それはもう一つの太陽という表現さえ超越したもう一つの夕陽の光景だった。

「核……?」

「いえ、あれは……」

「……反物質……?」

 白い光の羽根に集まる、白と紫。

「そう……始めるのね」

 そして相対する左耳に黄色のピアス。

「開くわ……『異界の門ラディア・ゲート』が……」

 それこそ神が、これから少年に見せる光景だった。


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