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神の創りし新世界より B  作者: ゴウベン
第二章 「異界の門」
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6.円虹 

 魔導魔術評議堂サルラン上空では大規模な魔術戦闘が巻き起こっていた。

 彼方の天空より降りかかる巨大な鎖の数々、それを斜線に射抜く一条の閃光となった槍。迸る瀑布と冷気の煙と炎柱、振り払われる巨球。

 それらを纏う風や雷電、数々の武器の巨影は嵐となって、天と地と空中を吹雪と火の粉と水飛沫を巻き込み百花繚乱する。

 それらすべてがこの魔導の首都上空で繰り広げられていた。

 その数多ある自然災害と振るわれる人の武器の威影が一堂に集った光景は、まさにその混迷ぶりを表現していた。

 それは許約者ヴライドたちの魔動反応を確認し、瞬く間に敷かれたラティンの全領空域を航空封鎖する為に開放された魔術無線にも如実に表れている。

“どういう事だっ? 許約者ヴライドたちが戦闘行為をしているのかっ? 何も聞いてないぞっ!”

分からんネガティブ。首都圏一帯はすべて魔動の嵐になっている。肉眼でもおいそれと確認できん!”

“待機していたヴァッハの第一航空騎士団エア・フォースの出撃が確認できていないっ?”

円虹ラウンド・ミラージュからは何も連絡がなかったのかっ?”

“まさか、一番恐れていた許約者ヴライド同士の戦闘っ?”

“バカを言うんじゃない! そんなことになったら地球がいくらあっても足りやしないっ!”

“だが実際にこの魔動反応の規模は……!”

“まさか……魔動識別装置アイ・エム・エスの故障っ? この数、……円虹のそれどころじゃないぞっ?”

“もう一度よく見てみろっ。今の円虹は空位を覗いて七人しかいないはずだっ!”

“ダメだ! 少なくとも許約者ヴライド級の魔動出力反応が少なくとも十五はある!”

“十五っ? それがこんな魔導の国の首都でっ?”

“バカも休み休み言えっ! そんな出力の魔動師マキサスがそうそう何人もいてたまるかっ!”

“しかし……これはっ”

“ダンテからの第十三支援航空騎士団の到着信号確認、これよりヴァッハ周辺の警戒にあたると……消失ロストッ? 撃墜されたっ?”

“報告しろっ! 距離と被害規模っ!”

“距離、国府から直線190ワンナインゼロッ! 損害、二個師団、総数二百三十八ッ!”

“距離が百九十? ヴァッハの直径距離より三倍もあるっ? その距離から二個師団、総勢二百三十余りの航空騎士たちを一瞬で? そこから狙い撃ちにされたっ? いや、巻き込まれたのかっ?”

“航空騎士は一騎で国家予算五十億は吹き飛ばす精鋭エリート中の精鋭エリート。一国が持てる最高戦力だぞっ? ”

許約者ヴライドたちにはそんなこと関係ない。前から分かり切っていたことだろう!”

“だが……それでもこれはあまりに……っ!”

“くそっ……! 無線が混線しているっ?”

“駄目だっ……! 空が見えないッ!”

 筆舌に尽くしがたい混迷する現状の中、魔動、魔術に巻き込まれた瓦礫の街並みからはすべて、満足な人の姿を確認することもできない。

「なんてことをするのあなた達はっ!」

 鎖の嵐と鉄球の嵐の舞う中で水色の宝石剣がその立ちふさがる杖を弾き返した。

「私たちは十二獣座。ただ主の為になすことをするだけ……」

 杖を持つキリンの獣人はただ言うのみ。

「このまま私たちを見逃すというのであれば、このまま退却するよう首領には嘆願しましょう」

「ふざけないでっ!」

 杖の先から連続で放たれる全ての光弾を避けて水の許約者ワスア・ブライドはその水色の透明な刀身をした宝石剣を振りかざす。

 しかし、それを次々とさばき切り使い慣れたように杖を操るキリンの獣人。

 魔導の首都の上空で乱舞する両人の間を掠め、また一つ極めて太い一筋の槍の一閃が投擲される。

「っ! さっきから魔動行使しているのが物理増大ばかりっ?」

 遠く馬の獣人の手に先ほど投擲された槍がもうすでに戻っている。

「こいつらの魔動手段はまた俺たちとは違うようだ」

 長く透き通った髪に水をたたえる少女、水色の衣を翻す水の許約者ワスア・ヴライドの隣で、青色の衣を纏った凍てつく頭髪の少年、氷の許約者シーン・ヴライドが立つ。

「どういう事?」

「俺たちは剣から迸る属性を使って攻撃手段にしている。だが奴らは手に持っている武器そのものの能力を特化させているようだ」

 だから投槍は放った瞬間に手元に戻り、うねる鎖の波状は何処までも伸びて届きその威力を伝える。

「固体発生をうまく武器の特性に合わせておるのか。考えたものよ」

 言った許約者たちの長、樹の許約者グリズ・ブライドが合流したことで、そこが許約者たち円虹の一時的な合流点になった。

 樹の許約者グリズ・ヴライドの手招く合図で散らばっていた各許約者が集まる。

 青のシーン、水色のワスア、深緑のグリズ、緑のバルツ、黄緑のフオン、黄色のヴァルディラッハ、そして直上の高空で未だに巨大な鉄球と合いまみえている赤のファーチ

 集ったのは総勢六名と高空で今も闘う一名の許約者ヴライド

 その各々の属性の行使を各々が携える剣に許され約束ヴライドされた者たちだった。

「酷いものだな」

 見れば足元の街はほとんどが破壊され瓦礫となっている。

 そしてその超常性をさらに物語る、これほど戦禍で汚れたことはない許約者たちの纏う正装の衣、許約衣ヴライ

「奴らの魔動媒体マキス・ドライバー、厄介だな。性質も去ることながら、特に数が」

 本来であれば十人である筈の許約者ヴライド

 それを一括りとする現在の円虹ラウンド・ミラージュには空位の色、つまり未だにその成り手のいない空位の属性が三つ存在している。

 ヒューンゼラアウスがそれだった。

 その十色がそろったことは円虹七千万年の歴史の中で一度もないが、今ほど、それが悔やまれることはない。

「数が足りない分はヴァルディラッハにお願いしたい。出来るか? ヘズル?」

 全ての属性、全ての色を兼ね備える覇色の色、黄色の許約者、覇の許約者ヴァルディラッハ・ヴライド

 その十本の許約予剣ヴライアドを束ね光背に回転させる金色の衣を纏う少年ヘズルは、円虹の最長齢に達する円虹の歴史と共に許約者となった最古にして最初の許約者ヴライドである

「やってはみるが期待はできないぞ? グリズ。……もって十分か……?」

「それでもよい。最悪、ここで許約魔術ヴェルディラストを解放することも許可する。今はこやつらをここで止めねばならん」

「いいのか? 首都が一つ消し飛ぶだけでは済まんぞ?」

「被害が我らだけならばまだよかろう。だが、ことは新世界に及ぶっ!」

 その先見の明。

「そういう事か……」

「そういう事だな……」

 許約長も頷く。

 しかし、そう言ったそばから次の鎖が十二本も突き抜けていく。

「他人の世界だと思って、好き勝手してくれる!」

 緑の宝石剣を手にして、若い女の許約者が鎖を環の束から放ち続ける鯔の獣人に雷を乗せて切りかかる。

 だが、それは棒状の魔動媒体をもつ猿の獣人に割って入られ妨げられた。

「オウドビ。さっきから貴様は力に溺れ過ぎだ。我ら十二獣座ゾディマから見てもその行為は目に余る」

 猿の獣人がオウドビという名の鯔の獣人を叱る。

「しかしこれは愉しい! まるで街が玩具オモチャのようじゃないかっ? 鎖を一つくねらせるだけで見ろっ! 家や道が飛び跳ねていくっ!」 

水鯔座パイシーズっ!」

「これをあの忌まわしいムーの町々で振るえたらと思うと心が昂ぶるではないかっ! そうは思わないかっ? 斉禺座スコルピオッ!」

 そして新たな長から与えられた力、その魔動媒体マキス・ドライバー、十二の鎖を束ねる環、水環鎖パイシーズを輝かせる。 

「やめろッ! 我らはそんな無思考な暴力が生む無抵抗な市民の不幸を思い知っているはずだっ!」

「他愛無いっ。そんなものは我らも含め、誰もが通る道だあっ!」

 もはや獣人の理性さえ放棄した快楽を求める獣人特有の巨大な拳が鎖環の真ん中を正拳に突く。

 そして環に留められた十二の魔手が四方八方に飛び散り魔導の街に更なる破壊をもたらそうとした時。

 速射される光の射弾が悉く鎖の先のおもりを撃ち飛ばした。

「なっ?」

「誰だ?」

 そして次にオウドビを捉えた荷電粒子砲ビームカノンによる長距離射撃。

荷電粒子魔動ブリューナクッ?」

 だが、それはほとんどの許約者が思い至った雷の許約者バルツ・ヴライドによるものではなかった。

 見れば、遠く、その深緑のコートを纏って向けてきた銃口は煙を燻らせて銀色に映えている。

「カネルか……っ!」

 ただ一人、魔導都市の上空で巨大な鉄球を繰る象の獣人、巨象座リブラと相対する火の許約者ファーチ・ヴライドクベル・オルカノだけは分かっていた。

「カネル・ビサーレント……」

 それはその身の証、銀飾短銃コマー・フォルトをこれ以上もなく誇示して見せる第三世界の寵児、金色ブロンドの長髪。

「遅くなった……」

「まったくだ……」

「今度こそ、遅れは取らない。……出撃ランチッ!」

 それが今はまだ許約者ヴライド級の魔動しか発揮できていない、微かに緑の真理を纏わす者の意思だった。 



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