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神の創りし新世界より B  作者: ゴウベン
第二章 「異界の門」
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1.新世界会議

 章子は大広間の一角に当てがわれた上座近くの席の一つに着いていた。

 両隣には章子を挟んで真理と昇が座っている。

 目の前に広げられた巨大な長方形の白い卓と揃えられえた数々の豪奢な椅子にはまだ誰の姿もない。

 そんな広大な「会議の間」で迫る時刻だけを目で追ってただ三人は待っていた。

 白いクロスの布かれた大卓の向こうでは、その端から端まで行き渡る大きな窓からこの街の全貌が一望できる。

 その街の名はヴァッハ。

 太古の地球上で二番目に栄えていたと云われる時代の一大魔導国家、ラティンの首都、その中枢にあるお伽の噺にでも出てくるような魔術の街である。

 そんな、ここからでも見える地平線の彼方まで続く果てのない太古の街並みには、章子もしばしば現実を忘れてしまうほどの美しさと懐かしさが介在していた。

 こんなお伽噺のような街に住む気分とはどんな物なのだろうか?

 章子はただそれだけを思い、羨望の目でそれを見ていた。

 それはまさに憧憬の眼差しだった。

 眺めていた景色にたびたび横切るのは空飛ぶ箒や空飛ぶ絨毯。

 それに乗るのはターバンを巻いた男であったり魔女の格好をした老婆であったりした。

 本当にこの魔法のような国が大昔の地球に存在していた。

 章子にはそれがいまだに信じられなかった。

 だから迫る時間も忘れて章子はその絶景に見惚れていた。

 これが本当に現実世界の事だと思うと居ても立っても居られない。

 今すぐにでもこの会議の広間から飛び出して異世界観光へと洒落込みたい衝動に駆られる。

 しかし、章子が思っているほどこの新世界の状況は芳しくなかった。

 だからこその、この会談の場が設けられたのである。

 これから始まろうとしているのは世界会議アンポリだった。それも唐突に新しく集まり広大となった新世界での初めての。

 そこで章子たちはこの議題の中心に晒されることは確実だった。

 理由は章子にもなんとなく分かる。

 自分たちは生き証人なのだ。

 神に力を与えられ、その神を唯一間近で見た重要な参考証人として。

 そしてそれはついに開かれた扉から、否が応でもその現実を突きつけていた。

 入ってきたのはオリルだった。

 その後に威厳ある背格好の初老の翁や高貴さを纏う老婆など最初の世界の代表者たちがゆっくりと続き、昇の隣から席に着いていく。

 昇の隣に腰かけたのはオリルだった。

 オリルは特段章子たちを気にした様子はないが、その振る舞いは当然章子たちを把握しているものだった。

 自分より後に続く隣席に自分の世界の重鎮たちを甲斐甲斐しく促すオリル。

 オリルもまた自分の世界の代表を務める代表者たちの一員だった。

 そしてオリルたちの入場を皮切りに続々と異世界の代表者たちが大広間の会議場内に集まってきた。

 その中には章子をこんな状況に引き込んだ一人であるカネル・ビサーレントやクベル・オルカノの姿もある。

 しかしそんな彼らも章子たちには目もくれず通り過ぎて、しかも用意された席にも着かなかった。

 彼らは椅子の背後で立ち止まり自分の仕えるべき相手をその席に促す。

 彼らもまた章子と変わらないその年齢で自らの国、組織の顔を背負っていた。

 会議卓の席が次々に埋まっていく。

 卓の上座と下座を覗き、両側面の席は全てここに招かれた国賓級の人物で埋まってしまった。

 その新世界各地の代表者たちが揃った光景はさながらに壮観だった。

 章子たちの真正面に座するのはクベルたちこのヴァルディラ紀におけるラティンとはまた別の国家の人物たちだろう。 服装こそ違え、その雰囲気は同じ時代観を漂わせるものがある。

 そしてその隣、下座へと向かう方にはカネルたちの世界の要人たちが続く。

 やはりカネルやクベルは席に着かず、自分が主と認識する人物の背後を護るように起立している。

 それを見やりながら章子は、自分たちの側に座するオリルたち最初の世界の要人たちの向こうに位置する、まだ見たこともない世界の人物たちが気になリはじめていた。

 それは下座に近い末席の一つ。

 そこに座っていたのは章子たちと大して歳の変わらない一人の少女だった。

 カネルに負けず劣らずの長い金色の髪。……にも拘わらず、その美貌はカネルとはまた違った意味で静かな美しさを湛えている。

 しかし、今はそれはどうでもよかった。

 章子に近い歳の少年少女なら他にも所々で手慣れたように席に落ち着いていたり、護衛の為に脇に添い立っていたりしている。

 問題はその少女の背後で付き従い立っている人物たちだった。

 章子は遠目にしながら内心驚いていた。

 あれは人間ではない。

 あれは獣人だ。

 章子の所から見えるのはライオンと兎の二体の獣人だった。いや二人といった方が正しいのか。明らかにあの獣人たちは人同様に知性があり、人以上に尊厳心と親切心と主に対しての忠誠心にあふれている。

 それを従えているあの少女は何者なのだろう?

 章子は純粋な好奇心を覚えた。

 少女は章子の視線には気づかない。

 だから章子も好奇に満ちた目はそこで止めることにした。

 この世界はまだ章子の知らない姿を内包している。

 いずれあの少女の事もこの会談の場でそう遠くもなく明らかにされることだろう。

 今、ここはそういう場なのだから。

 不意に目を戻した隙に視界の端に入った昇とオリルの姿が章子の心に一瞬だけ妬き付く。

 衝動的に章子は思い出してしまった。

 あの宇宙での光景を。

 章子は誰にも気づかれないように自分の胸に手を当てた。

 まるで何か強く湧き上がる想いを抑え込めるかのように。

 大丈夫。

 違う。

 大丈夫。

 それは違うから。

 章子は自答する。そう自分に言い聞かせる事で心を落ち着かせようとする。

「始まりますよ」

 上座に一番近い真理がオリルと同じ色違いで無地の法衣を身に着けた章子たちに声を掛けた。

 背後の門扉が開かれて、最後に残っていた上座の五席と下座の二席がそこで埋まった。

「みなさん、ご無事にお集まりいただいたようですね……」

 場内に響く声だけが高らかにそれだけを宣言していた。

「それでは始めるといたしましょうか……。

この世界の……、神の創りしこの新世界での、初めて催されるこの新世界会合メサイアを……」


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