新世界起日
それはいつもと変わらない秋の日の昼休みのはずだった。
他愛無い会話が飛び交い、広げた弁当箱の中の匂いと食事を進める食器の音が響く校内。
名古屋市中山区。
名古屋の西部にある市立中央市中学校でもその光景は変わらなかった。
昼時の校内放送はその日の全校生徒のリクエストの中から選ばれた曲が流れている。
もちろん今日のこの時間もその曲を会話に挟み男子女子生徒、教師ともに次の授業に備えた英気を養うひと時となるはずだった。
しかしそれも今この時を境に終りを告げた。
気づけば辺り周辺が急に暗くなり、それに続き隣の教室や廊下から女子の悲鳴や叫び声が聴こえてくる。
教室では机を合わせて弁当を広げていたクラスメートたちが何事かと想い、揃って教室の窓から身を乗りだして暗くなった校庭を見上げていた。
校舎はこの目の前で起こった奇怪な現象に反して静かになった。
校庭や校舎から望む教師や生徒たちはその超常的な自然現象を前にただ茫然となるしかなかった。
人々は見上げた。
太陽の場所を。
それは日蝕だった。
黒い巨大な円影に自身を隠された太陽が白い光りの輪郭を暗闇の空に伸ばしている。
「日蝕だっ……」
誰かが言った。
しかしこの日、だれも日蝕が起こるなどとは知らなかった。
そしてそれ以上のことも……。
短時間の天文劇が終わると大空を見上げていた人々は更なる叫び声をあげることになった。
静寂はそこで永遠に終わることになった。
校舎から東の方角に望むのは名古屋駅を象徴する白い双塔ツインタワービルだ。
そして今そのツインタワービルの遥か真上の日蝕の終った青空には、新たに巨大な地球のような惑星が忽然と出現し浮かんでいた。