8.
三太と一緒にいた二人は、太目の方が泰蔵、小さい方が小太郎といった。村の子供たちの中では大将格らしいが、今はかやの言いなりだった。
「まずは、敵について知らなあかんな。何人ぐらいおるんや?」
「逃げてきたやつの話だと、十人くらいだって。こっちにも一度頭領が来たんだけど、顔に傷のある大男で、バカ力なんだ。二人そいつに斬り殺された」
「村長たちは自分たちだけで倒そうって気はないんやな?」
「死人が出たから、皆怖がっちまって。あっちは戦い慣れてるし、敵いっこないって思ってるんだ。鉄の国のやつらが来た以上、今さら方針を変える気はないと思う」
そういう三人も覇気がない。自分たちで戦うといっているものの、勝てる気はしていないらしい。
「……大男っていったな。ぬし様より大きいんか?」
「いや、さすがにあんなには大きくないけど――っていうか、鉄の国がおかしいんだよ。なんであんなに大きいんだよ!」
かやがあからさまに拍子抜けしているので、三太は必死に反論した。
「で、バカ力か。何したんや?」
「柱を斧一撃で折って、家を一軒崩した」
「斧で? 素手なら、まあ、驚いたってもええけど……。片手で梨を握りつぶしたり、拳で岩割ったり、素手で熊を倒したりしたりせえへんのか?」
「しねえよ! 素手で熊が倒せてたまるかっ!」
「なんや、案外弱そうやな」
「もっと驚けよ! ――っていうか、っていうか、鉄の国を基準に話すなああああっ!」
三太はかみ合わない感性に絶叫した。
「ダメだ……この女と話してると、俺の常識が壊れる」
「ウチがおかしいみたいに言うなや」
かやは憮然とし、にかっと笑った。
「でも、これで敵が怖くなくなったやろ? たかだか、斧で家を倒した“だけ”や。自分たちだけでも倒せる自信ができてきたんちゃうか?」
三人はさっきよりも落ち着いた態度で、顔を見合わせた。
「脅しにビビリすぎて、敵が大きく見えすぎとるだけや。敵はたったの十人。武装しとるにしても人数はこっちの方が多いんやし、地の利もこっちにある。武器だって鉄の国からええのが揃えられる。占領された隣の村やって、そいつらに反発心を抱いとるはずやから、協力してくれるやろ。落ち着いて戦えば勝てる相手。そうやないか?」
三人は目をしばたかせた後、力強くうなずいた。表情に活気がある。
「そうだな。かやの言う通りだ。勝てるんだ。勝つんだよ!」
三太は他の二人の肩を叩き、かやも叩いた。親しみのこもったしぐさに、かやの胸が熱くなる。麓の村の人間とこんなふうに話しているのが、まるで夢のようだった。こぼれそうになる笑いを抑え、神妙な顔つきで話し合いを再開する。
その時、かすかに草を踏む音がした。誰かやってくる。四人はあわてて崩れかけた壁から外に出て、木の幹や茂みに隠れた。
「ここにはいないみたいです」
「そうか。どこ行ったんじゃろうなあ」
「すみません、つき合わせてしまって」
「いや、世話になっとるしな」
かやは肝を冷やした。隣では三太が息を殺している。りんとナギだ。
「三太のやつ、仕事サボってどこに行ったのかしら。あいつが姿を消すと、たいてい何か騒ぎが起きるんです。本当に困った奴」
草をかき分けながら、りんがこちらへやってくる。かやと三太は身を寄せ合い、可能な限り身体をちぢめた。あと数歩で居場所がばれてしまう、というところで、りんが立ち止まった。恐々様子をうかがうと、りんは鉄の国の方角を仰いでいた。ナギと一緒に。
「……かやさんって、鉄の国の人ではないんですよね。しゃべり方が全然違うし」
「ああ。鉄の国で盗みを働いた父親が、罰を免れるためにかやを差し出したんじゃ」
「酷い、ですね」
「そうじゃな。しかし、それを良しとしたわしらも酷い。来たばかりの頃、かやは泣いてばかりで、本当にかわいそうじゃった。里に遊びに降りても、わしのせいで石を投げられて。あの時は本当に立つ瀬がなかった」
「そんな。ナギさんのせいじゃないと思います。鉄の国の人が鉄を作るのは、平野が少なくてろくに畑が作れないからですし、女の人を攫うのだって、女の人が生まれないからなんでしょう? 姿形も選べません。仕方のないことを、私たちが理解せずに怒っているだけなんです」
「りん」
「ナギさんは悪くありません……」
小さな人影が、ためらいがちに大きな人影に近づいた。なにやらいい雰囲気だ。かやは身を引っこめ、三太は身を乗り出す。制止しようとして、かやは落ちていた木の枝を折った。気づかれた。とっさに、三太を木陰から押し出す。
「三太!」
「り、りん……」
「こんなところで何してるのよ!」
りんが三太の耳をひっぱる。恨みがましい視線が送られたが、かやは涼しい顔で「堪忍してや」と手を合わせただけだった。三太一人が引き立てられていき、かやたちは難を逃れる。
「尊い犠牲や……」
かやは遠ざかる三太に向かってお辞儀をした。別のところに隠れていた泰蔵と小太郎は「やっぱり鉄の国の人間は怖い」と慄いた。