表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダークシャウト  作者: 焔滴
第一章
9/48

察知の刻

 ――拓人が魔法陣に捕らわれてしまう、少し前の出来事。

 花菱学園の屋上から、学園の敷地内を見下ろしている人影があった。

 平井義乃だ。

 セミロングの黒髪は後ろで一つに括られていて、屋上を吹き抜ける風に揺れている。

 服装も現在は純白の剣道着から制服に変わっていた。

 上は半袖の白ブラウスに、下は紺と緑のチェック柄をしたプリーツスカート。

 肩に掛けた竹刀袋には、白い生地に銀色の刺繍で百合の花が描かれていた。

 義乃の視線の先には、部活動を終えた生徒達の姿がある。

 次々と正門を潜り抜けて学校を出て行く様子は、至って平和だ。

 賑やかでいつも通りの光景を眺めつつも、義乃の表情は緊張を孕んでいる。

 切れ長の瞳は、鋭く研ぎ澄まされた刃の艶を放っていた。


「何処だ……何処に居る」


 真剣な面持ちで呟く義乃の顔は、一般的な高校生女子と比べて遙かに大人びている。

 顔のパーツ自体は年相応か、寧ろちょっと幼く見える位であるというのに……滲み出る雰囲気が、まるで時代劇に出てくる武士の如き風格を漂わせていた。


「必ず近くに居る筈だ。……澄み渡れ、義乃」


 義乃は己自身へ強く言い聞かせるように、瞼を閉じる。

 そして鳥の片翼を模った銀のペンダントを握り締め、言葉を静かに噛み締めた。

 念の籠もった言葉は義乃の心深くまで響き渡り、全身の感覚を鋭敏にさせた。

 すると片翼型のペンダントが、義乃の掌中で黄金の光を帯び始める。

 光は徐々に強くなり、それに比例して義乃の意識は大気に溶け出した。

 自分が風に乗って周囲へ広がるような感覚に包まれ、少女の心は透明になってゆく。

 学園を中心として円形状に広がる義乃の意識は、神経を持つ透明なヴェールのようだ。

 あらゆる物事の深くにまで浸透し、自分が探し求める気配を知覚しようとする。

 ――校舎の中には無い。校庭にも……無い。

 義乃の精神波は正門の外へ飛び出して、帰宅途中の生徒を掻き分け進む。

 空気の中を魚のように泳ぎながら、絶望坂を下り……とある一点に到達した瞬間、穏やかだった意識が一気に弾けた。

 絶望坂の途中にある古びた神社が、義乃の頭に浮かぶ。

 鳥居を潜った先から伝わってくる、異常な気配を感じた。

 気配の元は青紫色の霧がかかっているみたいに、詳細が読み取れない。


「……今のイメージは!」


 かっと目を開いた途端、弾かれたように義乃が動く。

 片翼のペンダントが付いたチェーンを手首へ巻き付けて、吹き抜ける風のような速さで屋上を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ