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ダークシャウト  作者: 焔滴
第一章
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騙りの刻

「――な、なんだよっ? ……ははっ。……俺ってそんなに、ヘンかなぁ……?」

「ヘンだよぉー! ぜぇ~ったい、変! ほんと、おかしーっ」

「ひっでぇな~! そこまで断言する事ないだろー? ……っふ、あはははっ」

 

今まで一緒に学校で話をしていた時とは、明らかに違う闇朱の笑い声。何と言うか、笑いの本気度が違うといった感じ。それが何だか嬉しくて、拓人は朗らかに笑みを深める。

 どれ程の間そうやって、拓人と闇朱は笑い合っていただろう。

 不思議に甘く暖かな時間は……突然降ってきた第三者の声に、終わりを告げた。


「――なーにバカ笑いしてんのよ。……全く、見ていられないったら」


 呆れを含んだ気だるいアルトの声に反応し、拓人は咄嗟に声がきた方へ視線を向ける。


「甘酸っぱい青春ごっこも良いけどさ、チンタラしてる暇は無いのよ、私達ぃ」


 社の屋根の上に、一人の女が立っている。モノクロにバラの赤が映えるドレス。

 ラベンダー色に染まった髪を指にくるくる巻き付けながら、深く溜息を漏らしている。


「……な、誰だっ……!?」


 常識的に考えて有り得ない場所に立っている女。

 あまりの出来事に拓人は目を見張り、口を半開きにしたまま立ち尽くしてしまう。

 そんな拓人の問いかけをあっさり無視して、派手な格好をした女が屋根から飛び降りた。

 危ない、と叫ぼうとした拓人の心配をよそに。舞い降りる羽毛の如く石畳の上へ着地した女は、腰に片手を当てて拓人を眺める。


「……苺莉亜(めりあ)さん……」


 突然現れた女に向かい、闇朱が緊張した面持ちで声を発した。


「えっ? ……秤音の知り合い?」

「そうよ。初めまして、麻宮拓人君。私は苺莉亜。そこに居る闇朱とは、とても深い仲なの。運命共同体と言っても過言じゃないわね」


 苺莉亜は黒目がちな瞳を妖艶に細めながら、カツカツと靴音を響かせて拓人達へ近付く。


「運命共同体って……秤音、これって一体どういう事だ?」

「……苺莉亜さん、どうしてですか? ……まだ作戦の途中だったのに」


 答えてくれない闇朱が漏らした言葉――『作戦の途中』

 意味不明なキーワードを頭の中で反響させながら、拓人は懸命に思考を働かせる。


「だって闇朱、あっさりフラれちゃうんだもの。その時点で作戦は失敗でしょ?」


 細く綺麗に整えられた眉のラインを物憂げに歪ませ、苺莉亜が闇朱に答えていく。


「でもまだ、そうと決まった訳じゃ……」

「決まってるわ。あそこからどうやって挽回する心算だったの? アレじゃあ魅了の術なんて、かけられないわよ」


 『魅了の術』またしても不可解な言葉を聞き付けて、拓人が闇朱を振り返った。


「秤音……何の話をしてるんだ? 俺、全然分からないよ」

「麻宮君……えっと、これは……その」


 問い詰める拓人の前で、闇朱は気まずそうに髪を弄る。

 暗緑色の瞳が伏せられて、長い睫毛が瞼へ影を落とした。


「正直に話しちゃえば? もう騙す必要もなくなったんだし」

「苺莉亜さんっ!」


 投げ遣りな態度で不穏な台詞を口にする苺莉亜を、鋭く闇朱が制する。

 しかし一度唇から生まれてしまった言葉は、喉の奥には戻せない。

 苺莉亜という女が呟いたキーワードを拓人は自分なりに解釈し、一つの結論に達した。


「……ああ、そっか。……分かった! これってドッキリなんだろ?」


 拓人は導き出した答えを言い放ちながら、納得した顔で一人ウンウンと頷き始める。

 その言葉を聞いた闇朱と苺莉亜の二人は、目を丸くして互いに顔を見合わせた。


「道理でさ、変だと思ったんだよ。秤音が俺に告白なんて、やっぱり不自然だもん」


 詳しくは知らないが、どうやら闇朱は苺莉亜と呼ばれる女と組んで、自分を騙そうとしていたらしい。

 何でそんな事をしたのか拓人には分からなかったが、当初予測していた不安はこれで的中してしまった訳だと認識する。


「しっかし秤音も結構演技派だよな~? コロっと騙されちまったよ、俺。……ハハッ」


 闇朱の告白を真に受けて、何を語っていたのだろう自分は。

 拓人は己を振り返り、恥ずかしいやら情けないやらで、目に涙が浮かびそうになるのを必死に堪えた。


「違うの、麻宮君! ……その、これはそういうのじゃなくて」

「いいって、秤音。別に怒ったりしてないから。……さて。めでたく引っかかった事だし、秤音も目標は達成できただろ? ……そろそろ帰るわ、俺」

「あ、ちょっと待って! 麻宮く……」


 そろそろ拓人の我慢も限界だった。

 鼻の奥がつーんとして、みっともなく号泣してしまう一歩手前。

 しかしそれだけは……それだけは男として、なけなしのプライドが許さない。

 闇朱の制止する声を振り切って、拓人が石段に向かい駆け出した瞬間。


「――帰らせないわ」


 強い意志の籠った苺莉亜の声が、鋭く放たれる。

 それと同時に拓人の両足は、ガクンと突然動かなくなってしまった。

 まるで石になってしまったかのように。

 驚きで拓人が足元を見ると、地面が青紫色に輝き出していた。

 光は徐々に輪郭を浮かび上がらせて、魔法陣の如き文様を地面に出現させる。


「――なっ!? なんだ、コレッ!?」


 混乱する事態に陥った拓人の目から涙が引き、代わりに驚愕の表情が顔に浮かぶ。

 地面に足裏が吸い付いてしまって、その場から一歩も動けない。


「人払いの結界と共に、保険として用意してあった術が役に立ったわね」


 苺莉亜はブーツの踵を甲高く鳴らしながら、捕えられた拓人の前へ悠然と歩み寄る。


「結界? 術? ――何の事だ? ……一体何の手品ですか、これっ!?」

「失礼ね、手品じゃないわ。タネも仕掛けも無い、れっきとした魔術よ」

「……魔術って……マジで、マジにっ!?」

「マジで、マジに」


 慌てる拓人の顔をくすくすと楽しげに眺めつつ、苺莉亜は悪戯っぽく言葉を繰り返した。


「秤音! これって一体、どういう事なのか説明してくれ!」

「……ごめん、麻宮君。仕方が無いの……」

「仕方が無いって、何がっ!?」

「急に呼び出した挙句、こんな騙し討ちみたいな真似をして悪いと思ってる。……でもこれもみんな、麻宮君に私達の仲間になって欲しいからで……」

「……仲間? ……仲間って、一体何の仲間だよっ?」

「《夜光》――世界の闇を統べる為に存在する、私達の組織よ」


 怯えた表情を浮かべる拓人へ、苺莉亜が朗々と告げていった。


「《夜光》……? 組織? ……闇を統べるって……何だよ、何の漫画の設定だよ……?」


 拓人は頭の中に大量の疑問符を浮かべ、神妙な表情を浮かべる闇朱を凝視する。


「麻宮君。信じられないかもしれないけど、これから話す事は本当の事なの。麻宮君にとっても、凄く重要な話。もしかしたら、命にだって関わるかもしれない」


 命に関わる話だと説明されて、拓人は更にうろたえた。

 しかし、身振り手振りで直向きな態度を表す闇朱を見て、拓人は少し心を動かされる。

 たった今騙されたばかりだというのに。これも演技かもしれないのに。

 闇朱の必死そうな顔が、拓人には嘘だと思えなかった。

 それに何より、信じられない現象が実際に我が身へ起きているではないか。

 どの道、逃げ出す事が叶わない状況なのだ。

 理由を説明してくれるなら教えて欲しいと、拓人は切実に思った。


「……分かった。その訳っていうのを話してくれ、秤音」

「――ありがとう! 麻宮君。……それじゃあ、まず《星魔》について話すから……」

「シーモア?」

「そう。星の魔と書いて、シーモア。悪魔とか、鬼とも呼ばれている存在の事だよ」


 ゆっくりと闇朱は語り始める。

 夕日の茜色を受ける入道雲が、徐々に鉛色を帯びて重く垂れ込んでいった。

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