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ダークシャウト  作者: 焔滴
終章
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柔らかい胸と熱い足裏

 サーグライと《聖血教会》、そして《夜光》を交えた激闘から二週間が経過していた。

 ひん曲がった道路や、一夜にして荒れ果てた山の惨状を、マスコミ達がこぞってスクープしていたのも今や過去の話。

 《聖血教会》と繋がりのある日本の政府機関が適当に理由を付けて、事件の真相は揉み消されていた。

もっともネット上では未だにオカルト好きな者達によって、清玄市で起きた事件について様々な憶測が飛び交い、議論が盛り上がっていたけれど。

 真黒川での出来事を記憶から消された法健などは、この事件を元にして新しい漫画作品を描こうと意気込んでいる位だった。

どうやら苛めのショックからは立ち直れたらしい。

 あの時に大怪我を負った狩谷達も、現在順調に快方へ向かっている。

 そして拓人はサーグライ討伐作戦以来、不思議な力は発現しなくなっていた。

 サーグライの意思を感じる事もなくなっていて、苺莉亜と義乃が言うには《星魔》の気配自体が身体から抜け切っているという事だ。

 闇朱と義乃と拓人で放った攻撃により、サーグライの精神は完全に滅びたと思われる。

 その結果を受けた日本政府と《聖血教会》は、拓人に対する警戒を緩める事を決定した。

 もっとも、それだけが理由ではない。

 これにはグエインの意思が深く関わっていた。

 あの作戦で拓人達の攻撃に巻き込まれたグエインは、打撲や火傷を負いながらも幸い命に別条なく済んでいた。

しかし一時的にとはいえ、サーグライに意識を奪われた事実がグエインの心に深い後悔の傷を残す事となる。


「《星魔》ごときに惑わされるなど……このグエイン、一生の不覚です」


 そう漏らしたグエインは騎士としての威厳を保つ為に、拓人達に取引を持ちかけた。

 要するに乗っ取られた事を口外しないという、口止めの提案。

 見返りは拓人や闇朱、苺莉亜に対しての警戒を緩める事と、義乃に対する恩赦だ。

 本来であれば重大な裏切り行為をした義乃は、《聖血教会》に処罰される立場にある。

 取引を受ければ義乃を庇う事が出来ると知って、拓人は一も二もなくグエインの提案に乗った。

そして闇朱や苺莉亜も、それに同意する形となったのである。

 やがて治療を終えたグエインとその部下達は、一週間前に欧州本部へ帰還していった。

 漸く拓人に穏やかな日常が戻ってきたのだ。


「ねぇねぇ拓人君、あっちの方にスペースがあるよ! 早くパラソル刺してさ、サクっと荷物置いて泳ぎに行こう!」

「待って。泳ぐ前にはちゃんと準備運動をしないと。秤音は何時も先走り過ぎる。少しは頭で考えてから行動する事を覚えたら?」

「はいはい、分かりましたよ。でも義乃の方こそ、少しは頭を柔らかくしたら? 考えてばかりの真面目ちゃんだと、人生の楽しみを半分は見逃す事になるんだからね」

「あは、あはははは……何か毎回、こんな展開になっているような……」


 燦々と降り注ぐ太陽の光を受けて、青い海と白い砂浜が拓人の目の前に広がっている。

 夏休みも中盤を迎え、海水浴場は大勢の客達で賑わっていた。

 そんな中、青いサーフトランクスを穿いてビーチパラソルを持った拓人の両脇を、闇朱と義乃の二人が寄り添い固めている。

 少女達の胸は自然と拓人の腕に当たり、それぞれ微妙に異なる感触を拓人へ味あわせていた。

 当然拓人の心臓は、どっくんどっくんと熱く大きく高鳴っている。

 砂浜に居る他の男達も、麗しい少女二人に熱い視線を。

 そして間に挟まれた拓人に対しては、羨望と怒気に満ちた視線を注いでいた。

 そんな周囲からの重圧を感じ、拓人は意識的に無視してビクビクと砂地を歩んでいく。

 闇朱は赤と黒の色使いが大人っぽくも可愛らしいビキニを纏い、はち切れそうな色香を漂わせていた。

 長い黒髪は二つに縛って、ツーサイドアップにしている。

 一方義乃は紺地に白のラインが入った競泳水着で、バランスのとれた肢体をぴっちりと浮かび上がらせている。

 そして後頭部で一つに結ばれたポニーテールは、黒ではなく本来の赤茶色をしていた。

 ――義乃はあの作戦以来、何か思う所があるのか、髪を黒く染める事をやめていた。

 その事が何だか嬉しくて、拓人は義乃の髪を見る度に微笑みを浮かべてしまう。


「……何を笑っているの? 麻宮」

「ん? ……いや、やっぱり似合ってるなって……その髪。ああ、でも地毛だから当然か。……じゃあ、えっと……綺麗だなって、思って」

「……あっ……、有難う」


 拓人へ問いかけた義乃が言葉に一瞬詰まり、戸惑いの表情を浮かべながら俯いて小さく礼を呟く。

 義乃の露わな耳元や項が、少しだけ赤く染まっていた。


「……むっ……」


 そんな義乃の仕草を見た闇朱は半眼となり、拓人の顔をじっと見上げる。


「……天然たらし」

「――えっ?」

「何でもないー」


 闇朱の呟きを聞き取れなかった拓人へ、少女はつんと恍けた顔を返していった。

 拓人は不思議そうに小首を傾けたが、何となく話題を変えようと少女二人へ話しかける。


「……あー、でもさ。義乃と闇朱は随分仲良くなったよな? こうして一緒に遊ぶなんて、ちょっと前までは考えられなかったし」

「何言ってるのよ。あたし達がこうして一緒に居るのも、拓人君の所為なんだからね?」

「――へっ?」


「そうよ、麻宮。《聖血教会》は麻宮に手を出さない事になったけど、《大星魔》の宿主だった事には変わりないんだから。……また何かの弾みでサーグライの力が覚醒するかもしれないし……私は監視役として、これからも出来るだけ傍に居続けるから」

「あたしだって苺莉亜さんにキツク言われてるんだから。万が一にも拓人君の力が甦るような事があったら、今度こそ頑張って《夜光》に引き込んでくれって。……それにあたしの事を沢山知って貰う為にも、夏休みは毎日付き合って貰わないとね?」

「――な、そんなっ……聞いてないぞ! 俺はっ?」


 二人の少女から告げられた言葉に、拓人は素っ頓狂な声を上げ、頬の筋肉をぴくぴくと引き攣らせた。


「だって今言ったんだもん。ね? 義乃」

「そうね。私も初めて言ったわ、秤音」


 お互いに名前を呼び合う二人の様子は、以前までの険悪な関係とは少し違っているように拓人は感じていた。

 それは非常に喜ばしい事なのだが、こんな時に連携されると女の子慣れしていない拓人はアワアワと格好悪く狼狽するばかりであって。


「ほら、そんな事より早く行かないと場所取られちゃう! 拓人君、走って走って!」

「えっ!? あ、いや、急に走ると危なっ……!」

「グズグズしない、麻宮。夏の浜辺は戦場なんだから」

「何の雑誌の見出しだよっ!? そのフレーズはぁっ!」


 夏のギラつく太陽のように、何やら熱く燃えている闇朱と義乃に腕を引かれる拓人。

 その胸板には薄らと、あのサーグライの印が未だ残っている。

 これから先、もしかしたらあの夜みたいな出来事がまた起きるのだろうか……正直そんな不安が、拓人の胸内には未だに燻っていた。

 でも今は、そんな不安を清々しく吹き飛ばしてくれる存在が傍に居てくれる。

 笑い声を上げる闇朱と義乃と一緒に、拓人は人々の活気に満ち溢れるビーチを駆けた。

 それだけで今日の青空のように、拓人は胸の奥が晴々とするように感じていく。

 流れ星が繋いだ不思議な縁は、凶事から転じて吉事となった。

 拓人は自然と満面の笑みを浮かべて、腕を引く闇朱と義乃を途中から追い越し、豪快に駆け出す。


「よし、闇朱ー! 義乃ー! 競争だ~!」

「あー! ずるい~! コラ、待てー!」

「卑怯よ、麻宮っ! 待ちなさーい!」


 はしゃぐ拓人を追いかけて、闇朱と義乃も勢いよく走り出した。

 三人の足跡がぱたぱたと砂地に刻まれて、同じ方向へと続いていく。


 明るい日差しに輝く少年少女達の夏は、まだ始まったばかりだった。

ダークシャウト、これにて完結です。

いかがだったでしょうか?

少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

ご感想など頂ければ、次回に生かしたいと思います。悦びます。

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