三人
精神をサーグライに刺激され、怒りで我を忘れたグエインは顔中を真っ赤にしながら攻撃を続けた。
その光景に気付いた苺莉亜が、素早くグエインへ駆け寄っていく。
「ちょっと! 落ち着きなさいよ筋肉バカ! もう彼は大丈夫だって言ってるでしょう!?」
「黙れ! 《夜光》の分際でぇ!」
「――きゃああぁぁっ!」
止めに入った苺莉亜に対し、放つ力の一部をぶつけるグエイン。
激しい衝撃を喰らい、苺莉亜は木々の密集する場所へ吹き飛ばされていった。
「――苺莉亜さああぁぁんっ! ……このっ……絶対、許さないっ!」
「くっ……グエイン卿の身体を使うとは、卑怯な事をっ……!」
闇朱は酷く消耗した身体に鞭を打って、必死に赤いプラズマ砲を放ち続ける。
義乃も巨大な黄金剣に亀裂が入り始めていたが、限界を超えて力を振り絞った。
「闇朱! 義乃! 俺も、俺も手伝う! ……力を、二人の力を貸してくれ!」
ボロボロになった黒い鎧を巡る青いラインが、拓人の強い言葉に呼応して煌々と輝きを増していった。
拓人の全身から、深みのあるサファイア色のオーラが湧き上がっていく。
「……拓人君……。――――分かった! あたし、やるよっ! 拓人君と一緒に!」
「聞くまでもない! ……私の全てを託す! だから存分にやって! 麻宮!」
「ありがとう! 二人とも! ……よぉぉっし、いっくぜええぇぇっ!!」
少女達の真っ直ぐな決意を受け取った瞬間、拓人は義乃と闇朱の間に踏み出し、両手を開いて前へ突き出す。
すると並んだ掌底の先から青い光が生まれ、その光が義乃の放つ金、闇朱が纏う赤と混ざり合った。
異なる力が一つに束ねられ、三色の新たな力が渦を巻く。
(な、なにっ……! オレの助けがなくても、力を扱えるだとぉッ……!?)
グエインの頭部を覆うサーグライの意識体が、予想外の出来事に困惑した。
砕けたバイザーに辛うじて浮かぶ青白い瞳を、大きく見開かせて驚愕している。
「サーグライィィィッ! これで、終わりだあぁぁぁっっ!!」
「やああぁぁっ!!」
「はああぁぁっ!!」
全身全霊をかけた雄叫びに乗せて、拓人が、闇朱が、義乃が三位一体となる。
少年と少女達の想いが一つに重なり、聖にも魔にも属さない膨大な力が『六翼一轟』を押し返し、轟音と共に呑み込んでいった。
「――――いっけええええぇぇぇぇっっ!!」
「な、――うおおおおぁぁっっ……!?」
(がああああぁぁぁぁっー!?)
とどめとばかりに三人の熱情は燃え上がり、その叫びが天へと響き渡る。
グエインとサーグライの兜が、拓人達が放つ光の大河にかき消されていった。
断末魔と呼ぶに相応しいサーグライの絶叫が、遠く遠く夜空の星々を震わせて……全ての光と音が消え去った後に、嘘のような静寂が戻ってくる。
「…………はぁ、……はぁっ、……か、はっ……」
全ての力を出し切った拓人は、荒い呼吸を繰り返し、双肩を激しく上下させる。
しゅううぅ、と身体から熱気が立ち上り、黒鎧が剥がれ砕け散った。
欠片は黒い霧となって夜の闇に溶け、消えてゆく。
不意に膝から力が抜けて、かくんと前のめりに傾く拓人の身体。
「――大丈夫っ?」
倒れると思った拓人の身体は、すかさず脇から闇朱に支えられた。
闇朱も既に魔人化は解けていて、乱れた髪を揺らしながら拓人に笑いかけている。
「……ああ、有難う……闇朱。……お陰で助かった」
「――礼を言う相手がもう一人居る事、忘れないで」
笑い返した拓人の脇を、闇朱とは反対側から義乃も支える。
澄ました顔で呟きながら、ちらりと上目遣いで拓人を見つめていた。
「あ、ああ、勿論だ。……義乃も、本当に有難う」
「ちょっと、アンタ図々しくない? 最初は拓人君を殺そうとしてたクセに」
「それはソッチも同じ事。自分だけ良い子ぶるのはやめたら?」
不意に闇朱と義乃が視線をぶつけ合い、バチバチと見えない火花を散らす。
間に挟まれた拓人は冷や汗を垂らしながら、乾いた笑い声を漏らしていった。
「あ、アハハハハ……。二人とも、俺は気にしてないからさ……喧嘩はよそう、な? さっきまでは仲が良かったじゃないか」
「じょーだんっ! 拓人君が危なかったから、仕方なく協力しただけだもん。じゃなきゃ誰がこんな無愛想女なんかと……」
「それはこっちの台詞よ。麻宮の事がなければ、お前みたいな泣き虫女と共闘なんて」
「ちょっと! 誰が泣き虫よっ! アンタだってぼろっぼろ泣いてたじゃない!」
「あれは涙じゃない。目から流れる汗だから」
一向に終わる気配のない少女二人の言い合いをステレオで聞かされて、拓人が弱々しく嘆息する。
美少女二人に支えられて幸せな状況の筈なのに、真ん中で困り顔を浮かべるばかりだった。
「……なーにやってんだか。……アレも青春かしらねぇ? ……甘酸っぱくて見てらんないわ、まったく」
騒がしい三人組の姿を眺めながら、魔人化を解いた苺莉亜が軽い溜息を漏らした。
どうやら大怪我はしないで済んだ様子で、木の幹に背中を預けながら呆れ顔をしている。
「も~二人共ぉ! 頼むから仲良くしてくれよ~!」
堪りかねた拓人が闇朱と義乃に懇願する。
その情けない声が吸い込まれていく夏の夜空で、無数の星達がまるで微笑んでいるかのように瞬きを繰り返していた。




