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ダークシャウト  作者: 焔滴
第四章
43/48

意地

「させないってのォッ!」


 危険を察知した苺莉亜がサーグライの脇から迫り、黒球が発射される寸前に掬い上げるような蹴りを顎先へヒットさせる。

サーグライは衝撃で跳ね飛ばされ、黒球は狙いを逸れて夜空に放たれた。上空で暴発した黒球が、巨大な轟音で山肌を震わせる。


「行きなさい!」


 間を置かずに苺莉亜が次なる行動に移る。

 指示を出された最後の蛇がサーグライの身体へ巻き付いて、とぐろの渦で締め上げた。


「今よっ! 全員で攻撃!」

「言われなくてもっ! 灼光閃羽っっ!」

「――――ごめんなさいっ……! 拓人君……!」


 黄金の光が大蛇ごとサーグライを包み込み、特大の赤いプラズマがその中心を貫いた。

 最後に苺莉亜が指を鳴らすと、大蛇の身体が黒く膨れ上がり、弾けて大爆発を起こす。

 黒煙が爆風と一緒に立ち上り、赤く焼けた大地に大きなクレーターが出来上がっていた。


「はぁ、はぁ……」


 渾身の攻撃を放った三人は、荒い呼吸を繰り返す。

これだけの攻撃だ。無事で済む筈がない。

三人はそう考えつつも、これで終わりだとは誰一人思っていなかった。


「ク、クフッ! ……クハハハハハッ!」


 爆発の中心から甲高い笑い声が生まれた瞬間、三人はびくりと身体を震わせた。

 煙の中から一歩ずつ大地を踏み締めて現れたサーグライは、全身の外甲に亀裂を走らせ、あちこちを欠けさせている。なのに腹を両手で抱え、心底可笑しそうに笑っているのだ。


「もっとだ! もっと楽しい事しようゼ! ……これで終わりなんかじゃないよなぁ?」


 サーグライは痛みなど感じていないように、もっともっとと闘争を求める。

 頭部の角が更に長く伸びて、悪魔の如き形相が更に威容を増していった。

 そして赤く輝く口をニタリと開いて、サーグライは僅かに前傾する。

 刹那、甲高く耳障りな音が周囲へ撒き散らされていった。


「いっ――やあぁぁっ!」

「くっ……何よ、コレぇっ……!」

「かはっ……頭が、身体……がっ……?」


 闇朱、苺莉亜、義乃の三人が、一斉に頭と身体を抑え込んで苦しみに喘ぎ出した。

魔力を帯びた音波がサーグライより発せられ、周囲の小石や木の葉もピシリと弾け飛んでいく。


「どうだぁ? 俺の麗しい歌声は? シビれて堪らねぇだろうッ?」


 苦しむ闇朱達が、両膝を地面に突いて脂汗を額に浮かせた。

するとサーグライは両腕に纏わせた紫のオーラを素早く伸ばして、義乃と闇朱の身体を鷲掴みにした。


「なっ――!?」

「きゃあぁっ!?」


 がっしりと巨大なオーラの手に掴まれた二人が、サーグライの元へ引き寄せられる。

 両腕の自由が利かない上に、やまない音波に苦しめられて抵抗が一切できない状態だ。


「さぁて、捕まえたぞメス餓鬼共。細い身体だなぁ? 簡単に握り潰せるぜ」

「ぐっ……アァ! お前、なんで、喋りながら音波を出せるッ……?」

「はっはっは! このスペシャルな音は口から出してる訳じゃないからなぁ!」


 下品な調子で笑いながら、サーグライは更に音波を強めた。

 全身の細胞が痺れて弾けそうな感覚を与えられ、少女二人は絶叫を上げる。


「さて、色々やってくれた礼だ。……ぐちゃっと良い音を鳴らしてくれよ?」


 サーグライが残酷な笑みをバイザーに浮かべた瞬間、闇朱と義乃の身体へギリギリと紫のオーラが食い込んでいく。

柔肌が潰れ、骨が軋む。

 痛みによって二人の瞳には生理的な涙が浮かび、視界が朧に揺れていった。


「――――ウァッ……!?」


 少女二人が死を間近に感じたその時、突然サーグライが石のように動きを固める。

 オーラの手から力が緩んで隙間が生まれ、少女達の身体もするりと抜け落ちていった。


「……な、なに……?」

「音が……消えた……?」


 全身を蝕んでいた凶悪な音波も消え去り、義乃と闇朱は呆然とする。

 一方で立ち尽くすサーグライの身体に異変が起きた。

縦に裂けた額の瞳が閉じ始め、赤く変色していた部分が元の深い青色に戻っていく。


「……っぐ、グオオオオァアアッ!」


 青白く吊り上がった双眸を点滅させて、悶え苦しむサーグライが頭を抱える。

 あらゆる攻撃を受けても、ここまで苦しんだ所は見せなかった敵の姿に、義乃と闇朱は後退りながらも思わず見入ってしまっていた。


「オ、オマエッ……! なんで、オマエがっ……!」


 困惑の叫びを上げるサーグライのバイザーが、徐々に兜の方へ持ち上がり始めた。

 顔の前面を覆っていた闇色が、硝子の削れるような音と一緒に半分以上が解放される。


「……やらせないっ……二人を殺すなんて、絶対に……させないっ……!」

「――麻宮っ!?」

「――拓人君!?」


 バイザーの隙間から覗く唇が、苦しげに喘ぎながら言葉を紡ぐ。

その声を聞いた瞬間に、義乃と闇朱は瞳を大きく見開いて、同時に声の主――拓人の名前を叫んでいた。


「麻宮、大丈夫なのっ!?」

「拓人君! 拓人君っ! 本当に拓人くん……なんだよねっ!?」


 サーグライの顔は今や消え去り、バイザーは拓人の目元を覆うだけとなっていた。

 一日しか離れていなかったのに、闇朱はもう何年も会っていなかったような表情で涙を浮かべる。

 義乃はそれまで纏っていた緊張感が解け、年相応の幼い顔で拓人の身を案じていった。


「く、来るなッ……! ダメだ、二人ともっ……まだ、サーグライはっ……!」


 拓人はズキズキと痛む頭を押さえながら、近付く二人を強く制した。

 目元まで後退していたバイザーが、再びジワジワと面積を広げ始めている。

 サーグライが再び、拓人の身体を乗っ取ろうとしている様子だ。


「驚きましたね……まだ人としての意識が残っていたとは……」


 これまで攻撃の準備を続けていたグエインが、感嘆の息を低く漏らす。

 しっかりと力を溜めて練り上げた巨大な金輪は、周囲から六枚の金翼を生やして神々しい輝きを放ち始めていた。

炎と雷が融合したような揺らめきと放電で表面を震わせ、力が解放される時を待ちかねているように。


「しかしこれは絶好のチャンス。――義乃! 術は成りました。そいつから離れなさい!」


 高々と飛ばされる指示を聞き、義乃はハッとグエインを振り返る。

 しかし顔に戸惑いの色を一杯に浮かべて、身動きが取れないでいた。


「待って下さい! グエイン卿! 麻宮はまだっ……!」

「サーグライの意識が抑え込まれている今がチャンスです! 元々貴女も彼を倒す覚悟でここへ来た筈でしょう!? 今更臆したのですか!」

「それはっ……!」


 グエインの鋭い叱責を受けて、義乃はくっと唇を噛み締め口を噤んだ。

 黄金剣の柄を強く握り締めた指先が、白く血の気を失っていく。


「アッ、……早く逃げろっ……! 闇朱、義乃! も、ダメ……だっ……!」

「拓人君!? 駄目だよ! こんなのあたし、やっぱりイヤ……!」


 サーグライの強い支配力に押されて、バイザーは再び顔の三分の二までを覆ってしまう。

 青白い双眸が復活し、禍々しい紫のオーラが黒鎧から滲み始めた。

 それでも泣き叫ぶ闇朱は、拓人の肩にぎゅっとしがみ付いて離れようとしない。

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