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ダークシャウト  作者: 焔滴
第四章
42/48

協定

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作品に生かしたいと思います。

 続く義乃の攻撃から逃れ、空中へ飛翔したサーグライは声のした方を振り返る。

 そこには青紫の鱗鎧に身を包み込んだ苺莉亜と、黒と赤に彩られし闇朱二人の姿があった。

 両者とも既に魔人化形態になっており、溢れる魔力が周囲の空間を戦慄かせている。


「闇朱、いくわよ。覚悟は良いわね」

「……ハイ、苺莉亜さん」


 苺莉亜の真剣な声に、闇朱が鋭く表情を引き締めた。闇朱は背中の羽で強く空気を打ち付けると、一気に空へ上昇する。

 両手に赤いプラズマを生み出して、一つ二つとサーグライに向かって発射していった。


「テメェら! 何でここに居やがるっ? 敵同士だろうが、お前達は!」


 サーグライは疑問を叫びながら、飛来する赤い光線を手甲で弾き散らした。

 そして一気に闇朱へ飛びかかり、爪撃を見舞おうとする。

 しかしそこへ突如として巨大な物体が現れ、サーグライの脇腹へ衝突した。


「――ッグ、オォォォッ!?」


 視界がグルンと回転する中、サーグライは地上へ叩き落とされる。


「……ガァ、……なんだ、こいつはっ……!」


 衝撃で窪む大地に沈みながら、サーグライは己を襲った物体の正体を知る。

 爛々と黄色く光る二つの双眸に、開けば二メートルはありそうな獰猛な口。

 赤黒い鱗にびっしりと覆われた大蛇が、サーグライの頭上で鎌首を持ち上げていたのだ。


「そうビュンビュン飛び回らないでよ。……さぁ、やりなさい」


 サーグライを悠然と見下ろす苺莉亜が、そっと隣に居る大蛇の肌を撫でた。

 すると主に促された大蛇は即座にサーグライへと襲いかかり、牙の生えた口で外甲の胴体部に噛み付いていった。


「ご、おぉォォッ!」


 みしみしと身体が軋む音色を響かせて、サーグライが苦悶の声を上げる。

 大蛇は苺莉亜から少し離れた場所にあるリングから出現していた。

 それは通常よりも大きくなった魔の光背で、大蛇召喚の媒体となっている様子だった。


「なに、簡単な話ですよ。我々は世に害を成すアナタを滅ぼしたい。そして……」

「私達は世界の《星魔》バランスを大きく崩すだろうアンタの存在を見過ごせない」


 捕らわれたサーグライへ歩み寄ってきたグエインの声に、苺莉亜が続けて言葉を紡ぐ。


「なるほど……利害の一致って訳か。その為には敵も利用する……嫌いじゃないぜ、そういう打算はよぉ?」


 不敵な笑みを浮かべてサーグライが零すと、苺莉亜が片眉を跳ね上げて大蛇に触れた。

 途端に大蛇の噛み付く力が強まって、黒い外甲がビキビキと悲鳴を上げる。


「が、はぁぁっ……!」

「口のきき方に気をつけなさい。私だって、出来れば共闘なんてしたくなかったんだから。でもアンタに対抗する良い案が無くてね。《夜光》としても、乗らざるを得なかったのよ」


 不服そうに唇を尖らせて、髪先を弄る苺莉亜が嫌そうにグエインを横目で見つめる。


「ははは、それは私達としても同じ事です。本来ならば同じ場所の空気を吸うのも汚らわしいですが、背に腹は代えられません」

「ハァッ!? うざっ! ホントむかつく奴だわ、《聖血教会》の連中って。そもそも私達に作戦を提案してきた時だって……」

「さて義乃、そろそろ仕上げとしましょう。……私が力を溜めている間、頼みますよ」

「はい、グエイン卿」


 怒りに顔を真っ赤にした苺莉亜を無視して、グエインが義乃に何かを促す。

 すると義乃は黄金の剣を地面に突き立てて、両手で印を結び始めた。


「天と地と聖なる血族の定めにより、今ここに悪しき者へ滅びの戒めを与えん事を」


 聖句を唱える義乃の足元に、金色の四角い方陣が浮かび上がる。枠の中には鳥や木々を模った神秘的なマークが現れて、サーグライを中心に展開していった。


「ぬっ……捕縛陣か? ……だがこの程度、破るのは簡単だぜ」


 余裕の笑みでサーグライが双眸を細めると、周囲に黒球が数個出現する。

 方陣の上を高速で飛び回り、魔力の衝撃波を生んで義乃の術をかき消そうとした。


「甘いですね」


 落ち着いた表情でグエインが呟くと、突然夜だというのに昼間のような明るさで大地が黄金色に輝き始めた。

 義乃が展開した方陣の更に外側、数キロ四方に及ぶ広さで捕縛陣が展開されていく。

 その猛烈な圧力により黒球は一瞬で霧散して、サーグライの外甲にヒビが入った。


「――が、ぁ! ……何だ……と?」

「如何ですか? 我らが『聖血教会』が作り上げる特製捕縛陣の出来は? 数千の《星魔》を纏めて捕える程の力を、アナタ一人だけに集中しているのです。抗っても無駄ですよ」


 山中に配備されたグエインの直属部隊が、それぞれに力を振り絞って義乃の術を高度に強化していた。

サーグライは大蛇の顎に挟まれたまま、身を焼く聖光に身悶えていく。


「はっは……成る程。舐めていたのは俺の方だったって訳か……。ぐ、くぅっ……」

「万難を排して確実に事を成すのが私のやり方でね。……最後は私の最高法術で終わりにしてあげましょう」


 宣言するグエインの前に、再び金杖から光輪が出現する。

 今度は一つ、二つ、三つ……合わせて六つと増えていき、それぞれの輪が丸く並んだ。


「六輪あらわし天の威光。いと高き翼、勇壮なる爪、悪しき蛇を悉く滅ぼす者ならん」


 朗々と歌うように紡がれるグエインの詠唱に従い、六つの輪が燃え盛る火の輪の如く金色のオーラを立ち上らせる。

 そして円状に並ぶ六輪が揃って右回転を始め、徐々に速度を増していった。


「……ンンッ……それは、ちとヤバそうだな……。――アッアッアッアッ! ああ、好いぞ! 面白い! ならば俺も本気を見せてやろう! 人間どもっ!」


 大気を振動させるグエインの力の気配を目の当たりにして、サーグライが耳障りな笑い声を上げる。

 同時にバイザーの額部分に、新しい光の瞳が浮かび上がった。

 三つの瞳と裂けた大口が、青白色からルビーのように赤く変色し、外甲を巡っていた青いラインも同じように妖しく不穏な赤い輝きに満ちていく。


「オラァッ! いつまで纏わり付いてやがるッ!」


 サーグライは怒声を上げて大蛇の口に掴みかかると、大きな顎を上下に押し戻し始めた。

 己よりも遙かに小さいサーグライの力に圧倒されて、大蛇が驚愕に悲鳴を上げる。

 ――次の瞬間、巨大な蛇は頭から真っ二つに引き裂かれていった。


「――な、何ですって……!?」

「そんなっ! この捕縛陣の中で動けるなんて……!」


 苺莉亜と義乃は戦慄し、互いに冷たい汗を流す。

 方陣の力は発動し続けていて、確実にサーグライの身体にダメージを与え続けている。

 だが聖光に焼かれる全身から白煙を立ち上らせているというのに、サーグライは一向に怯む事無く両手に黒球を生み出していった。


「馬鹿な……あり得ません。 義乃! それと《夜光》の者よ! 私の術は完成までもう少しかかります! 何とか時間を稼ぎなさい!」


 グエインが表情に焦りの色を滲ませて、大声で叫んだ。

 ゆっくりだった六輪の回転は徐々に速くなり、今や光が生み出す軌跡が一つの巨大な円環を浮かび上がらせている。


「ったく、人使いが荒いわね! 闇朱、やるわよっ!」

「……苺莉亜さん、あたしやっぱり、拓人君を殺すなんてっ……」


 両手の赤い爪を鋭く伸ばして構える苺莉亜に、闇朱が瞳を潤ませて悲痛な表情を浮かべた。

 ぎゅっと苺莉亜の腕に縋り付いて、闇朱は何とか留めようとしている。


「闇朱……その事については、ホリブラからの作戦を受けた際に話はつけた筈よ。……嫌なら参加しなくて構わなかったのに、貴女はここまで付いて来たのよね?」

「それはっ……!」

「言い訳は聞かないわ。完全に覚醒した以上、アイツは何としても倒さなくちゃいけない。それが世界のバランスを保つ、私達《夜光》の使命よ。覚悟が無いなら引っ込んでなさい!」

「苺莉亜さんっ!」


 闇朱の腕を厳しく振り払い、苺莉亜は再び大蛇を召喚した。

 しかも今度は先端で頭が分かれた、三つ頭の大蛇だ。

 苺莉亜は真ん中の蛇頭に乗り、サーグライへ襲いかかっていく。

 方陣を発動させた義乃も素早く剣を引き抜いて、苺莉亜の逆側から鯨皇へ迫った。


「少年! こんな事になって残念だわ! せめて楽に逝かせてあげるっ!」

「大人しく滅ぼされろ、サーグライ! これ以上、……私の手を煩わせるなぁっ!」


 女達の叫びを受けながら、サーグライは両腕を交差させて黒球を発射する。

 義乃は慌てずに上段から剣を振り下ろし、黒球を二つに叩き割った。

 後方へ流れた黒い欠片が、地面に激突して爆発する。

 一方苺莉亜の大蛇は黒球をまともに受けてしまい、右端の蛇頭が爆散した。


「高まれ高まれ! 俺をもっと楽しませろぉ!」


 苺莉亜と義乃の動きが一瞬止まった隙を狙い、サーグライは高く跳躍した。

 空中で縦に一回転し、勢いの乗った踵落としで苺莉亜を狙う。


「――っ、こんのぉっ!」


 攻撃に気付いた苺莉亜はヒットする直前に後方へ飛び退り、サーグライの胸元へ赤い爪撃を放つ。

 それをサーグライはオーラの爪で軽く受け流す。

 重々しく凶悪な踵落としは、避けた苺莉亜の代わりに大蛇の頭蓋を叩き潰していった。

 蛇は気味の悪い絶叫を上げて、身体を大きく波打たせて悶える。


「お前の存在は人を! 世界を不幸にする! さっさと倒されろぉっ!」


 すかさず義乃は着地したサーグライへ鋭く横薙ぎの一閃を振るうが、しなやかに身を捩る鯨皇の蹴りに刀身の脇腹を弾き飛ばされてしまった。

 その衝撃で体勢を崩した義乃へ、サーグライが紫の拳を振り下ろす。


「だめぇッ!」


 一瞬死を覚悟した義乃の眼前に、高速で飛来した多数の黒片が盾の如く展開した。

 黒片はサーグライの殴撃を受け止めた瞬間、鼓膜が痺れるような音を響かせて砕けていき。


「お前……。なんで、私を助けっ……?」

「馬鹿! 今は敵とか味方とか関係ないでしょ! それより油断しないで!」


 意外そうに目を開いた義乃の言葉に、闇朱が黒片を操作しながら注意を呼びかける。

 サーグライは既に新しい黒球を生み出していた。

 それは最初に山肌を大きく破壊した物と同じ位のサイズであり、参戦した闇朱に狙いが定められている。

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