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ダークシャウト  作者: 焔滴
第四章
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光明

 新たに場面が変わった時、義乃は高校生になっていた。

 《聖血教会》に所属した事により、《舞い手》として清玄市の治安を担当する事になる。

 《舞い手》の修行時代から優秀な成績を納めていた義乃は、すぐに頭角を現していった。

 花菱学園の学生寮で暮らしながら、《星魔》との戦いに明け暮れる日々が流れる。

 不気味な姿を模った《星魔》の群れを、義乃は黄金の剣で次々と切り裂いていた。


「滅べ! 滅びろ! お前達などみんな、いなくなってしまえ!」


 迷いのない鋭き刃で胸を突き、腕を斬り飛ばし、腹を薙ぐ。

 今まで義乃が倒してきた《星魔》達が次々と現れる中、少女は怯む事無く立ち向かった。


(オオオオ! マブシイ! アツイ! イタイィィ!)

(ミノガシテクレ! タスケテクレェエ!)

(グアァ! ギャアアァァァアッ!)


 怯えて許しを請う《星魔》達を、容赦なく斬り伏せて風のように駆け抜ける義乃。

 その口元には笑みが浮かび、瞳は怒りに燃えていた。


「お前達のような存在の所為で、世界は不条理と悪で満ち溢れている! お前達さえいなければ、世界はもっと私に優しくなるんだっ!」


 義乃は大地を蹴り、宙を舞い、飛来する鳥型《星魔》の翼を切り落とす。


 「滅びろ! 消え去れっ! お前達が居なくなった世界で、私は幸せになるんだあぁっ!」


 義乃は心の底から声を響かせ、一際大きい《星魔》を頭から一刀両断にした。

 重々しい音を立てて崩れ落ちる闇の巨体を最後に、辺りはシンと静まりかえる。


「はぁ、はぁ、……ハッ……」


 乱れた呼吸を繰り返す義乃の足元に、《星魔》達の残骸が黒く広がっている。

 義乃の身体も黒い液体でべっとりと汚れ、地面へ滴り落ちていく。

 すると足元に出来た黒い水溜りから、不意に何本もの手が伸びてきて、義乃の身体へ掴みかかった。

 義乃は咄嗟に振り払おうとしたが、余りに大量の手に間に合わず拘束されてしまう。


「くっ……ぁあ、離せ! はなっ……せぇっ……!」


 深い闇に捕らわれて、身体の自由を奪われていく恐怖に義乃は絶叫する。

 足首に太腿、腕に首。

 爪の生えた醜悪な魔手に引きずられ、口元や頭、鼻までも抑え込まれた。

 黄金の剣は手から離れ、完全に義乃は闇の中へ沈んでしまう。

 音も光もない、完全な黒一色。

 息苦しさに狂いそうになりながら、義乃は必死に助けを求めていった。


「助けて……! 誰か、だれかっ……! 私を、助けてっ……!」


 喉をひりつかせて搾り出した声。暗い水底でもがくように、義乃は四肢を振り回す。

 しかし段々と意識が遠くなってきて、自分の存在が曖昧になっていく。

 ――これで終わりだ。

 そう覚悟した義乃の腕を、不意に誰かの手が強く掴んだ。

 《星魔》のモノではない、温かい感触。

 それに強く引っ張り上げられたと思った瞬間、義乃の目の前が一気に明るくなる。

 眩さに細めた瞳の中に、穏やかに笑う拓人の顔があった。


「大丈夫か? 義乃」

「……あさ、みや……」


 驚きで目を丸くする義乃を暗闇から引き上げ、拓人はそっと少女の頭を撫でる。

 黒髪は何故か、本来の赤茶色の地毛に戻っていた。


「そうカッカするなって。……ほら、これでさ、もふもふっと癒されてくれよ」


 微笑みながら拓人は、ウサギのぬいぐるみを義乃に手渡す。

 それは小さい頃に別れた筈の、ロップ君だった。

 不意に義乃の脳裏に、拓人と初めて出逢った廊下での出来事が思い出される。


 軽々と荷物を運び、自分を落下する備品から庇ってくれた逞しい身体。

 神社での戦い。皆の争いを止めようと必死になる拓人の姿。

 屋敷での言い争い。真正面から自分を見据えて、懸命に話を聞いてくれた事。

 夏祭り。賑やかな雰囲気の中、プレゼントされたロップ君との驚きの再会。

 花火に彩られた夜空の下で、懸命に友人を救おうと奮闘した、魂の叫び。


 思い出の場面はそれぞれが義乃の脳内で大きな点となり、点は駆け抜ける雷のような光で瞬時に繋がれていく。


「――麻宮! 私はっ……!」


 怒りや恐怖に満ちていた義乃の瞳に、刹那澄んだ光が宿った。

 それを見た拓人は満足そうに笑い、少しずつ光の中へ溶けるように消えていく。


「待って! 麻宮! 私はお前をっ……!」


 追い縋ろうと駆け出して、義乃は必死に手を伸ばす。

 そしてもう少しで拓人の手に届くといった所で、世界の全ては消滅した。


「あさみやーっ!!」


 はっと義乃が気付いた時、視界には部屋の天井と、そこへ伸ばされる己の手が映り込んでいた。

 自分の叫び声で目が覚めたらしい。浴衣には寝汗がびっしょりと染み込んでいた。


「……夢……っ」


 ぽつりと義乃が呟き、宙をかいた手を静かに下ろした。

 何気なく脇へ視線を移すと、畳の上に愛らしいウサギのぬいぐるみが、ちょこりと置かれていた。

 義乃は上体を起こすと、ぎゅっと胸元にそのロップ君を抱き締めていく。


「…………私は……」


 形の良い眉を困惑で歪めながら、義乃は夢の中の台詞をもう一度噛み締めていた。

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