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ダークシャウト  作者: 焔滴
第三章
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浸食

「凄い……。まさか、そんな……融合化を解いちゃうなんて……!」

「《星魔》を食った……? ……そんな力、聞いた事もない……」


 一部始終を地上から見守っていた闇朱と義乃が、それぞれ信じられないといった顔で感嘆の溜息を漏らす。

 同時に二人を拘束していた粘液が、ぱしゃんと弾けて消え去った。


「……拓人君、やった……。やったね……。拓人君の気持ちが、吉田君に届いたんだ……」


 のそのそと闇朱は立ち上がり、胸元を押さえながら瞳に薄らと涙を浮かべた。

 《星魔》から解き放たれた法健は気を失ってしまい、拓人が片腕に抱え込んで支えた。

 黒紫のフィールドも今は消えて、変形していた兜も拓人の頭部を覆うように戻っていく。


「ふ、……はぁ……あっ……」


 拓人は荒い呼吸で肩を上下させながら、ゆっくりと空から降りてきた。

 法健をそっと地面に横たわらせると、緊張が解けた所為で全身から力が抜ける。


「――拓人君! 大丈夫っ?」

「あ、んじゅ……。……ああ、大丈夫、だ……」


 慌てて駆け付けた闇朱が倒れ込みそうな拓人の脇を支え、心配そうな顔で問いかけた。

 拓人はへらっと力の抜けた表情で微笑み、そして何かを思いついたように顔を上げて。


「そうだ、――義乃! 狩谷を、狩谷を治癒してやってくれ!」

「――もうやってる」


 義乃の姿を探して拓人が首を巡らせると、既に義乃は法具を拾い、狩谷を地面へ寝かせて治癒術を施している所だった。


「ああ、良かった……。……サンキュな、義乃……」

「これも《聖血教会》の務めだから。……怪我は酷いけど、これなら命に別条は無くて済みそう」


 淡い黄金色の光を狩谷へ浴びせながら、義乃が穏やかな声で呟いた。

 ほぉ……と安堵の溜息を拓人は漏らし、今度こそ心からの笑みを浮かべる。


「良かった。……本当に良かった」

「……こんな奴、どうでもいいんじゃなかったの?」


 緩やかに息を吐く拓人へ、少し意地悪な質問を義乃が投げかけた。

 それを受けた拓人は苦笑を浮かべ、横たわる狩谷の姿を静かに見つめた。


「あはっ……聞こえてたか。……例え《星魔》の所為だって言っても、狩谷に死なれたらヨッシーが人殺しになっちまうだろ? ……それに、そんな奴でもさ。……やっぱり死なれたら、後味悪いじゃんか……」


 兜越しに自分の後頭部を撫でながら、しみじみと拓人が呟いた。

 その答えを聞いた義乃は、暫く不思議そうに拓人の顔を見つめていて。


「……ふっ……そう。……おかしいね、麻宮は」


 小さな呟きと共に、ほんのりと花が綻ぶような笑みを義乃が浮かべた。

 その笑顔に思わず、拓人はどきりと胸を高鳴らせていく。


「ああ、でもヨッシーや狩谷達……今日の事、なんて思うかな……」


 これだけの事件があったのだ。

 トラウマになったりしないだろうかと、拓人は不安そうに眉を潜める。


「それなら心配はいらない。治癒術をかけると共に、記憶を少し細工しているから。今日の事は忘れるわ、皆。……こっちの治療が終わった後、麻宮の友達にも私が施しておく」

「えええっ!? そんな事が出来るのかっ?」

「出来る。《聖血教会》を舐めちゃ駄目」

「はあ……凄いな、ホリブラ。……でもまぁ、助かる。ホントありがとな、義乃」


 心の底から感謝の意を表して、拓人が義乃へ笑いかけた。

 その様子を傍らで見つめながら、闇朱が少しだけ面白くなさそうに唇を尖らせる。

 それに気付いたのか気付かなかったのか、タクトは闇朱の顔を見つめ。


「闇朱も、ありがとう。……何度も俺を助けようと、ヨッシーに呼びかけてくれたよな」

「えっ? ……あ、ううん、……あたしは結局、何の役にも立てなかったし……」

「そんな事無い。お前がここまで運んでくれなかったら、手遅れになっていたかもしれない。……戦いにも慣れてないのに、一生懸命頑張ってくれた。……本当に、ありがとう」

「拓人君……。うん、何か照れるけど……どういたしまして」


 ほんのりと頬に赤色を浮かべ、闇朱がはにかみ笑いを浮かべた。


 ――ドオォン、ドドォ……ン。


 空を彩り、多くの人々を楽しませた花火もそろそろ終盤だ。

 その光を見上げる拓人達の顔も、何処か晴れ晴れとして清々しい。


「祭……終わっちまうな。……ちょっと、寂しいかも」

「そうだね……。でもさ、夏はまだ始まったばかりだもん。これから色んなイベント、また楽しめばいいんだよ」

「そっか……そうだな」

「うん、そうだよ……」


 拓人と闇朱は互いに顔を見合わせて、穏やかに言葉を交わし合う。

 自然と暖かで擽ったい、不思議な雰囲気が二人の間で漂い始めた。


 ――キイイィィィンッ!


「――っが、あぁああっ!?」


 突然頭の芯から鋭い痺れを感じ、拓人は甲高い耳鳴りに鼓膜を侵される。


「――、拓人君っ? どうしたのっ? 大丈夫っ?」


 急に様子がおかしくなった姿を案じて、闇朱が慌てて拓人の顔を覗き込んだ。すると目の部分を覆っていたバイザーがどろりと形を歪め、顔を完全に覆い尽くしてしまう。


「う、うあっ……ああああぁぁっ!」

「拓人君!? 拓人君っ! 大丈夫っ? しっかりしてっ!」

「何っ? 一体どうしたのっ!?」


 狩谷の治療を終えた義乃が異変を察知し、慌てて闇朱達の元へ駆け寄る。

 拓人の顔を覆い尽くした半透明のバイザーは、今や真っ黒に染まっていた。

 そして目と口の部分が青白く光り始める。

 凶悪な目つきに、大きく裂けた口。それは悪魔を思わせる形相だった。


「は、ハハハハハッ! キタキタ、これだ、この感覚ッ!」


 いきなりバイザー越しに歓喜の大声が響き渡り、闇朱は驚きで目を見開いた。

 至近距離で聞いた男の声は、明らかに自分の知る拓人の声とは違うものだから。


「――っ!? ……拓人くんっ……? ……え、今の声……はっ……?」

「――離れろっ! それは麻宮じゃないっ!」


 呆然としている闇朱に鋭く声をかけながら、義乃が黄金剣を創造し『拓人の姿をした何か』へ斬りかかっていった。


「うおぉっとぉ! アブねぇっ!」


 肩口の辺りを狙った義乃の剣を、男は片手であっさりと掴み受け止める。


「こんなモン振り回すんじゃねーよ、餓鬼がっ!」


 男は乱暴に言葉を吐き捨てると同時に、バキンッ、と黄金剣を握り砕いていった。


「なっ――!? そんなっ……!?」


 義乃は双眸も口も大きく開いて、驚愕に立ち尽くす。

 黄金の光は火花のように夜闇へ消えて、真ん中から折れた竹刀の残骸が地面へ転がった。


「……さーて、無事に宿主様の身体も頂けた事だし? これで自由に動けるってもんだぜ」


 男はバイザーに浮かぶ青白い口を、三日月のように吊り上げる。


「ちょっと、何よ……。――アンタ! 拓人君は、拓人君はどうしたのよっ!?」


 つい先程まで拓人だった存在が、全く別の存在へ生まれ変わってしまった事を悟る闇朱。

 恐怖と不安に掠れた声を漏らしながら、黒鎧の男へ詰め寄った。


「完全に覚醒したって言うのッ? そんな! それじゃあ拓人君はっ……」

「あーあー、煩ェ煩ェ。拓人拓人って騒ぐなよ。……俺はサーグライだっ」

「――きゃあっ!?」


 絶望的な名乗りを耳にした瞬間、闇朱は男に突き飛ばされ、あえなく地面に倒れ込んだ。

 サーグライはふわりと宙へ浮かび、丸い月をバックにして心地良さそうに黒い両腕を伸ばしていく。


「んんんんっ……! サイッコーの気分だぜ。さて、それじゃあ俺は遊ぶのに忙しいから、これで失礼するわ。……あばよ、よくさえずるお嬢ちゃん達」

「ま、待って! 待ちなさい! ――拓人くーんっ!!」


 青いマントを大きく翻し、サーグライは夜の闇へ沈むように消えていく。

 追い縋ろうとする闇朱の声が空しく響き渡り、折れた竹刀の柄を握り締めたままの義乃が、地面に膝を落としていった。

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