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ダークシャウト  作者: 焔滴
第二章
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穏やかな時と、崩壊の兆し

闇朱から昔の話を聞かされた拓人は、驚きと感動で目頭を少し熱くさせる。

 大切な思い出を語る闇朱の瞳も、何処か少し潤んでいるように感じられた。


「……そんな事があったんだ……あの苺莉亜さんが、ね……」

「ふふっ、意外? 苺莉亜さんはね、凄く()い人なんだよ。ちょっと強引な所があったり、気分屋だったりする所もあるけど」

「そうだなぁ。……流石は大人の女って事か」

「え、なに? ……それ、褒めてるの?」


「勿論! ……伊達に年取ってないよなーって思う」

「バカ! それ言ったら苺莉亜さん、絶対怒るからねっ?」

「えっ? やべっ。これ、内緒にしててくれよな?」

「もうー、仕方ないなぁ」


 軽妙に言葉を交わし合う拓人と闇朱が、お互いに明るく笑い声を漏らす。


「悪い心があってもいいんだって……苺莉亜さんは認めてくれたの。辛さを吐き出す場所を失くしていたあたしに、苺莉亜さんの優しさは救いだった。……だからあたしは、《夜光》に入ったんだよ」

「うん……よく分かったよ。苺莉亜さんに感謝だな、俺も」

「えっ? どうして?」


「……闇朱の事、救ってくれたから。だから俺はお前と出会えて、こうして一緒の時間を楽しく過ごす事が出来る訳だし……」

「…………、拓人くん……」


 穏やかに紡がれた拓人の言葉に、闇朱は熱く掠れた吐息を唇から漏らした。

 豊かな胸の奥で心臓が騒ぎ、かぁっと闇朱の頬が火照ってゆく。

 そんな闇朱の反応に、拓人も甘く高らかに心音を鳴り響かせる。

 自然とお互いを見つめ合う視線が絡まり合って、二人はじっと見つめ合った。


 ――――ヴヴヴ、ヴヴヴ。


 そんな時に突然、拓人の携帯電話が軽快な音楽と共に振動を始める。


「……あっ、アラームが鳴ってる。……そろそろヨッシーと合流しないと」


 拓人がディスプレイを確認すると、法健との約束に合わせて設定した時刻が表示されていた。

 少年は慌てて立ち上がり、少し迷ってから闇朱へ手を伸ばしていく。

 闇朱は自分と違う大きな手の逞しさに、一瞬見蕩れた。

 そしてやや緊張した動きで、自分の手を拓人の手へ重ねていく。

 きゅっと掴まれて、少年に引っ張り上げられる身体は羽根のように浮き上がった。


「ありがと……」

「いやいや。それじゃあ、行こうか」


 暗緑色の目に映り込んだ拓人の顔も、何処か少し緊張している様子だ。

 そそくさと離されかけた拓人の手を、闇朱はきゅっと縋るように握り返していった。


「……はぐれると、イヤだし……。……もうちょっと、このままで……」

「――あ、ああ……。……うん。それじゃあ、行こっ……か」


 さっきは衆人から逃げ出す為に夢中で握った闇朱の手を、拓人は形と温もりを確めるように包み込む。

 離し難い温もりに、二人の歩調は自然とゆっくりしたものになっていた。




「よう、ホーケー。折角の祭なのに一人きりかよ?」

「さびしー奴だな、お前ぇはよぉ!」

「可哀そうだから俺らが付き合ってやんよ」


 真黒川にかかる大きな橋の下、祭で賑わう場所から離れた暗がりの中に四人の人影が揺れていた。

 背の低い一人は法健で、それを囲むようにしている男子の三人組は、学校で法健の漫画をバカにした連中だった。

 制服姿のままの法健と、ラフな私服姿の三人組。

 橋を支える巨大な柱には、スプレーで描かれた髑髏やアルファベット文字の落書きが並んでいる。


「おい何とか言えよー、ホーケー。俺とお前の仲だろぉ?」

「昼間は悪かったって。ちょっとフザけただけじゃん? ……な?」

「んなビビんなよっ! そんなんだから苛められるんだわ、テメェはよぉ!」


 ぼんやりと虚ろな表情で立ち尽くす法健は、三人組の野次やじを受けながら人形のように無反応で沈黙を保っている。

 普段であれば怖れ慄く仕草を見せてきた法健の変化に、三人組も不思議そうに顔を見合わせていった。


「何だコイツ? 黙りこんでさ、さっきから」

「シカトしてんの? なぁシカトしてんのかよっ!?」


 バシッ。三人組の一人が法健の太腿を狙って、蹴りを入れた。

 がくんっと上半身を揺らし、倒れそうになる法健を狩谷が羽交い絞めにする。


「良いじゃねーか。それじゃあどれだけ無視できるか、試してみようぜ?」

「お、サンセー。どうする? 腹パンいっちゃう?」

「それよりさ、ホーケーは本当に包茎なのか試してみるのは?」

「ぶわっは! それイイ! それだ! よっし、オレが抑えてるから脱がせ脱がせ!」

「よっしゃー! どうする? 毛も生えてなかったりしたらさ~?」


 楽しそうに言葉を交わす三人組の一人が、身動きの取れない法健のベルトに手をかけた。

 その瞬間、それまで黙り続けていた法健が小さく口を開いた。


「…………さい」

「は?」

「何か言った? コイツ」

「……うるさい。……馬鹿共」

「あぁっ? おい今バカっつったか? ホーケー」


 感情のこもっていない役者の台詞みたいに、法健の口から漏れた言葉。

 それを聞いた三人組が怒りの表情を浮かべ、高圧的な態度で法健に迫るが。


「ホーケーじゃない」

「アアンッ? っせーぞホーケー野郎!」

「調子乗ってんじゃねーぞコラ、おい」

「やっちまおうぜコイツ!」


 淡々とした表情で呟く法健に眉を吊り上げた三人組の一人が、拳を振り上げる。

 暴力の塊と化したソレが、法健の顔面に叩き付けられるべく振り下ろされた。

 その刹那、法健の双眸がカッと大きく見開かれる。


「――僕は法健だぁっっ!」


 低かった感情の温度を一気に爆発させて、空気を裂く法健の叫び声が薄暗がりの闇に響き渡っていった。

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