地球環境の考察。
結局地球温暖化のストップはなかなか成功しなかった。じりじりと平均気温は上がり続け、ついにこのままでは人類は破滅という所まできた。
全ての国と地域は集合し、エゴの追求をやめ、これまでの責任の追及もしないと決めた上で、全世界の指導者が集まり、何が何でも温暖化を止めるための会議を開催した。
この会議をもっとも強く提案したのは日本だった。世界トップクラスの環境保護技術の無償提供、資金提供その他を約束し、会場の提供も実施した。
「壮観ですな。全世界からこれだけの指導者が集合するとは前代未聞ですよ」
官房長官が感心したように隣の内閣総理大臣を見る。
「国力が傾いても仕方のない覚悟で資金を提供したからな。うまく温暖化を止められれば日本は全世界での地位をいっそう、いやここはそんなそんなことを言ってはいられないだろう場合だ」
長官の追従に一瞬ほおを緩めた総理だったが、すぐに表情を険しくした。
「色々と考えましたから。地脈龍脈。風水その他、神頼みまで駆使して各国の機嫌をとって、この大会議の開催までこぎ着けました。実際この会場も龍脈の真上ですし」
広い会場にあふれんばかりの各国の指導者に随員、さらにマスコミまで万単位の人間がうごめき、大声で論議を戦わせていた。
と、地面が大きく揺れた。会場のざわめきも同じく大きくなった。
「全く温暖化だけでも頭がいたいのに地震までもか」
「もしかして、海の環境悪化で大々的に地下水のくみ上げ行っていることも影響しているのでしょうか。いやそんな程度で」
総理の舌打ちに長官も頭をひねる。
『うるさい。黙れ。頭がいたくなる』
突然、会議場にいた全ての人の頭の中に声が響いた。
「なんだこの声は。我々は重大な話し合いのさなかだ。分かっているのか」
総理大臣はその大きな声に頭を抱えながら怒鳴り返す。
「この会議は地球のいく末を決定するのためのもの。重大性が分かっているのか」
官房長官が加勢をする。
『知ったことではない。虫けらが』
尊大に声が吐き捨てた。同時に大地が再び大きく揺れた。
「総理が正しい。あなたに地球の未来に対する興味はないのか」
「我々の未来全ての生き物の未来。それを守っているのが分からないのか」
会議場の人々が一斉に声に反論し始めた。さしもの広い会議場もワンワンと大音声に揺れた。
「我々、日本人がどれほどの覚悟と金銭をこの会議に注いできたか。初めて日本が全世界をリードしようとするこのときに」
ついに総理大臣の口から本音がこぼれ出た。
『黙れと言っている。もう許さん』
頭の中の声が響く。同時に大地が割れた。
「なんだ噴火だと。ここは火山じゃないぞ」
「助けてくれ」「天変地異だ」
頭の中の声など人々の心の中から消し飛んだ。火柱が会議場を包み込む。悲鳴や怒号が乱れ飛んだ。
『愚か者が。我の眠りの邪魔をしおって』
火に包まれ消えていく人間を感じながら声が低く漏らした。
地球は五十億年ぶりに目を覚ました。表面についた垢、人間が大地と呼んでいた薄皮や、大気と呼んでいたよどみを中に住み着いていた雑菌ごと振り払い、地球は生まれた当時の姿を取り戻す。
『全く我の体表に余計なものがついてしまったわ。しかしこれですっきりした』
燃え上がる火球と化した地球は久方ぶりに見る母親、太陽に安堵の視線を向けるのだった。