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24/29

24 誘拐

 事件が起きたのは、あの夜会から一週間ほどすぎた頃でした。

 侯爵家にお世話になり続けるのも気が引ける現状。

 私と侯爵邸の皆様とで、帰る・帰らない、のやり取りを繰り返していました。

 王宮でもそうでしたが、実際いつまでもお世話になるわけにはいきません。


「メルウィック様……」


 どうなのでしょう?

 夜会では楽しさもあって、自分たちが結ばれる未来も想像できたものですが。

 そのあとに婚約の打診もないなら、メルウィック様にはそんなつもりはない、のかと。

 不安になり、でも、そもそも私の気持ちが……とか。

 いろんなことを考えてズルズルと。

 一度、両親に今後のことについて相談するべきだと思ったんです。


 それに私も身を守る魔法を習得しました。

 攻撃系は少し苦手で、誇張なく針程度になってしまうんですよね。

 たぶん『出力が大きい』ということで、無意識に力を出すのを絞っている影響、とメルウィック様が言っていました。


 うーん。その。まぁ、個人の気質によるのですが、攻撃が苦手な女性は私でなくても沢山いるのではないかと思ったりします。

 魔法を習得していくにあたって微かな期待を持ち始めたことがあります。

 それは、魔術師としてもメルウィック様のパートナーとして立てるのではないか? ということです。


 実際、その才能は秘めているのですよね、私。

 【黄金魔法】は、その証明だとメルウィック様はおっしゃっていましたし。

 ……まずは身体保護、そして結界の魔法の完全な習得ですよね。



 そんな折。またラカン殿下から手紙が届いたのです。

 ガレス嬢に指摘された件があるから、ちょっと気まずいですね。

 いえ、まぁ。ラカン殿下からは何も言われていないので気まずいも何もないのですが。


「あら、シンプルなお手紙」


 呼び出しですね……? それも侯爵邸のすぐ近く。

 侯爵領は治安のいい場所です。女性の独り歩き自体は、そもそもおすすめされませんが……。

 侍女の一人も実家から連れてきていない私は外出時に……婚約者の家でもない侯爵家の方々の手を煩わせるのに気が引けるのですよね……。

 正式な関係であれば、かまわないと思えるかもしれませんが……。


「……書き置き、残して出ますか」


 普通の? 令嬢よりは動ける私です。魔法も新しく覚えました。

 うん。何も心配……ないですよね! と。

 ……あとで、とっても反省する、反省させられることを、この時の私は考えていました。



「あら?」


 馬車をお借りして街に出ました。

 意外と庶民的な場所に呼び出されていますね?

 王子らしくはないですが、相手はラカン殿下。平民と最も距離の近い王子様ですからね。

 私は表通りを呼び出された場所を探しながら進んでいました。

 それで裏路地に続く道の近くを通った時です。


「!?」


 グイっと強い力で腕を引っ張られました。

 何が起きたかわからぬまま、口を塞がれ、目を塞がれて。


「!?!?」


 何! 何なの!?

 起きた問題が処理できず、固まっているうちに私は……拘束されていました。


「!?!?!?」


 猿轡。両手の拘束。目隠し。怖いと感じる暇すらもありません。

 何かが起きた。望ましくない出来事が、です。


(メル……ウィック様……!)


 一人で外出してしまったことを後悔しました。

 メルウィック様を思い浮かべ……、最近教えていただいた魔法を思い出します。

 身体保護の魔法。それも黄金属性の。

 金属でありながら柔らかく、加工しやすい黄金。

 メッキのように全身を包み込むイメージと、何者にも穢されない高潔なイメージを重ねる。


 たとえ拘束されていようとも、私を何人(なんびと)にも穢させることのない魔法。

 身を守るのが今は精一杯です。ですから……私ができるのは信じることだけ。


「…………!」


 身体保護をしつつ、防衛反応のように周りを輝かせます。

 目隠しをされて見えませんけれど。

 そして……『残る黄金』を涙のように溢しました。私の魔力残滓。道標。

 メルウィック様だけは……追いかけてこられる証。


(メルウィック様……助けに来てくださると……信じています……!)


 私は身を固め、道標の黄金を残しながら、彼の助けを待つと決めたのです。


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