マーモのピンチ
グリット教団、教皇室。
「くそ!」
教皇は腕を振り、飾ってあった花瓶を割る。
「教皇様、落ち着いてください!」
部下が宥めるも怒りは収まらない。
それもそのはずだ。最近、マモ教の普及が激しく、多くの信徒を奪われているのだ。
まだ、問題はないが将来的には邪魔でしかない。
「早いうちに芽は取っておかなければいけない」
教皇は静かに告げた。
「つまり、極秘に排除しろと?」
「いや、それでは私に疑いの目がかかる。事故に見せかけて殺せ」
空には暗雲が立ち込め、厚く空を覆っていた。
マーモの知らぬところで邪悪な手が伸びていた。
そうして、数週間後。
「あれがターゲットか?」
「はい、この一週間、住人からの聞き込みで確認できました」
男の目にはただの太った可愛い生物にしか見えないが、本当に賢者なのだろうか?
「確かな、情報だろうな?」
「ええ、実際話もしました」
「話せるのか?」
「いえ、キュイとしか鳴きませんが、付き人の女が通訳してくれます」
「それで意思疎通は出来ているのか?」
「はい、確かに、こちらの話を理解しているようでした」
ふむ、見た目によらずかなり賢い。
どうも情報通りあれが賢者か……可愛いのだがな……
と、いけない。
ターゲットに情が湧くなんてプロ失格だ。
俺は気合を入れなおして、さっそく行動に移る。
手段一。
飲み物に毒を入れる。
「マーモ様!」
「キュイ?」
「これをどうぞ。俺特製のジュースです!」
「キュイ!」
ターゲットは何の疑いもせずジュースを飲み干す。
ふ、あのジュースには徐々に回る毒が含まれている。
こうして毎日飲ませていけばいずれは……
一週間後。
「キューイ!」
ターゲットはぴんぴんしていた。
と言うか、むしろ毛並みがつやつやしていた。
俺、健康ジュース飲ませていたっけ?
その日も飲み干し元気よく去っていくターゲット。
「毒を入れ忘れたか……」
男は自分で飲んでみる。
「あ、これ毒の味だ……」
バタ。
男はそれから一週間寝て過ごすことになった。
手段二。
誤って弓矢を当てる。
そこは多くの若者たちが弓の練習をしているところ。練習場だ。
そこにターゲットはのんきに立って見学している。
まるで、「精が出るね」と言うように立っていやがる。
それを活かして俺はわざと矢を外して、ターゲットに当てる。
だが、それは当たることなくリリーによってキャッチされる。
は?
「あなた!気を付けなさい!」
「すみません……」
なに、あんた、当たり前のように矢を手でキャッチしてるんだよ!?
ここの連中は化け物か!?
それからさらに二週間。
「ここはおかしい……」
「どうしたんですか?兄貴」
俺はらしくもなく部下に愚痴を吐く。
「あのな、ここの連中はターゲットに当てようと落とした岩を、素手でたたき割るし、大量のくぎを置いておいたらそれを何事もないように踏み壊していくんだぞ?」
「あ、兄貴?」
部下はこれまで見たことのないような上司の姿に戸惑う。
「あいつらは化け物だ……俺らじゃ殺せない…」
「そ、そんな!!今まで、仕事の成功率は百パーセントだったじゃないですか!」
「相手が悪すぎる……」
男の殺意は消えた。
「キューイ!」
今日も今日とてジュースをもらいにのんきにターゲットが来る。
今日は普通のジュースだ。本当においしそうに飲みやがる。
「キュイキュイ!」
「マーモ様がお礼がちゃんとしたい。どこかケガや持病はないかとおっしゃってます」
「ケガ?なら、これぐらいですかね……」
俺は肘を見せる。
「医師もさじを投げた傷です。治せますか?」
「キューイ……キュイ!!」
「頑張ってみるとのことです」
そうしてターゲットは俺の肘を撫でだす。
ただ撫でているだけなのに暖かく気持ちがいい。
「キュイ!」
そうして撫で終わると満足そうに鳴く。
その瞬間、確かに肘の違和感がなくなったのが分かった。
「う、嘘だろ!?」
肘にあった大きな傷はなくなっていた。
俺の目からは自然と涙が出てきていた。
「俺……この傷のせいで騎士になるのを諦めたんです……」
俺は騎士に憧れていただが、この傷を実の父から受けてから人生は変わった。
それが一瞬で治った。それは、希望が再度芽生えるには十分だった。
「これで……また騎士を目指せる……ありがとうございます……」
「キュキュイ!」
ターゲット、いや、マーモ様はにっこり優しく笑う。
その笑顔に誓う。もう殺しはしない。助ける番だと。
こうして、マーモのあずかり知らぬところで暗殺計画はなくなった。
だが、これは序の口なのだろう。
これから世界を相手にする彼には。
拝啓、母さん。父さん。
ジュースっておいしいよね!
最近の日課なんだ!
近所の優しいおじさんが作ってくれるんだ!
はは、この世界は優しいよ。
のんきな息子より。
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