俺、マーモットになりました。
「キュイ!」
「おお、魔物が逃げていく!」
いや、ただ鳴いただけなんだが。
見たこともない生き物が、砂煙を上げて全力で逃げていった。
「賢者様じゃ!」
「ああ、賢者様に違いない!」
え、いや、俺、ただのマーモットです。
「キュイ、キューイ」
俺は短い手を振る。
「え、お礼はいらないですか?」
「なんと慈悲深い!」
全然違うのだが。
全く話聞かねー人しかいないな。
あ、でもマーモットだから言葉喋れてないんだった。
「すべてこれでも是非に」
そう言って村人はニンジンを差し出してくる。
さすがに生では食えないぞ?
俺はベジタリアンではない……おい!無理やり口に入れるな!
……うっま!
「キュイ!キュキュイ!」
「おお、喜んでいられる」
癪だがそれは正解だった。
どうでもいいとこは伝わるんだな。
しかし、どうしたものか。
この村人たちは敵ではないみたいだが。
まあ、今はとにかく美味しいごはんももらえたしいいか。
「キュイキュイ!」
俺は体を曲げお辞儀をする。
「いえいえ、感謝など恐れ多い」
いや、恩もある。
それはよくない。
俺は何とか伝えるために手を振る。
「気にしないでくださいませ、賢者様」
さっきから賢者様って何なんだ?
ずっと俺のことを見てからずっと言っているが。
まさか、俺と同じく転生した奴がいるのか!?
いや、ないな。
マーモットに転生なんて俺ぐらいだろ。
こんなヘンテコ転生。
とにかく、このままは忍びない。
すべてこの村に何かあったときは俺が守ろう。
「キューーイ、キュイ!」
胸を大きくたたく。
「あれ、もうお腹がすきましたか?」
村娘に完全に勘違いされた。任せとけって言いたかったのに。
肩を落として落ち込む。
「すみません。少し待っていてくださいね?」
「キュイ……」
もういいや、ご飯で。
そうして持ってきてくれたニンジンを頬を膨らませて食べる。
「か、かわいい!」
村娘は俺を抱きかかえる。
やめれ、ご飯中だぞ。
だが…なかなか心地がいいな。
やはりマーモットに転生したからか、感覚が動物的だ。
人に抱かれるのが心地いいなど子供の時以来だ。
俺は大人しく抱かれてどこかに連れていかれる。
そこは少し、カビの匂いと何とも言えない匂いがした。
暗くてじめじめしている洞窟だった。
「見てください」
「キュイ?」
そこには絵が彫られていた。
見たことのある動物たち猫、犬、キツネ、狸などが、描かれていた。
これは……どうしてこの異世界にあの世界の動物が?
「これは昔から伝わっているお話で天からの祝福を受けた謎の生き物たちが描かれています」
天からの祝福?
そんなものがあるのか。
「そしてここに書かれている生き物たちはすべて賢く人の言葉を理解し、人を助けて下さり知識をくれた賢者様たちです」
つまり、俺と同じく転生した生き物の可能性があるのか。
確定ではないが希望が持てたな。
「あなた様も賢者様ですよね?」
「キュイ?」
いや、だからただのマーモットだから。
俺は首を横に振る。
「もう、謙遜しなくていいんですよ?」
村娘は頭を強制的に撫でてくる。
「キュイ!キュイ!」
やめれ、俺は動物では……いや、今は動物だった。
クッソ気持ちいい!!
俺はなでなでの心地よさに完敗した。
「キューイ……キュキュイ!」
は!?
しまった。ついなでなでの魅力に騙されるとこだった。
俺はじたばたして抱っこから降りる。
「賢者様?」
「キューーイ!」
だから俺は賢者ではない!
必死に短い手を振る。
「か、かわいい!!」
「キュ、キュイ……」
駄目だ。
この魅惑のボディでは話が通じない。
俺は必死に伝える方法を考える。
視線を下に向けるとそこにちょうどいい石が目に入った。
これだ!
「キューイ、キュイキュイ」
俺は地面に文字を書く。
「俺はこの世界の人間ではない」
彼女は固まる。
無理もない。
こんな話信じられるわけない。
俺も信じられなかった。
俺は普通の会社員だった。
あまりの激務で疲れてマーモットカフェに入りそこでふと寝てしまった。
そして、気がついたら異世界でマーモットになっていた。
そしてなぜか――
賢者扱いされている。
今ここだ。
な?意味わかんないだろ?
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