第1章 はじまり
これは、ごく身近にいる平凡な会社員「宮村 凛」の日常。
愛とはなにか。幸せとはどういう事なのか。
どこまでが仕事で、どこまでが我慢をするべきなのか。
自分を守る為に人格・生活が次第に変化していく。
果たして「凛」はどこまで変わってしまうのか…
「起きなさい!入学式遅れるよ!!」
朝、大声で叫ぶお母さんの声で目が覚めた。
『入学式ってなにー?』
私は目を擦りながら起き上がり、お母さんの元へゆっくりと歩いて向かった。
「何って、今日から小学生になるって言ったでしょ!
ほら早く顔洗って朝ご飯食べて支度して!!」
お母さんの叫ぶ声にビクッとしながら急いでご飯を食べて支度をした。
目の前には見慣れないリュックと黄色い帽子が置かれていて、それを身につけて学校という場所へ向かうようだった。
お父さんが車を運転し、お母さんが助手席、私は後部座席に座り窓の外をじっと眺めていた。
物凄いスピードで通り過ぎていく見慣れない街並みに、歩道を歩く人々。その見たことの無い光景を私は静かに見つめていた。
[ピー、ピー、ピー、ピー]
車がゆっくりと停止し、目の前には今まで見たことの無い大きな建物があった。
「着いたよ。ほら、帽子被って車おりて!」
お母さんの言う通りに車をおり、ゆっくり周りを見渡した。そこには私と同じように黄色い帽子を被った小さな子供達が楽しそうに走り回ったり、お喋りをしていた。
『ママー?あの人だれ??』
「お前と同じ小学校に入学する子達だよ。仲良くしなさいね。」
『おなじ、、、、』
私はよく分からないままお母さんについて行き、建物の中へ入ったと思ったら上履きと呼ばれる靴に履き替え、お母さんは目の前にある掲示板を見つめた。
「お前は1年1組だってさ。そこにお前の席があるからそこ座って待ってなさい。」
お母さんはそう告げると、私を置いて大人たちの方へ歩いて向かった。
(1ねん1くみってなに??せきってなに??)
私は訳が分からないまま廊下を進み、一番始めに目に入った扉をゆっくり開けた。
扉の向こうには沢山の机、自分と同じくらいの背丈の子供達が集まっていた。
見慣れない光景に驚き、思わず入口で立ち止まっていた。
すると、何かが思いっきり私の肩にぶつかり、よろけて転んでしまった。
「あーー!邪魔だよ!!」「なんでとまってんだよ!」
私は怖くなり思わず泣きそうになった。すると一人の子供が私の方へ歩み寄り、大丈夫?と声を掛けてくれた。
その後ぶつかった子供達に向かって、大声で叫んだ。
「ちょっと!!ちゃんと前見なよ!走るな!!」
その子は私の代わりに叱ってくれた。私は嬉しい気持ちの反面、怖い気持ちでいっぱいだった。
するとその子は私にゆっくりと話しかけた。
「ねえ、名前なんて言うの?私、武田未来って言うの!よろしくね!」
『あ、、宮村凛、、、だよ、、、』
未来はにっこりと笑い、私の手を引っ張った。
「凛ちゃんね!今日からお友達だね!私と席隣だから一緒に行こ!」
私は何がなんだか分からない状態のまま未来ちゃんについて行き、お互いの決められた席に座った。
[キーン コーン カーン コーン…]
大きなチャイムの音が鳴り響き、大人が一人入ってきて私達の前に立った。
「新入生の皆さん、おはようございます。担任の佐々木潤子です。佐々木先生と呼んでください。今日から一緒にお勉強頑張っていきましょう!よろしくお願いします」
【【よろしくおねがいします!!】】
佐々木先生の挨拶が終わった途端、クラス全員が一斉に挨拶を返した。私は何が起こっているのか分からずただ戸惑う一方だった。
その後入学式は無事に終わり、沢山の大人達が子供達を迎えに来て楽しそうに会話をしながら教室を出て行った。
そして、未来ちゃんもまた明日ねと手を振り、両親と楽しく会話をしながら手を繋いで教室を出て行った。
私は一人教室で両親を待ち、窓の外をじっと眺めていた。
教室の中は静まり、私一人が残されているという状況に孤独感を感じ、次第に涙が込み上げてきた。
しばらくすると、廊下の方からゆっくりと近づいてくるスリッパの音が聞こえた。
「ごめんごめん、さあ帰ろっか!」
声がした方へ顔を向けると、そこにはお母さんの姿があり、私はやっとこの教室から抜け出すことができた。
今日のお母さんはなぜか上機嫌で、お父さんの車に乗車すると、物凄いスピードで走る車の中でお母さんは鼻歌を歌っていた。
私はその鼻歌にただ耳を傾け、また窓の外をじっと眺めていた。
そして半年後...
私は学校生活にも慣れて、一人で通うことができるようになり、友達もできていた。
初めはあんなに戸惑っていたが、先生方やクラスメイト、授業で使う教科書や本を読むことにより、どんどん知識も身についていった。
そんなある時、この学校生活を過ごして気づいたことがあった。それは、クラスメイトの全員は保育園か幼稚園に通っていて、それから小学校へ入学したということだ。
今まで保育園や幼稚園の存在を知らず、家で過ごしてきた私にとって、友達の作り方や勉強の仕方、幼なじみの存在や男女の違いが分からず、それが皆との大きな違いでもあり、悩みの一つにもなっていた。
皆が過ごしてきた環境と違うことによる私の空気の読めなさや、わがまま、口が悪いところが次第に目立つようになり、気づけば皆が少しずつ遠ざかっていった。
ある日、いつも通り教室に入ると、窓際で3人グループの女の子達がコソコソと私のことを見ながら聞こえる声で呟いた。
「ねぇねぇ、保育園入ってない子っているんだね(笑)」
「凛ちゃんってなんかちょっと変わってるのもそういうことなんじゃない?(笑)」
「可哀想、友達の作り方教えてあげる?(笑)」
クスクスと笑いながら私を馬鹿にする女の子3人に対し、次第に顔が熱くなるのを感じ、思わず大声で叫んだ。
『うるせーんだよ!そこのブス共!!消えろ!!』
すると急な出来事で驚いたのか、女の子3人はその場で泣いてしまい、泣き声を聞いて急いで駆けつけた佐々木先生が教室の入口に立っていた。
クラスメイトの一人が佐々木先生に事情を説明し、私は佐々木先生に手を引っ張られながら職員室に連れていかれた。
佐々木先生は私を職員室の奥の部屋まで連れていき、扉を開けたすぐ目の前にあるソファを見つめ、静かな声でここへ座りなさいと言った。
私は言われた通りソファに座ると、今まで見たことの無い怖い顔をした佐々木先生がじっと私の顔を見つめ、どういう事なのか、何があったのか説明しろと問いかけた。
私は言われたことをそのまま伝え、涙ぐみながら悔しかったこと、悲しかったことを一生懸命伝えた。
話終わった後、佐々木先生は何かを考えるような仕草をし、ゆっくりと口を開いてこう話した。
「宮村さん、全部あなたが悪いです。何か言われてもそんな悪い言い方はだめですし、何か言われる原因を作ったのではありませんか?。それにお母さんとお父さんもお家では口が悪いんですか?さっきの3人にちゃんと謝ってきなさい。分かりましたね?」
『……え??先生、先に喧嘩を売ってきたのはあの子達です!なんで私だけ謝らないといけないんですか!?』
「あなたが全部悪いって言ってるでしょ!面倒事起こすなよ!今日謝らないならお母さんに電話するわよ!!わかりましたか!?」
佐々木先生のあまりの強い口調に私は驚き、職員室を飛び出し、教室に置いてある自分の荷物を持って急いで学校を出て行った。
しばらく走り続けると、小さな公園見えてきた。
疲れてきっていた私は、目の前にあるブランコにゆっくりと腰掛けた。
(なんで私ばっかりこんな目に遭うの。なんで保育園行かせてくれなかったの、、。友達って何、、。先生も酷い!!なんで気持ちわかってくれないの!!)
怒りが込み上げると同時に悲しい気持ちも込み上げてきた。
誰かに縋りたい、誰かこの地獄から助けて欲しいという気持ちが次第に強くなり、お母さんならわかってくれるかもしれないと思い、ゆっくりと家の方へ向かった。
『ただいまぁ、、』
靴を脱いでカバンをおろし、部屋へ上がるとそこにはあぐらをかいて座る怖い顔をしたお母さんがいた。
私はふと学校での出来事を思い出し、お母さんに必死に説明をしようとした。
『ママ、聞いて!!学校でクラスの子がね!…』
「あーーもう!うるせぇな!!言い訳するな!!!問題起こしやがって、、。今日夜ご飯無し!!どうせお前が悪いんだろ!この馬鹿女!!」
お母さんは私に強く怒鳴り、拳で思いっきり頭を殴った。
あまりの痛さに私は大声で泣き叫ぶとさらに殴り、手首を掴んで玄関から外へ追い出した。
「良いって言うまで家に入ってくんな!クソっ!!」
私は裸足のまま外へ出され、玄関の前に座り込んで静かに涙を流し、ただ許してもらえるのをじっと待っていた。
しばらくすると車の音が聞こえ、お父さんが帰ってきた。玄関の前で座り込む私を、お父さんは驚いた顔でじっと見つめ、正気に戻ると邪魔だと言い放ち、私を蹴って家へ上がっていった。
気づけば辺りは真っ暗で、外から見える隣人の部屋の明かりは消え始め、静寂な空気がどんどん増していった。
しばらく時間が経ち、ようやくお母さんが玄関の扉を開け、入りなさいと呟いた。
私はゆっくりと部屋へ上がり、台所をふと見るとテーブルには食べ終わったお皿だけが残っていた。
それを静かに見つめていた私に向かってお母さんは
「皿洗ったら風呂入って寝ろ。もう面倒事起こすなよ。」
そう強い口調で言い放つと、自分の部屋へと消えていった。
私は言われるがままにお皿を洗い、急いでお風呂へ入り、まっすぐ自分の部屋へ上がって布団に潜った。
そして息を殺しながら泣いた。
(もう限界。味方が一人もいないならもう死にたい、、なんで私を産んだの、、、。こんな家早く出て行ってやる。)
こうして身も心も壊れてしまった私は、自分の身は自分で守るんだと強く胸に誓い、ここで初めてもう1人の自分が誕生することとなった。




