転生したらバッドエンド
らめぇ
気がついたら、俺は石畳の上に転がっていた。
目を開けると、目の前には絵に描いたような中世ファンタジーの城門。
そして、金髪碧眼の美しい王女様が、
まるで俺を待っていたかのように駆け寄ってきた。
「勇者様!ようこそ異世界へ!」
おお、これぞテンプレ。
転生ものの黄金パターン。
俺は心の中でガッツポーズを決めた。
これから始まるのは、魔王討伐の大冒険、そして王女とのロマンス……
そう信じて疑わなかった。
だが、次の瞬間。
「勇者様をお迎えするのは私ではありませんわ」
王女はにっこりと笑い、背後を振り返った。
そこに現れたのは、筋骨隆々の騎士団長。
彼は王女の肩を抱き寄せると、俺の目の前で――
「姫、今宵も共に」
「ええ、団長♡」
――いきなりディープキスをかました。
……は?
俺の頭の中で警鐘が鳴り響く。
いやいやいや、ちょっと待て。
勇者召喚の出迎えイベントって、普通は王女がヒロインポジションじゃないのか?
なんで初対面の瞬間に寝取られてんだ俺。
「勇者様、あなたの役目はもう終わったのです」
団長が冷たく言い放つ。
「いや、まだ始まってもいないんだけど!?」
抗議する間もなく、俺は兵士たちに取り押さえられた。
そして連行された先は、なぜか城の地下牢。
鉄格子の向こうには、ひとりの少年が待っていた。
「やっと来てくれたんだね、勇者様」
白い肌に、幼く中性的な顔立ち。
大きな瞳が潤んでいて、桜色の薄い唇――まるで少女のように可憐だ。
しかし、その笑みはどこか昏い……。
「ぼく、ずっと勇者様のことを夢に見てたんだ……これからは、ずっと一緒だよ?」
背筋に冷たいものが走る。
いやいやいや、なんで俺、召喚された瞬間から監禁ルート一直線なんだよ!?
もっとこう、冒険とか、仲間集めとか、そういうのは!?
「安心して。食事も寝床も用意してあるから。でも……外には出さないよ。勇者様は、ぼくだけのものだから」
少年は俺の手を握りしめ、頬をすり寄せてくる。
甘い声。けれど逃げ場はない。
鉄格子の外は見張りの兵士たち。鍵は少年の首に下がっている。
「さあ、勇者様。これから永遠に、ぼくと一緒に――」
俺は必死に叫んだ。
「待て!俺は魔王を倒すために――」
「魔王?ああ、あれならもう倒したよ。ぼくが」
……。
……は?
「だから勇者様の役目はないんだ。あとは、ぼくの隣で笑ってくれるだけでいい」
完全に詰んだ。
転生した瞬間から、物語はエンディングを迎えていたのだ。
俺は鉄格子にすがり、最後の抵抗を試みる。
「やめろォォォォォ――!」
だが、少年の腕は容赦なく俺を抱きしめる。
甘い香りと、逃げられない力。
そして俺の口から、無様な悲鳴が漏れた。
「ひぎぃ」
――その瞬間、俺の異世界冒険譚は幕を閉じた。
後日談「んほぉぉ」




